【SYO's Show】思わず読みたくなる映画感想文の書き方
皆様、こんにちは。「#映画感想文 with TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」審査員のSYOと申します。普段は映画やドラマ、アニメ、漫画、小説、音楽等のジャンルの執筆業を行っております。
今回は、「思わず読みたくなる映画感想文の書き方」というお題で、自分が普段、映画にかかわる文章を書くときに意識しているポイントを幾つか紹介させて頂きます。映画感想を書く際や、「#映画感想文 with TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」に応募される際のヒントになれば幸いです。
自己紹介(私について)
本題に入る前に簡単に自分の経歴を述べさせて頂くと、2012年(24歳)に映画業界入りしました。映画雑誌を手掛ける編集プロダクションに入社して執筆と編集を学び、その後に映画ニュースサイト→ポータルニュースサイト→独立(2020年・32歳)という流れです。約10年、映画やエンタメにかかわる文章を書く仕事を行ってきました。
さて。まず「感想文」とは何ぞや?という部分を少しだけ。諸説ありますが、ざっくり分けると「感想」「批評」「紹介」の3タイプかと思います。正直この辺りは線引きが曖昧ですが…
感想:自分がどう思ったかを書くもの。完全に主観
批評:作品の評価を文章の中で定めるもの。客観的な他者の視点も入れる。レビュー
紹介:作品の概要や見どころなどを主観的/客観的に書くもの。進化系は「解説」
と考えるとわかりやすいかもしれません。感想と批評(レビュー)の境目は書き手/読み手によって変わる印象ですが、「批評」というとなんとなく硬いイメージがありませんか? それは、識者が自分の感覚だけでなく、客観的な事実や他者の視点などを入れて、総合的に作品の意義や価値を論じるものだから。映画史のお話、他作品との比較、監督の作家性、インタビューなどの引用……つまりコラムよりは論文っぽい感じです。批評は価値を判断するものですが、解説はそこは抜きます(主観も)。批評と紹介の中間にあるもの、という感覚でしょうか。
そのうえで、今回は「映画感想文」です。つまり主観100%で大丈夫、ということなのです。一言で表すなら「この映画を観て私はこう思いました」でOK。これを大前提として、主題となる「思わず読みたくなる映画感想文の書き方」について考えていきましょう。
感情を言語化するということ
映画感想文を「映画を観て感じたことの言語化」と定義した場合に、困ること。それは「感情」をどう言葉にするかということ。映画を観たときに感じた「すげぇ」「ヤバい」とか「泣いた……」とか「面白かった‼」という“感情”を、どう言葉に変換していくか。
例えば知人や友人に面と向かって話すなら、表情や身振り手振りが入るので“熱”が伝わるのですが(映像での感想もそうですね)、文章だとそうはいきません。稀にエッセイ調で勢いで読ませるものがありますが(ブログやネット掲示板的な感じで)、それは書いている人自体のキャラが立っている場合が多いので、今回は割愛します。
映画を観た際の感情の動き≒感動は、あくまで主観的なもの。それを素直に出すのが「映画感想文」ですが、とはいえ伝わらないと意味がありませんよね。となると、そのために工夫が必要になります。
基礎:ただ「書く」から「読みたくなる」へ
今回のゴールである「思わず読みたくなる」に至るまでのロードマップ、1つ目は「わかりやすさ」です。主観100%で書く場合、他者が読むとよくわからない・響かない恐れがある。それを無くすためにかみ砕く必要があるのです。例えば…
「『哀愁しんでれら』を観ました。面白かったです」
この文は主観100%で何も悪くないのですが、「読んでもらう」ことを考えるとちょっと不親切ですよね。みんなが知っている著名人だったら別ですが、それが成立するのは読み手に書き手の情報があるから。そうでない場合は、「なぜ面白いと思ったのか?」「どこが面白いと思ったのか?」の説明が必要になります。
「『哀愁しんでれら』を観ました。ストーリーが最後まで予測できず、面白かったです」
例えばこうすると、「この作品は最後まで飽きずに楽しめそうだな」と思えます。
「『哀愁しんでれら』を観ました。ストーリーが最後まで予測できず、面白かったです。土屋太鳳さんと田中圭さんの演技も、今まで観たことがないもので驚かされました」
こんな一文を足すと、「演技も凄いんだ」となります。「演技が凄かった! 衝撃的だった」も良いのですが、「今まで観たことがない」みたいな「これまでと比べてどうだった」といった視点が入ると、より希少性が増しますよね。さらにそこに「どのシーンのどの演技が」とか具体例が入るとなお良いかと思います。「ストーリーが予測不能」の部分に、「こういう話なのですが」などの簡単なあらすじを入れてあげるのも良いかもしれません。
「土屋太鳳さんと田中圭さんが夫婦役を演じた『哀愁しんでれら』を観ました。これまで見たことがないおふたりの演技に、驚かされました。ストーリーも最後まで予測できず、面白かったです」
こんな感じで、作品の概要をくっつけるやり方もあります。これはあくまで一例ですが、「どう感じたか」(↑の場合は「驚いた」「面白かった」)に「動機」を足すだけでも、だいぶ読みやすくなります。それは、わかりやすさが増しているから。つまり「わかりやすさ」とは、「読み手のことを考えて書く」ともいえますね。
これはライターの仕事でもそうで、媒体や作品、目的に合わせて文章を変えます。切り口や文体、細かな表現等々……。「ターゲットにきちんと刺さるように」というとビジネス感が出ちゃいますが、要は「読んでくれる相手を想って書く」ことが大切です。
つまり、感想文=自分がどう感じたかを書くときに心がけると良いのは、相手に伝わるようにいかにわかりやすくするか。文の基本構造に「5W1H」というものがありますが、「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「なぜ」「どのように」の考え方と近いです。感想文の場合は「いつ=映画を観たとき」「どこで=映画館や自宅で」「だれが=私が」というのは前提条件としてもう読む側もわかっているので、「何を=作品」に加えて、「なぜ」「どのように」をきちんと提示すればグッと読みやすくなります。
誰でも気軽に文章を発表できる時代、逆説的にどれだけ基礎を忠実に踏まえて文を書けるかは非常に重要。書くときや書いた文を読み返すときなど、この視点を持っていると自分自身も整理できますよ。
ちなみに、わかりやすさを重視するあまり「自分はこれこれこういうもので~」といったような“自分語り”が長くなりすぎるのに注意。今回は感想文のため主観100%で良いのですが、「読んでもらう」文ですから、バランスは気を付けましょう。
応用:「読みたくなる」から「読み進めたくなる」へ
「わかりやすさ」を念頭に置いて書くこと。これを「基礎」とした場合、「応用」が「思わず読みたくなる」につながります。細かいことを言うと、読みたくなる文だけでは駄目で、読み進めたくなる文である必要があるのです。先に述べたものは、この「読み進めたくなる」にかかってきます。入りが面白そうでも、そこから先がつまらなかったら意味がないですよね。最後まで読める文というのは、一貫して読みやすさ=相手への意識が高い文だと思います。「思わず読みたくなる」は、ここにいかに“演出”を加えるかというお話。土台がしっかりしていなければ、小手先で終わってしまうのです。
ということで、基礎を踏まえたうえで「思わず読みたくなる」を考えていきましょう。衆目を集めるには幾つか戦い方があって、極端なことを言うとそのひとつは派手なことをやる、というものです。
「読み進めたくなる」文への方法論
ネットニュースなどで時々、「見出しで“釣る”」ものがありますよね。ついクリックしたくなるような、好奇心を刺激する立て付けにするやり方ですが、これはかなりテクニックがいる=下手にやると形骸化しがち(中身と見出し、ないしイントロにギャップがある)なのであまりオススメしません。
見出しのない感想文であれば、パワー系のワード「涙が止まらなかった」「腹筋が崩壊した」「開いた口が塞がらなかった」といった強い言葉はつい使いたくなるのですが、これらはあくまで必殺技。乱発せず、ここぞというときに使うのが効果的です。「涙が止まらなかった」であれば、そこに至るまでのストーリーを入れるのも良いかもしれません。「仕事に追われて疲れ切っているとき/失恋して傷心中にこの作品と出会って、観ているうちに涙が止まらなくなった」といったような、そのときの自分の状態であったり「涙が止まらない」状態に至るまでのイントロが入っていると、よりドラマティックに魅せることができます。
また「全人類観た方がいい」「観ないと損する」なども、SNS上であれば良いのですが感想文だとスケールが大きすぎて上滑りします。個人的には「今年ベスト」もグレーゾーンかなと思います。書き手がどれだけの本数を観ているかがわからないため、誇大広告っぽく見えてしまうのです。とはいえ、それだけ感動したのは大事なので、感想文で書く場合には「これだけの本数観ているうちでベスト」であったり、「それくらい心を奪われた」のような補足があるとより親切かと思います。
ちなみに、よくやりがちなのが「●●(作品名)が好きな人にはオススメ」とか「●●っぽい」といったように他作品を例に挙げるパターン。これは効果が限定的なので、注意が必要です。つまり読み手が「●●」という作品を知っていないと成立しないのですね。その点、その作品を知っている方にとってはイメージが湧きやすいので、「誰に向かって書くか?」を見ながら使うと良いかと思います。
肝心なのはいつでも始まり・飽きさせない工夫
ここまで来て「オイオイじゃあ『思わず読みたくなる』ってどうやればいいんだい?」とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、結論から言うと正解はありません。読む人それぞれによって興味を抱くポイントは違いますし、そもそも「誰もが読みたくなる文」という万能技があったとして、みんながそれをやる→結果的に二番煎じになって興味を無くされちゃうからです。
ただ、ひとつ挑み方があるとすれば……それは「構成」です。映画でも、冒頭5分の作り方が上手い作品は自然と興味が惹かれますよね。面白いところにカメラを置いていたり、突拍子もないシーンから始まったり、意味深なセリフで幕を開けたり……。文を書くときも、学ぶべきところは多いように思います。
一例として、時系列をシャッフルするパターン。ある決定的な瞬間を見せて「どうしてこうなったのか?」を順を追って見せていく構造ですね。これを映画感想文でやるなら「私はニンジンが嫌いだ。その理由は、ある映画に出会ったから……」や「街で親子連れを見るたびに、背中がぞっとする。あの映画を観てから、自分が変わってしまった」みたいに、映画から受けた影響などを先に書いて、その理由を後から説明する、といったようなものです。なかなかに使いどころが難しいですが、物語性がある文は続きが気になって読んでしまうものです。書く順番を変えるだけでも、見え方が変わりますよ。
また、「うんちくや小話から入る」というパターンもあります。「ゴリラのほとんどはB型だという」といったような「へぇ」と思わせるお話から入って興味を引く、というやり方ですね。『哀愁しんでれら』であれば「誰もが知る童話『シンデレラ』の“その後”は、どうなったのだろうか?」みたいな「気になる」と思わせる始め方ですね。これも、本流の「感想文」にどう合流させるかに技術がいりますが、ひとつの手法です。
ちなみに、映画のオープニングシークエンスも参考になりますが、漫画の第1話も「思わず読みたくなる」という点では非常に面白い。大ヒット中の『劇場版 呪術廻戦 0』の原作「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」は、「主人公が死刑?」という強烈な場面から始まりますし、「ハイキュー‼」はバレーボールの紹介をしつつ、「頂の景色」「ひとりではない」といった後々につながるキーワードを入れて壮大な物語の始まりを感じさせます。『僕のヒーローアカデミア』然り、ヒットしている漫画はみな第1話の魅せ方が非常に上手い。僕自身も文を書くうえで、こうした様々な作品を通して勉強しています。
まず土台として「わかりやすさ=読み手に親切」な文章を作り、そのうえで構成を工夫したり、演出を加えたりして「飽きさせない」魅せ方を探る。個人的な考えですが、このふたつを実践してみると、結果的に読みやすさ+自分らしさがミックスされた文章に辿り着けるかと思います。
最後に一言
長々と書いてしまいましたが、今回紹介したものはあくまで一例です。大切なのは、皆さんが楽しんで書くこと。「映画が好き」「文を書くのが好き」という自分自身の“原点”は、プロになってからも大きな支えになります。「いつも心に原点を」は僕が愛してやまない『僕のヒーローアカデミア』のセリフですが、なんだかんだで10年書き続けられたのはその“オリジン”のおかげだと思っています。
ちなみに僕は、初めて「文を書く仕事」に就いた編集プロダクションで、上司にまず「主観を抜いて書くこと」を教わりました。入社して最初のトレーニングは、古今東西の映画を観て作品紹介文を数百字で書くという千本ノック。自分の主観を入れずに作品の概要と魅力をどれだけわかりやすく伝えられるか。そこで鍛えて頂いたから、自分が文を書くときに「主観を何%入れるか」を考えられるようになりました。同時に、主観なしで文を書く日々が苦ではなかったのは、根本的に映画と文を書くことが好きだから。
今回の「映画感想文」は主観100%ですが、同時に「読み手を意識する」ものでもあります。自分も読む人も楽しい文を目指して、ぜひ頑張ってください。応援しています!