【読書記録】チベット幻想奇譚
2023年61冊目。
チベットの現代作家たちによる怪奇幻想小説のアンソロジーです。現代作家の作品ですが、伝統的な民間信仰などがベースとなっている作品が多く、チベットの人たちの死生観や世界観がわかるようになっています。
ちなみに読み前のチベットのイメージは映画『ドクターストレンジ』のアレ。貧弱ですね。
日本ではここまでストレートに民間信仰などの枠組みで物語が書かれることは稀になりました。読んだ感触としては芥川龍之介の王朝物を読んでいる感覚に近いと感じました。これはチベットの人たちの中にまだ土着の信仰などが息づいているということなのでしょうか?おそらく意図的にこういう感触の作品を集めているのだと思いますが、作品の中に政治的だったり哲学的だったりするような主張が見える作品も多いように感じました。詳しくなくて申し訳ないのですが中国共産党との関係性など難しい問題を抱えている地域なのも関係あるのかなと思いました。
収録作品としては「屍鬼物語・銃」と「一九八六年の雨合羽」あたりが印象に残りました。
「屍鬼物語」はインドに由来をもつ枠物語とのことですが、屍がぶら下がっている墓場の木といったビジュアルイメージや、それを背負って持ち帰ろうとすると屍が語りかけてくるが答えてはいけないなどといった設定などが面白く感じられました。
「一九八六年の雨合羽」は少年の黄色い雨合羽を巡る幻想小説で、日本の泉鏡花や小川未明などの文豪の作品のような美しさを感じました。