ごくうが行く:もう一度抱きたいな!
犬の散歩でも色々なことに出くわす。「ごくう」という犬だが、この犬はどういうわけだか、人なっつこい。自分に関心を示す人には老若男女を問わず、好感度マックスで応える。
年末近くのある日、ある団地の入り口付近で、初老の男性に出会った。散歩から帰ってきたところらしく、ごくうを見つけて近づいてきた。ごくうも嬉しそうに体をくねらせて応える。手慣れた可愛がり方に思わず。
「ワンちゃんがいるんですか?」
男性は一呼吸おいた。
「6か月前に死んだんです。」
男はさみしそうに応えながら、ごくうと同じ目線で、愛おしいように可愛がる。
「もういちど抱きたいな。」
男の口からつぶやくように漏れる。
思い出を吹っ切るように、男はすっと立ち上がると、何も言わずに、団地に向かって歩き出した。その後ろ姿に視線が移る。
ごくうはマーキングを終えると歩き出した。男性は三つ角のコーナーを曲がって行った。
男性の残した言葉が頭の中で繰り返される。
「もういちど抱きたいな。」
ごくうは黙々と歩いていく。