【書評】THE TEAM 5つの法則/麻野耕司/幻冬舎
THE TEAM 5つの法則/麻野耕司/幻冬舎
チーム作りを考えていた時に、
自分がリーダーとしてどう振る舞うべきか
ということをフォーカスしてきていた。
この本が主張するのは、
良いチームには、良いリーダーが存在することではなく、
良いチームになるための法則が備わっている
ということが論じられている。
また、一概に「こうあるべきだ」と述べ続けているのではなく、「こういうタイプのチームにはこういう法則が当てはまる」というように、いろんな業種、規模、チームの背景などによってどんな法則が当てはまるかということもわかりやすく述べられている。
自分自身、チームが良くなるために、自分だけでは何も変わらないという思いも持ちながら、自分に変化を求めなければ周りを動かすこともできない、とも思う。両方だ。
これまでこういった組織論などの本を読んだ時には、チームのリーダーとして、どのように自分に転用していくか考えながら読んできたが、この本ではそれだけでなく、一人のチームの人間として、チームが良くなるためにどう振る舞うべきか、ということを意識しながら読んでみた。
紹介されている、5つの法則(ABCDE)は以下の通りである。
Aim 目標設定の法則
Boarding 人員選定の法則
Communication 意思疎通の法則
Decision 意思決定の法則
Engagement 共感創造の法則
そして、
自分の中で特に印象に残ったのは下記の3点である。
1 意思決定は強く速く
順番は前後して、5つの法則のうちの「D」
Decisionの法則の中で紹介されていた言葉を紹介する。
人間が取り組む全ての活動が決断の積み重ねによって成り立っているように、
ラグビーの試合も、全てその時その時の行動・言動の決断の連続によって成り立っている。
朝起きて歯を磨くのも、ご飯を食べるのも、全て「磨こう」「食べよう」と決断したからこその行動であるように、
「バスをしよう」「タックルをしよう」という決断の連続をしている。
この章で紹介されていたのは、そんな決断するときの意思決定について、チームで発言の回数が多くある自分が少し意識していたことを、より納得させられる内容があった。
強い意思決定、速い意思決定
自分のチームにはキャプテンとしての経験値の高い(そんな表現だけでは恐れ多いくらい高い)選手やコーチがたくさんいる。自分が昨シーズン中にチームでの発言に悩んでいる時に、その中の一人、箕内拓郎さんに助言されて意識してきたのが、
強い判断、速い判断である。
ラグビーというスポーツはグラウンドの中に監督は入れないため、その時その時の状況に応じてリーダーが判断を下してその状況を打破していかないといけない。
そのため、迷いのある判断ではチームは迷うし、ゆっくり考える時間はない。
「間違ってでもチームが一つの方向に向く声かけ。それをみんなで成功に繋げれば良いから」という言葉をいただき、自分なりに実践してきた。
この章では、なぜそうした方がいいのかということを論理的に納得させられた。
ソフトバンクの孫正義さんが用いているファーストチェス理論というものがある。
チェスにおいて、5秒以内に考えた手と30分かけて考えた手は実際のところ86%が同じ手なので、できる限り早く打った方が良いという考えである。
良い意思決定、正しい意思決定を考えると、どうしても時間がかかってしまうところ、そういったことを考えて強く速く決断することが大切であるという。
そもそも意思決定の迫られることは、メリットもデメリットもだいたい50%に近いものであり、90%のメリットが見込まれる判断には、時間はかからない。
むしろ、その50%のメリットを信じて決断したものをチームがどれだけ着実に実行していくことで60%、70%のメリットに増やしていくかが大事であるというのだ。
そうやって、多くの意思決定は50%のメリットとデメリットがあるということを全員が理解して、あとは全員がそれを信じて実行することその意思決定を正解につなげるということが重要である。
意思決定を迫られる自分としては、そのように100%の実行をしてもらえる、組織の中で影響力のある存在になった上で、強く速い決断をしていきたいと思う。
2 これからのコミュニケーション
これまでの企業で当たり前となってきていた
新卒一括採用、終身雇用、男性多め、年功序列、日本人
というメンバー構成が、これからの時代は、
中途採用、女性、外国人、脱年功序列
といったメンバーが加わり、チームを構成していくようになる。
まさに多様性、ダイバーシティである。
そういったメンバーに多様性のあるチームが一つの目標に向かって大切にしていくべきコミュニケーションとして紹介されていた「相互理解」の手法が、自分にとっては新鮮であった。
相互理解と聞いて、ただお互いを知るために会話をするようなことをイメージしていたが、会話を紐解いてみると、それがお互いを深く知るためにどれだけ内容が濃いものかがわかる。相互理解し合うために大切なことが2つ紹介されていた。
・「経験」と「感覚」で理解し合う
一つのグラフを想像してほしい。
過去の経験を語る時に、実際に経験したことを話すことは、自分を表現する上でこれまでの人生の中の一部分、「点」として相手に伝えることになる。
それが、時系列に沿って二つの経験を語ると、二つは繋がり「線」となる。
「〇〇しました」「そのあと△△しました」といった具合だ。
横軸に伸びる時系列によってその人の人生で何を経験したかがわかる。
ここで大切であると紹介されているのが、タテ軸に伸びる、その経験によって生じた「感覚」の上下である。
「〇〇して、すごく悔しい思いをしました」「もう悔しい思いをしたくないから△△したら今度は成功してとても嬉しかったです」
その時の「経験(横軸)」だけでなく「感覚(タテ軸)」を伝えることによって、自分のことを「面」として理解してもらうことができる。
「こういう経験をした人」というように理解されるだけでなく、「こんな時、こう感じる人」というように理解されるだけで、その深みは変わってくるし、その関係性からのその後の再現性もでてくる。
・行動の裏にある「志向」と「能力」
相手を理解する上で経験と感覚に加えて重要なのが、「志向」や「能力」といった相手の特徴を知ることである。
「志向」とは、その人がどうありたいか、ということ
「能力」とは、その人が得意とすること
そういった個人によってコミュニケーションをする上での前提が違うということを理解した上で、その前提を知ることがコミュニケーションの深みを出す。
自分の中で抱いていた「相互理解」という言葉の認識が、少し変わった。これまでは、ただ相手の経験を知ることで分かったつもりでいた。
自分のチームも、多種多様なバックグラウンドを持つ選手・スタッフが多くいる、ダイバーシティチームである。
お互いを知る上での新たな相互理解を実践していきたい。
そして、自分を表現する時にも、「経験」「感覚」「志向」「能力」といった自分という人間がどういう人間なのかということを伝えられるように意識していきたい。
3 1+1=2にしないマネジメント
2人以上の人間から構成されるチームにおいて、そのチームの能力が個人の能力を足し算しただけのものにならないためにする、「適材適所」がわかりやすく説明されていた。
100の能力を持つ人間が3人いるチームがあって、そのチームの仕事は主に企画・営業・広報とあるとしよう。
それぞれ能力が
Aさんは企画50営業20広報30
Bさんは企画30営業50広報20
Cさんは企画20営業30広報50
全ての仕事をみんなでやると、チームとしては
100+100+100=300 の能力を発揮する。まあ普通だ。
一方で、適材適所で、自分の得意な分野をみんなの分もやってもらうと、
「企画50×3」+「営業50×3」+「広報50×3」=450 の能力を発揮する。
適材適所の良さは理解していたつもりだったが、このように数字で理解したのは初めてであり、非常に納得させられた。
自分は、今はそのように人を配置するような位置にいる人間ではないが、いつか組織を動かすような人間になった時に、そのチームのパフォーマンスを最大化させるためにこのような発想をもっていたい。その大前提として、先ほどにも記述した、チーム内での「相互理解」、メンバーを深く知ることが絶対に必要となってくる。
―――――
この本全体を通して、いくつものケーススタディが紹介されていたこともあって、チームの特性によってどういった法則のどういったパターンが当てはまるのかということが非常にわかりやすかった。
また、チームを成功に導いていく上での落とし穴として、以前読んだ「行動経済学(人間の特性的にそうしがちなこと)」も紹介されており、改めて人間の行動の難しさ、不可思議さを実感し、そういった分野を理解することが、チームや人を動かす時にどれだけ非合理的なことを受け入れた上でベクトルを一つにまとめていくか、ということにも繋がると思った。
組織論やリーダーシップ論など、複数の人との関わりについて掘り下げて考えていこうと思ったら、もう少しこの分野のことも学んでみたいかなと。
また、自分のチームが5つの法則の中でどういったパターンに当てはまるのかを考えながら読むこともでき、インプットしながら自動的に頭の中で思考させられて、不思議な感覚で読み進めることができた。
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