【#映画感想文】映画『裏アカ』について
瀧内公美主演、加藤卓哉監督の『裏アカ』(2020)は、アパレルショップで働く女性店員がSNSの裏アカで知り合った男達と情事に溺れていく様を描く映画です。
瀧内さん扮する真知子が裏アカに熱中してしまう原因については、彼女自身が「実人生において誰からも必要とされていないから」と説明する場面が出てきます。職場では自分の意見を採用されない真知子は、意見や能力ではなく自らの身体をある種のコンテンツとしてSNSに投稿するようになってしまうのです。こうした感覚は一見理解できず、真知子は孤独に苛まれてしまったように思われます。しかし彼女が投稿している自分の裸体を、例えば「見た映画」や「食べたもの」や「行った景色」に置き換えれば、どんな人でも大なり小なり身に覚えがあるのではないでしょうか。
私は、本作が「SNSを通じた情事」という刺激的な題材を用いながらも、その根底には実生活をSNSのコンテンツとして切り売りすることが当たり前になった現状を描こうとしている作品だと考えました。そうしたSNS的な「コンテンツ過多な感覚」をもう一つ感じた部分に、本作の音楽があります。本作はオープニングとエンディングにパーティー会場でかかるような電子音楽がかかり、それに合わせて東京の夜景が切り取られています。この演出は、SNSやインターネットの広告の雰囲気に似たものを感じ、そこに溺れる人間達のドラマに相応しい演出だと思いました。もちろん SNSの使用頻度は人によってバラバラです。だからこそ自分とSNSとの距離感を念頭に置きながら、本作を見ると面白いと思います。
一方、真知子が裏アカで知り合ったゆーとと、逢瀬を重ねる場所はSNSの投稿とは相容れない場所です。その場所は主に二つあり、一つはゆーと行きつけの居酒屋、もう一つは二人が情事を行うマンションの空き部屋です。居酒屋やSNS「映え」とは程遠く猥雑な雰囲気に満ちています。ゆーとは「この店撮影禁止なんだよね」と呟きます。もう一つ目の空き部屋は、居酒屋と対照的に極限までシンプルな場所で、家具も照明もありません。この場所もやはりSNSに投稿して「いいね」がもらえるような知名度とはかけ離れています。この二つの場所で、真知子とゆーとが関係を深めるという展開は示唆的だと思いました。SNSで承認欲求を満たそうとしている真知子ですが、彼女が無意識にそうした価値観から逃れようとしていたことを示すかのように、真知子は居酒屋や空き部屋に居心地の良さを覚えます。実際に真知子は仕事で成功を収めることで忘れかけていた自分らしさを取り戻していくのです。
ではゆーとの場合は、どうでしょうか。詳しくはネタバレになるので書きませんが、彼のドラマは真知子とちょうど好対照を成していました。二人の関係性が変化していくに従って、居酒屋も空き部屋も徐々に様子を変えてゆきます。直接的な変化があるわけではありませんが、この二つの空間は序盤と終盤でまるっきり印象が変わるように演出されています。このように『裏アカ』は、初めに出てきた人間も場所も小道具も最後には大きく見え方が変わるという構造を持っています。これから本作をご覧になる方は、序盤から細部に目を凝らして見ることをお勧めします。
このように『裏アカ』は刺激的な物語の「裏」に様々な要素を持つ映画です。そうした要素を見つけることは、一見きらびやかなSNSの投稿の裏にある投稿主の姿を想像するかのようなスリルにも近いものがありました。
(執筆:学生応援団 角田哲史)