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「戦略プロフェッショナル」三枝匡三部作第一弾 2002年の文庫本とは思えない躍動感。

 こんばんは、オオハシです。読書はあまりはかどってはおりませんが、本年は読み切ったけどレビューまで至らず再読な本が重なってきておりますので、今週も行ってみたいと思います。

 ひょんなことで知り合いとなったお客様より紹介されて読み始めた三枝匡さんの本、第一冊目。泥臭くてアツい実話をもとにした企業変革ドラマ。読み応えがあってグイグイ読み進められ爽快な読後感。本書は1991年3月初版で始まった書籍を2002年に文庫化されたものであるが、20年以上が経過した現在も輝きを失わない。 それでは本書行ってみましょう。

戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ

三枝 匡 著 
2002年 9月の本

 経営戦略室におられるあるお客様との何気ない会話の中で、
昨今では両利きの経営とか新規事業への探索とか言うけど、やっぱりミスミの三枝さんのような経営戦略理論を改めて学びなおして本業回帰戦略も重要じゃないかなぁ
とのやり取りがありました。ミスミの三枝さんって、確かに僕も若いころにハーバードビジネスレビューかなんかのケーススタディあたりで出てきたような記憶あり、興味があったので「ミスミの三枝さん」周りの情報をざざっと調べて本を三冊調達。ミスミの話に行く前に二冊は読んでおかねばとなって着手した「戦略プロフェッショナル」。 三枝さんがモチーフとなった「広川洋一」氏がまだ30代の中で、戦略を研ぎ澄まして競合にチャレンジしていく。

 自分はもう40代も後半になってしまっているけれど企業内ミドルの立場で経営陣・幹部陣の戦略を末端の若手社員まで落とし込んで目標達成に邁進していく、ど真ん中の役割にいることもあり、日々の行動と対比しながら読み進める。 

 「絞りと集中」を研ぎ澄まし、しつこいまでのフォローを繰り返して戦略を実行に落とし込む。「戦略は十分にシンプルか」含めプロダクトポートフォリオやセグメンテーションだけでこんなにもうまくいくサクセスストーリーにはなりえない、など斜に構えることなく、考えに考え抜いて戦略を導き出し、達成に向けて行動する。 
 先行きの見えない不確実な時代、と言われている中でも改めて読み直して行動のヒント(と行動へのエネルギー)を与えてくれる良書です。オススメです。


以下、抜粋引用です。
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埋もれたデータへの意味付け

 毎日夜遅くまで働いて大変でしたけど、社内にこんなにデータが埋もれているとは知りませんでした。
 広川常務に何か聞かれると、答えられないことが多過ぎました。
 それで、二人で情報を整理していくと、常務の質問の意味が分かってくるんです。
 常務に言われましたよ。

 「その気になって見れば、情報は目の前にたくさんあるのさ。それに意味をつけて、社内に発信してくれるやつがいるかどうかだ

 これまでファイルにしまいこんでいた書類から、私が思いもよらない解釈が次々と出てくるんで、私としてはちょっとショックでしたね。

戦略プロフェッショナル P89

いまでこそ、データ利活用だとか言われていますけど、確かに社内に埋もれた情報から、どのような意味づけをもって発信していくかって重要な活動ですよね。 こんなひょんなところにも本書の特徴はあるんだと思います。
神は細部に宿る。


目を社外に、考える組織へ

 なまぬるい会社に共通した特徴は、社員のエネルギーが内向していることである。
 個々の社員は真面目なのに、全体として何となく士気の低い企業はよくわる。会社がそうなってしまった原因は、必ず社内のあちこちにうずまいている。
 「お客様」と「競争相手」に対する意識が低く、もっぱら自分たちの都合がまかり通っていることが多い

(中略)
 広川は初めから、社員の目を社外との「競争」に向けさせ、彼ら自身がいい仕事をしているのかどうかを自ら考え、自ら判定させるというやり方をとりたかった。
 たとえその結論が彼らにとって悪い内容であっても、それを社内の誰かのせいかと責めることはしない。この先どうすれば良くなるかを、なぜ、なぜ、なぜと考えさせていくと、皆にはそれが他人事ではなくなってくるのである。

戦略プロフェッショナル P95

自分の所属会社を開示しているので、あまり踏み込んだことは記せないが、「自分たちの都合がまかり通っている」本当に耳の痛いコメントである。というか実際昨今よく感じていたところである。 「この先どうすれば良くなるかを、なぜ、なぜ、なぜと考えさせて」 いけるように周りの社員を鼓舞し、組織を導いていけるようになりたい。(というかならねば、という思いである)


戦略目標の設定と提示

 このように会社を強くするためには、組織の過度な不安定化が常に必要である。しかし、それが最大の効果を発揮するためには、同時または先行して、社内に向けて戦略目標が提示されていなければならない。皆がそれに向けて努力を結集し始めた時、組織の中に「ゆらぎ」が生まれ、それがさらに大きなアンバランスを受容する素地となる。だから問題は、当面の戦略目標をいかに設定し、組織のベクトルを束ねられるかどうかである。

戦略プロフェッショナル P120 

戦略プロフェッショナルなのだから、戦略に関する記述内容が多いのは当然だが、ここも重要なポイントとしてふせんをしたところ。戦略がシンプルでクリアで「絞り」がなされていることこそがベクトルの結集につながることは、20年を過ぎてのビジネスマン生活で感じている。 そしてその肌感覚はいまの組織での活動において顕著である。


限られた「時間軸」での戦い

 つまり、これから組み立てる戦略のすべての「時間軸」が、予想される競争相手の出現によって否応なしに制約されることになるからである。
 広川が気にしていたのはドイツ化学ばかりではなかった。日本のメーカーの参入の可能性を否定できないのだ。

戦略プロフェッショナル P153

レビューだけ御覧いただいた読者には申し訳ないが、シェアNo.1のドイツ化学が類似プロダクトを開発し、反転攻勢に出てくるシーン。昨今ではプロダクトライフサイクルが以前より短くなり、こうした競争優位なプロダクトが競合の開発スピードにより一気に危機に陥るシーンはありうると感じる。


プランニングの重要性

 「結果がいい線まで行っても、それが当初の目標とか計画から外れていれば、それは失敗だと。つまり本人だけが失敗の疑似体験をしているわけです」
 「そういう経営者は結果に不満だから、なぜだろうってあれこれ追及します。だから、いやでも因果律のデータベースが増えてくるんです」
 「しかし三枝さん、そのためには目標とか計画がはっきりしていないとダメですね」
 「社長、まさにそこがポイントなんです。失敗の疑似体験をするための前提は、しっかりしたプランニングです」

 社長のあなたが、ある程度論理的に筋道を立てた事業経営をしてみて、それがうまくいかなかったとしよう。次はその失敗をしないための工夫をしながら、もう一度筋道を立て直してみる。
 そうしたプロセスの繰り返しの中から、今まで考えなかったことに気づく。それが新しく見えた因果律だ。それが、また次のより良い意思決定の布石となる。
 つまりカンは本来、経験の蓄積から出てくるものだが、しかし筋道を立てて考えるやり方(プランニング)を繰り返すことでカンの体得が加速され、ただ経験に頼るだけの人よりもはるかにカンの冴えた経営者ができあがるのである。

戦略プロフェッショナル P170

 筋道を立てて考えるやり方(プランニング)を繰り返す重要性が記載された記述もふせん対応となった。ぼくは「プランニング」は実のところ、あまり好きではない。「プランニング」よりも、後述にもあるが「実行時のチューニング・計画変更、そして期末での振り返り」こそが重要だと考える人間である。
 というのも、これも所属している企業の特性でもあるかもしれないので深くは書けないが、文字通りのプランニングにものすごい稼働をかけるわりにはチューニングや振り返りが不十分、という点を肌で感じることが多いためである。

どうしてもプランニングは仮説であるし、ただの絵空事であるけれど、「プランニングの重要性」に関して、掛け違いがないか、気になるところである。


計画から何の前提条件が変わったのか

 「最初の計画を組んだ時に、前提条件として想定したことが何だったかを何かに書き留めておくといいですね」
 書いておくといっても、いつも正式な文書にする必要はない。社長が個人的にメモするのでもよい。時間経過とともに、もともと何をどう判断したのかが分からなくならないようにしておくのだ。

 計画が計画通りにいかないのは常である。それ自体をいくら責めたところで、いかないものはいかない。大切なことは、当初組み立てた成功のシナリオのどこが崩れてきたかを早く発見することである。

戦略プロフェッショナル P172

 これめちゃめちゃ共感する記述だった。当初計画がうまくいかないのは常であって、その傾向を1Q2Qでどれだけ早めに察知して修正計画を対応し、期末の結果につなげていくか。24年の経験でようやくできてきたところではあり、お恥ずかしいところではあるが、チーム目標・組織目標の達成に向けて邁進していきたい。


問題への「戦略プログラム」

問題の根源
(1)営業の「リーダーシップ」が足りない。
(2)販売の「目標」がはっきりしない。
(3)営業の活動に「絞り」がない
(4)製品の良さを説明するための「道具」が足りない
(5)代理店任せで「顧客」がつかめていない
(6)こんな状況でずっときたから何をやるにも「自信」がない

(中略)
 企業の経営改善には「戦略」が必要だ。
 そして、それを実行に移すための具体的「プログラム」が必要だ。

 社内の誰もが理解できる「単純な目標」と、その実現を支援してやるための一連の「プログラム」を打ち出すことによって、「目標と現実のギャップ」に橋がかかる。
 そうした手法を繰り返していかない限り、長丁場の経営改善は進まない。
 それを支えるためには、組織のなかに、「戦略意識」が醸成され、社員が共通の「戦略言語」を喋るようにならなくてはいけない。

戦略プロフェッショナル P188

ドイツ化学との最終決戦に挑む前に戦力を結集していくシーンでのコメント。「目標と現実のギャップ」に対しては一年生にも教育をしているけれど、やはりそのギャップに対してどういうアクションをとっていけるか、という点はいまだに「戦略言語」までは我々至っていないかもしれない。(だいぶ自組織の状況を吐露してきてしまった・・・)


業績の責任を背負う立場

 「企画ばっかりやって偉そうなこと言っていると、そのうち足腰が退化してくるし・・・」
 「私、何をやるんですか」 
 「営業部長」
 「エー?」
 それはないでしょう、私はまだ33歳です、そう叫びたくなりました。

 (中略)
 「君は自分で立てた案を自分で実行するのだ。営業部長として]
 「大変ですね」
 「言いっぱなしで人にやらせるより面白いよ
 「できるかどうか自信はないです」
 「君も将来の自分の成長を考えながら、若いうちにたくさんの部下をもって、業績の責任を背負う立場に早く立つ方がいい

 広川常務はそれを自分に向かって言っているような言い方をされました。

 将来事業化として成長することを望むなら、人の上に立つことに慣れなければならない。そんな経験はなるべく若いうちからやった方がいい
 自分がこの会社に来て一人で苦心してみると、しょせん、本当の人材は最前線の修羅場を通り抜けなければ育たないのだと分かった。

戦略プロフェッショナル P191

 私事で恐縮ですが、僕は40代後半になってもいまだに管理職に上がれていない。 「業績の責任を背負う立場」というコミットメントが足りていないように面接官に伝わっていたんだと思う。猛省して行動を変えていかねば。


目標数字と戦略を提示する責任

 「目標先行のプランニング」は、社員にも経営者にも高いテンション(緊張)を強いる。とりあえずは大した根拠もなしに、競争環境や経営者の野心に基づいて数字を出してくるのだから、こうしたやり方をすると、現実離れの数字が出てくることも多い。
 
(中略)
(2) トップに緻密さが欠けるために、「目標と現実のギャップ」を埋めるための具体的な戦略が作成されない。トップは目標の言いっぱなし、部下は無力感にとらわれるという図式になる。

(3)幹部やミドルの創造的発想が貧困で、彼ら自身で「目標と現実のギャップ」を埋めるための戦略を考え出すことができない。これも、突き詰めるとトップの責任でもある。長年こうしたことを問われたことのない社員たちに、いきなり考えろと言っても、彼らはそうすぐに頭を軟らかくすることはできないのだ。

 (中略)
 あなたが広川の立場で高い目標数字を口にしたからには、新しい戦略を提示する責任が発生している。その責任を全うしない限り、あなたはあてもなく大きな数字をブチ上げているだけの無責任な上司にすぎない。

 では、どうすればばなたはこの責任を全うできるのか。「目標先行のプランニング」を成功させるためには、指揮官であるあなた自身に、次の要件が備わっていなければならない。

(1) トップとして、強いリーダーシップを発揮する覚悟があること。その目標がなぜ達成されなければならないのかを部下に説得し、士気を鼓舞し、創意工夫を促し、「共に考え、共に戦う気概」を見せなければならない。

(2) 新しい戦略を考え出す作業手順をマスターしていること。作業のステップごとに、そんな選択肢があるのかをきちんとチェックし、責任者として自分でそれを詰めていく「緻密さ」を持っていること

(3) 誰もやったことのない新しい戦略を実行に移そうというのだから、多少のリスクは気にせず、また何があっても「夜はグーグーとよく眠れる」性格であること。

 実はこれは、実践的「戦略プロフェッショナル」の条件そのものである。リーダーであると同時に参謀であらなければならないというのは、ずいぶんしんどいことではある。

戦略プロフェッショナル P222

こちらも内部事情はあまり書けないのであるが、24年間のビジネス人生において、この部分はかなり響いた。「トップは目標の言いっぱなし、部下は無力感にとらわれるという図式」 を何度目にしたことか。
あてもなく大きな数字をブチ上げているだけの無責任な上司」 を何度目にしたことか。
自分が組織の上に立てるようになったら、反面教師として、「新しい戦略を提示する責任」を感じて行動していきたい。 

なんだかくちゃくちゃになってしまいましたが次で最後です。


「論理性」と「熱き心」の結合

 日本のビジネスマンの多くはいま、熱くなることを忘れている。「論理性」と「熱き心」の結合、それがいま日本のビジネスマンにもっとも求められていることではないか。それなくして本書で言う「戦略的経営者」への道を見いだすことはできないと思う。

戦略プロフェッショナル P323 あとがきより

こちら、あとがきの最後の文章を抜粋。三枝さんが最も読者に伝えたかったメッセージではないか、僕もしっかりと受け止めたい。
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以上

また6,000文字以上の投稿となってしまい、失礼しました。あまり踏み込んでブログととしては書けない中、共感するところ多数でした。 こんな投稿で申し訳ないですが、「スキ」していただけると筆者励みになりますので、もしよろしければご協力ください。 それでは、また。

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