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蝉殻を 静かに照らす 都奇明かり

*「都奇」とは「つき」と読み、「月」のこと。

夏の終わり、小寿郎は家路を辿っていた。マンションへの帰り道、防災用の小さな公園がある。

ふと、目に留まった。目の高さからやや低いところに、木肌に引っ掛かるセミの抜け殻。月明かりが照らす。生命が飛び立っていった抜け殻だ。

「そういえば・・・」

小寿郎は思い出した。学校からの帰り道に古い神社がある。神社の木には、よく蝉の抜け殻が木肌に付いていた。高学年になった年、セミの抜け殻が見つからない。もう遊び疲れてはいる。家に帰らなければならない時間だ。でも、見つけたい。

小寿郎はセミの抜け殻を探しに、探した。「あった」思わず呟いた。小寿郎の背の高さよりも低いところに抜け殻は引っ付いていた。思わず、屈んで見入る。月明かりが反射でもするかのように照らされている。(小さな宇宙船だ。宇宙船が飛び立っていったのだ)

抜け殻を見ながら、宇宙船に思いを馳せていると、肩上から声がする。「小寿郎・・・」

ふと見上げると、祖母だった。「おばあちゃん・・・」祖母は母に頼まれて迎えに来ていた。かなり帰宅が遅くなっていたようだ。母の「いつも、コジは・・・」口癖が思い出された。

祖母は、蝉の抜け殻がら、抜け殻を照らす「十二夜の月」を見上げた。小寿郎も一緒に見上げる。祖母は月を見ながら、「あれ、「おときさん」といっていたわ」祖母は自分の子供時代に思いを馳せていた。

祖母は小寿郎の手を引きながら、家路を辿る。十二夜の月が二人を照らす。二つの影が明かりの灯る玄関に入って行く。母が小走りに現れる。

「こじゅ・・・」