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不確実な未来だから、ネガティブ・ケイパビリティを


 今日は防災の日だ。本当に、この一週間は針路も速度も予想できない、これまでにない不思議な台風10号によって、私の予定もガタガタ狂った。「観測史上最大の雨量」という報道がいくつも出ていたが、日本中の予定変更の量も史上最大だったかもしれない。
 自然は、どんなスパコンをもってしても、過去データからの予測ができなくなりつつあるのだろうか。

不確実な時代の未来予測

 予測と言えば、未来予測ではSINIC理論がある。最近、ますますビジネスの世界で関心の的になってきているようで、これを伝え話す立場としては、うれしいことだ。
 そして、講演を聴いていただいた多くの方々が「こんなに昔の段階で、こんな先の時代を、見事に見通すことができたのは、なぜなんでしょうね?」と声を掛けてくれる。
 そうなのだ。今という時期はVUCAとか言われるように、不確実で見通しがきかないと誰もが承知している。それなのに、SINIC理論では、半世紀以上前の、ようやく大型コンピュータがビジネスの場に広がり始めるかどうかという1970年に、2005年からの「最適化社会」、その大転換期を経て「自律社会」へと発展していく姿を予測して現している。
 大型コンピュータからパーソナル、そして携帯電話を経てスマホやインターネットの普及によって、単なる情報化から最適化世界の渾沌状態に入ってきた、この半世紀を、結果的に精度よく予測している。

長期志向のSINIC理論

 これらの予測と現実の一致は、偶然かもしれない。しかし、多くの方々の「なぜ?」に対して、私が理由を説明する大きな支えとなっているのは「長期志向」、ものごとを考える時の時間範囲を、とにかく長くして考えることである。
 SINIC理論は、1970年から先の未来を予測しようとした。そこで、精度の高い未来予測をしようとすれば、いきない2033年の社会を語ることはリスクだ。少し頑張れば現状の延長線上に描ける2~3年後にして、それを繰り返しローリングしていくのが賢い、失敗の少ないやり方のはずだ。いわゆる大手シンクタンクやコンサルティングファームのやり方に多いものだ。
 しかし、SINIC理論は違った。いきなり半世紀以上先の社会と科学技術を予測した。そのために、100万年前の人類史のスタートからの長い歴史を下敷きに置いた。そして、70年に策定した予測と到来時期は、今なお修正していない。決してスマートとは言えないやり方だ。

イノベーションはフィード・フォワードから生まれる

 一方、不確実な時代に立っている現在の私たちは、ますます問題解決の時間範囲を短縮する一方だ。文字通り「一寸先は闇」として生きている。
 確かに、この進み方は大きな間違いや損失にはならないかもしれない。間違いとは言えないだろう。「フィード・バック」制御の最たるものだからだ。
 しかし、先駆けや革新には不向きだ。これだけ、猫も杓子も「イノベーション」の大合唱をするにもかかわらず、問題解決の範囲を一寸先に設定し、その先は闇だとしていて、これまでの延長線上とは異なる新しい景色の問題解決が生まれるはずがない。私は、イノベーションは「フィード・フォワード」から生まれると考えている。
 そういうことを説明するのだが、「それは、創業者だからできるんでしょうね」とか、「そのリスクを、どうやったら経営メンバーに説得できるでしょう?」という反応も少なくない。長期志向、フィード・フォワードを説得することはできないだろうか?これが、今の私の大きな課題だ。

ネガティブ・ケイパビリティと長期志向

 そういう気持ちでいる中で、ふとしたことから「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を思い起こした。一言で言えば「答えの出ない事態に耐える力」、「答えを急がない力」である。
 このコラムの文脈から言えば、「不確実性や曖昧さを受け入れ、すぐに結論を出さずに状況を冷静に見守り、内省する能力」とでも言えるだろう。すなわち、長期志向を持ち続けるための力である。この大事さに気がついた。
 だから、これに対するのはポジティブ・ケイパビリティだ。答えを確実に効率的かつ迅速に見つける問題解決力になる。こうして見ると、現代社会はポジティブ・ケイパビリティで評価される世の中だということがわかる。試験で高得点を取るための教育内容も、まさにこれに当てはまる。

ハイサイクルか、ネガティブ・ケイパビリティか

 ビジネスの場で言われるハイサイクル・マネジメントという言葉も、これに似ているように思う。そこで、ハイサイクル・マネジメントとネガティブ・ケイパビリティは対極にあると解釈できるかをAIに尋ねてみると、瞬時に以下の回答を書き出した。

 ハイサイクル・マネジメントは、素早い意思決定や迅速な行動を求める経営スタイルです。市場の変化や顧客のニーズに即座に対応し、短いサイクルでPDCA(計画、実行、評価、改善)を回し続けることを重視します。このアプローチでは、スピードが最も重要な要素の一つとなり、不確実性に対しても迅速に対応することが求められます。
 一方、ネガティブ・ケイパビリティは、不確実な状況においてあえて結論を出さずに、曖昧な状態を受け入れる能力です。これにより、短期的なプレッシャーに惑わされず、より深い理解や長期的な解決策を見つけるための時間と空間を確保することが可能になります。
 この二つのアプローチは異なる状況で有効です。ハイサイクル・マネジメントは、変化が速く、短期的な対応が求められる環境で特に効果を発揮します。しかし、これが過度に強調されると、表面的な解決策や短期的な利益追求に走りやすくなり、長期的なビジョンや持続可能な成長が損なわれるリスクがあります。
 逆に、ネガティブ・ケイパビリティは、複雑で長期的な課題や、簡単に答えが見つからない問題に直面したときに有効です。この能力は、すぐに行動に移すよりも、深く考え、最適なアプローチを見つけるために時間をかけることを可能にします。
 ビジネスの世界では、この二つのアプローチを適切に使い分けることが重要です。迅速な対応が必要なときはハイサイクル・マネジメントを活用し、複雑で長期的な課題に対してはネガティブ・ケイパビリティを発揮することで、バランスの取れた経営が可能になります。結局のところ、どちらか一方だけに依存するのではなく、状況に応じて両方のアプローチを使い分ける柔軟性が求められるということです。

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耳障りよい両利きよりネガティブ・ケイパビリティ

 いつもながら、素晴らしい模範解答に頭が下がる。"ポジティブ"・ケイパビリティの極みのようだ。今日のコラムをバランス良く締めるなら、これが結論だ。しかし、私はネガティブ・ケイパビリティという言葉を、もっともっと広めていきたくなった。
 あんまり言葉の響きは良くないかもしれない。しかし、意味は素晴らしく未来志向だ。短期で近視の見方だけでは、もはや、よりよい社会が難しくなっている。じつは、そのことを一番感じ取っているのは、子ども達かもしれないと思うことがある。よき祖先になるためにも、私たちに必要な力はネガティブ・ケイパビリティだ。

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一


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