そのままを綴る
今日読み終えた本、「体の贈り物」。
森星ちゃんのYouTUBEをぼーっと見ていたら、本棚にあった文庫本。タイトルが気になって買ってみた。
すごい本だった。
どんなあらすじかを描くと、これからの人にバイアスがかかるので、最初に断っておく。バイアスがかからない方が絶対にいい本だ。
この短編集には、ある共通のキーワードがある。これは簡潔に説明するキーワードではあるけれど、これが物語の根幹ではない。人と人との心の交流の物語だ。
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断った上で書くのだけど、短編はそれぞれ、エイズ患者と主人公のサポーターの間のお話。
殆どエイズという言葉は出てこないので、かなり読み進めるまで分からない。
というか、真ん中くらいまで読んだ時にハッと気づいたのだ、もしこれがこういう題材だと知っていたら、私は進んで手に取っただろうか?と。もしくは、このような気持ちで(「エイズについて理解したい」だとかではなく、素直に物語を楽しむつもりで)、読み始めただろうか?
…つまり、エイズ患者という前提で、私たちは登場人物と出逢わない。何やら疾患を患っているらしい、様々や個性の人たち。
彼らがどんな人なのか・どんな疾患と戦っているのか・どんな喜びや恐怖を味わっているのか…少しずつ友達になっていくような感じ。だからこそ、彼らを失うとき、息が詰まるような想いになる。
そしてこの物語のすごいところは、その綴る文章。
これまで読み慣れてきた物語は、主人公がいて、相手がいた場合、主人公の視線で出来事を描写し、主人公の思ったことが描かれる。もしくは第三者(物語の語り手)の視線で登場人物たちの出来事を描写し、思いを代弁する。それに疑問を持ったことも、テンプレートだと感じることもなかった。
自分が追体験しているかのような生々しさ。主人公の瞳孔を借りて、自分が体験している。出来事を過剰にドラマチックに書くのでもなく、かといって記事のように淡々と書くのでもない。仕事としてドライに捉えているか、気持ちを鷲掴みにされているか、で文章の温度が変わる。ドキドキする。でも、悲しかったとかこう思ったとかは殆ど描かれないのだ。そんな文章は初めて読んだから、尚更、そのテーマが心を揺さぶった。強かった。
辛いけど、生きるエネルギーと愛に溢れている本です。ショートストーリーが11、入っています。ちょっとした合間に読めるので、良かったら手に取ってみてください。