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[アーティスト田中拓馬インタビュー3] 頭から木が生えてはいけないのか!?

このページは、画家・アーティストの田中拓馬のインタビューの3回目です。今回は、田中拓馬に写実性から表現論まで語ってもらいました。
(前回の記事は、記事一覧からご覧ください。)

今回の内容
1.写実的な作品は悪なのか?
2.写実はいかがわしいけど、それがいい!?
3.画家は世界を再構築する!
4.ショックを与えるのは絵画の1つの意義!

 ー 今日は絵画の写実性について聞いてみたいんだけど。
拓馬 写実だと、最近デイヴィッド・ホックニー(※)の「絵画の歴史」という本を読んでいるんだけど、その中にこういう話があってね。ソクラテスやプラトンは、絵の写実主義に対して警鐘を鳴らしていたらしい。

(※ デイヴィッド・ホックニー:イギリスの代表的なポップアート画家。作品の値段が最も高い存命の作家といわれている。インタビュー中で言及されている本は「絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで」【青幻舎】。)

 ー その時代から写実的な絵があったんだ。
拓馬 ホックニーによると、プラトンの同時代にゼウクシスという画家がいて、ブドウの絵を描いたら、あまりにもうまくできていて、鳥が飛んできたという逸話があるらしい。
 - それは多分嘘だ(笑)
拓馬 嘘なんだろうけど、まあそれぐらいうまかったみたいなんだね。それで、その時代の画家は写実的な作品を描くことで大儲けをして、プラトンとかソクラテスは警告を発したらしい。
 - なるほど。
拓馬 この本に描かれているソクラテスの言葉を読むね。
『絵は物が実際にどのようなものかに目を向けず、それがどう「見えるか」しか問題にしないからです。水に差した枝は曲がって見えるけども、それは真実ではない。情景を描くもの、奇術師やその仲間は私たち生来のこうした弱みにつけこみ、魔法のような効果で私たちを出し抜く。』
 - つまり、絵というものは、そもそも偽物だっていうことかな。
拓馬 そういう話だね。

 - それで、君はどうしてこの話を面白いと思ったの?
拓馬 だって、写実性そのものを否定する考えってなかなかないでしょ。
 - ああ、なるほど。
拓馬 ホックニーのこの本は、もともと三次元の世界を二次元の絵画という形式に持ち込むことがそもそも無理があるという話なんだよね。そこを画家の技術でどうにかうまくやるという考え方なんだけど、それは悪いことじゃないと思う。でもソクラテスやプラトンはそれを否定しちゃっているのが僕にとって意外だったんだよね。
 - 君はどう思うの?
拓馬 僕はどっちかっていうと、もともと絵画は呪術的なものとかと結びついているものだから、いかがわしいというか、そういうものだと捉えているけどね。シャーマンとか、いかがわしいじゃないですか。そういうものの一つの表れとして写実的な方法があるということだよね。
 - 自分の作品についてはどうなの?
拓馬 僕はホックニーの立場に近いかな。自分の視点から、どう対象や世界を再構築するかというところが面白いと思っているからね。

 - 再構築するわけね。
拓馬 例えばね、これもホックニーの本に書いてあることだけど、地図というのは三次元の地球を二次元に落とし込むわけだから、どうしても無理が出てくるじゃないですか。それで、昔の地図だったら、正確なものではなくて、見たいように見て書いているかもしれないよね。
 - 正確な測定結果の反映ではなく、好きなように描いているっていうことだね。
拓馬 でもそれはそれで良いんですよ、そんなもんで。というか、僕はそっちの方が面白いと思っているんだよね、自由だし。それを写実的にやっちゃうと、その人の多様性が狭まるし、自由ではなくなるし、あんまりおもしろくないと思うね。
 - でもそれは、ホックニーの考え方とはちょっとずれていないかな? 僕はホックニーをちゃんと読んでいないけど、現実にないものを描く必要は無くて、現実にある物だけを描いても面白いんだ、というのがホックニーの考えなのかなと思ったんだけど。
拓馬 そうね。ホックニーは現実的な世界を描いているね。
 - 君の絵の場合は、色々な変なものがでてくるじゃない。宇宙人が出てきたり、頭から木が生えていたり。でも、それでも君は世界の一部を切り取って再構築しているという風に思っているわけだね?
拓馬 そうだね。でも現実に頭から木が生えないとは限らないよね。もともと僕は、遺伝子操作に興味を持って、ノーベル賞を取った生物学者の利根川進さんとか、立花隆さんとかの本を読んでいた時期があるんだよね。遺伝子操作でラットの皮膚に耳をつくっちゃうとかは実際に実現されているんだよね。頭から木が生えてもおかしくないと僕はそういうふうに思うんですよ。

 - でも、それをわざわざ描くこの意味はなんなの?
拓馬 それは、全部つながっているということですよ。例えば無機物と有機物の違いだってよくわからないじゃない。そのあたりが問題意識なんだよね。
 - じゃあ、狙いというか、それを見た鑑賞者にはどういう反応を期待しているのかな?
拓馬 ショックを与えるのが絵画の1つの意義だとは思っている。なんかこう(少し考えて)僕は普通の人の感覚は逆にわからないね。例えばさ、(エアコンの吹き出し口を指さして)あそこからエビチリが落ちてきてもいいわけじゃないですか。そういう装置が付いているかもしれないわけだし。既成概念を取っ払うと、もっと違った発想になってくるんですよ。僕も初めはこんな絵を描いていないからね。
 - なるほどね。
拓馬 でも普通の人たちは、あそこからエビチリがふってくると思わないわけじゃない。
 - だから作品にする意味があるっていうことね。
拓馬 まあそうだね。

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今日はここまでです。[アーティスト田中拓馬インタビュー]を最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回は「そのそも絵画とは、、」ということについて田中拓馬の考えを話してもらいます。更新は来週末の予定です。ぜひ次回もお楽しみに!

これまでのインタビュー記事はこちらからご覧ください。

田中拓馬略歴
1977年生まれ。埼玉県立浦和高校、早稲田大学卒。四谷アート・ステュディウムで岡﨑乾二郎氏のもとアートを学ぶ。ニューヨーク、上海、台湾、シンガポール、東京のギャラリーで作品が扱われ、世界各都市の展示会、オークションに参加。2018年イギリス国立アルスター博物館に作品が収蔵される。今までに売った絵の枚数は1000点以上。
田中拓馬公式サイトはこちら<http://tanakatakuma.com/>
聞き手:内田淳
1977年生まれ。男性。埼玉県立浦和高校中退。慶應義塾大学大学院修了(修士)。工房ムジカ所属。現代詩、短歌、俳句を中心とした総合文芸誌<大衆文芸ムジカ>の編集に携わる。学生時代は認知科学、人工知能の研究を行う。その後、仕事の傍らにさまざまな市民活動、社会運動に関わることで、社会システムと思想との関係の重要性を認識し、その観点からアートを社会や人々の暮らしの中ににどのように位置づけるべきか、その再定義を試みている。田中拓馬とは高校時代からの友人であり、初期から作品を見続けている。

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今回の見出し画像:A cake on a shop(一部のみ)
技法:油彩
サイズ:41×32(cm)
田中拓馬の初期の代表的シリーズ、頭から木が生えている一連の作品のなかから、特に奇妙なものを選んでみました。

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