「始めるときに既に撤退の条件を決めておけ!」
下記の条件が発生した時には、方針に従って潔く撤退を即断することです。それが"経営"というもの。
1.致命的な失策があった
事業がスタートして早い段階で致命的な失策が分かったとき、且つ、その失策によって致命的な損害、さらに倒産の危機までも予測できるときは、"善は急げ"。早期に撤退の準備に入ることが賢明です。
起業家精神が旺盛な上、強い確信をもって新規事業を創業者一人が一喜一憂しながら立ち上げる。このことには素晴らしいことです。
しかし、このアントレプレナーらしい自己実現欲求が災いとなることも。逆に危なっかしい面もあるのです。
素晴らしい点は、信念と情熱のすごさが事業を立ち上げる際の原動力となったり、周囲の関係者、協力者を巻き込むとてつもない求心力となることです。
一方、危なっかしい面は、盲目的となりがちで、これから手掛けようとするビジネスの水面下に潜んでいるリスクや、背後にある危険要素などをほとんど精査しない内に強烈に推進しまうことです。
それは恐らく、過信によって事前の調査・分析を“意図的にしたがらない”からかも知れません。過信は慢心ということです。
このような、純粋なアントレプレナーシップには大きな落とし穴がある訳です。なので最低、「ケーススタディ」と「フィージビリティスタディ」は必要でしょう。
この2つがなおざりになっていることが多い。
つまりは‥、
『自己実現欲求の強いピュアなアントレプレナーシップ(起業家精神)が過信になると、仮説検証を無視することに、もし無視してしまうと倒産する確率が一気に高まる』
ということです。
結果、取り返しのつかない“事態"を招きます。
このような失策は、私自身も経験しましたし、自己実現欲求の強い周囲の起業家にもたくさんおりました。
ですから、起業家の過信から出た失策によって致命的な損害が発生すると判断したときには、予め決めていた方針に忠実に従い、即座に撤退の準備に入ることです。
2.収益が見込めない
事業開始後、黒字化が3年以内にできない、そして、初期投資の回収が5年以内にできないと判断したら迷わず撤退を決定することです。
「黒字化3年以内」と「初期投資回収5年以内」は新規事業の採算性と撤退の指標にするとよいでしょう。
業種によっての初期投資の規模やビジネス展開における戦略性によっては黒字化の年数がケースバイケースということはあります。
しかし、3年、5年という指標は撤退を決断する上での重要指標と言ってよいでしょう。
※業種ごとの平均指数がありますので確認して下さい。
私も数えきれないほどの新規事業を手掛けてきました。この2つの指標を無視して"気合い論"、"どんぶり勘定"、そして、"見切り発車"で突き進んだ結果、大きなダメージを受けたこともありました。幸い致命傷とはなりませんでしたが。
事業を始めるときの決断よりも、撤退する時の決断の方が何十倍も勇気と覚悟が求められます。また、払う代償も大きい。
特に面子を保つため、正当化したいため、意地で事業を続行させてしまうと益々、撤退のハードルは一気に高くなってしまいます。撤退したくともできなくなってしまう。
ですので、事業をスタートする前に、撤退条件を念入りに決めておく必要があるのです。そして、出来ることなら、側近のメンバーにはそのことを予め明言しておくとよいでしょう。
なぜなら、決めておけば合理的に撤退の意思決定ができるからです。と同時に、勇気も覚悟も必要ない。その上、周囲の関係者も納得しやすい。
3.市場規模が長期に縮小化する
事業開始後に予想していた市場規模が、将来にわたり長期に縮小することの根拠が明らかになったときは、撤退の方向で検討することです。
市場というものは“生き物”です。事業というものは市場と共に生きています。そして、市場の主役はお客様です。
新規事業というものは、これまで顕在化していた市場にあった顧客ニーズを捉えて始めるわけではありません。
これから生まれる市場、もしくは、これから創造していく市場の潜在的な顧客ニーズに仕掛けていくビジネスです。
ところが、この潜在する市場、つまり、潜在する顧客ニーズが消滅してしまった。もしくは、大きく縮小してしまっていると予測できるときには撤退を検討していく必要があります。
しかも、その縮小期間の予測が長期にわたるとなれば新規事業は“日の目を見ない”ということになります。
特に注意が必要なのは、以前から言われている“デジタルディスラプション”「Digital Disruption」です。
このキーワードは「破壊」を意味しています。低コストなIT技術を利用した新たなビジネスで、古いビジネスに創造的な破壊を加えてしまうことです。恐ろしい現象です。
これから先、DX化が加速しデジタルディスラプションは頻繁に、しかも、短期間の内に起こる可能性があります。
簡単に言えば、旧態依然として存在していた需要は大きく変化する可能性があるわけで、もし、市場と顧客ニーズを見誤ってしまうと、初期投資とランニングコストはおそらく膨大な損害額になってしまうでしょう。拡大し始めてしまうと一気に致命的となります。
デジタルディスラプションの事例では「ブロックバスター」「Netflix」がよく紹介されます。
IT技術が普及しイノベーション(変革)が起き、Netflixがサブスクリプションサービスを開始しました。それによって「レンタルショップに行く必要がない」「定額で好きな動画が無制限に見られる」というDXが生まれたのです。
その結果、アメリカ大手のレンタルショップ「ブロックバスター」は経営が行きづまりNetflixが躍進しました。まさに、ITによってデジタルディスラプションが起きたわけです。
これからは、ChatGPTなどの生成AIによって同じようなデジタルディスラプションが起こることは容易に想像できます。
新規事業を仕掛けるときにはAIによって市場と顧客ニーズがどう変化するかを多様なシミュレーションのもと、的確に予測する必要があるでしょう。
4.競合相手に勝てない
事業開始後、予測していなかった競合相手が出現したり、もともとの競業相手に圧倒的な競争力が増し、自社の成長にとって重大な脅威となる可能性があるときは、全面的な戦略の見直しを図る必要があります。
しかし、見直しを図った結果、自社の戦略の優位性が見出せないときは撤退を決意することです。
起業家は誰しも新規事業を考えると、真っ先に競合相手を頭に浮かべます。そして、必死に状況分析をします。そして、勝算ありとなって準備に入るわけですが、意外や意外、スタートしたあと状況が変わることが結構起こったりします。
当然と言えば当然です。市場も顧客もアップテンポに変化しているからです。
一番、厄介なことは想定していなかった競合相手が現れた時でしょう。
私の経験においても何度かありました。「まさか?あの会社が参入してきたの?」と驚き、時に慌てたりしたものです。
特に異業種からの参入の場合は、徹底した差別化戦略をとっていることが多く、脅威にすら感じることも多々ありました。新規事業を開発しようとすると、大方「ファイブフォース分析」(five-force-analysis)などをすることが定石となっています。
しかしそれでは、不十分と言いましょうか、安心はできません。
なぜなら、おいしいマーケットには水面下で新規参入を考えている企業が複数あるからで、それらの企業動向は中々、調べても分かりません。
もし、新規事業をスタートして途中から脅威となる競合相手が現れたら、その後の展開においてどの程度の勝算があるのかを検討する必要があります。
やみくもに対抗して戦おうとするとレッドオーシャンの中にどっぷりとハマって抜け出せなくなることもあるのです。
脅威となる競合相手が現れたら即座に、全面的な事業戦略の見直しをすること。そして、見直しても事業の継続発展が難しいとなれば早々に撤退の方向に舵を取ることは正しいと考えます。
5.自社の経営力が急低下
自社の経営資源(リソース)に極端な欠損が生じたときは、まずはその手立てを考えるが、どうしても難しいと判断した場合は撤退も辞さない。予めそのような方針をもっておいた方がよいでしょう。
この場合の経営資源とは「ヒト、モノ、カネ」を主に指しています。
ヒトであれば、新規事業の推進役であるキーマンが退職したり、また、そのプロジェクトからまとまった人数が退職したりした場合などを指します。
モノで言えば材料が入らなくてなったり、サプライチェーンに重大な問題が発生したりした場合を、そして、モノの場合は、それ自体に欠陥が発覚したりした場合など、カネで言えば、ずばり資金ショートとなります。
起業家が一人で立ち上げる新規事業、社内プロジェクトから立ち上げる新規事業、または、企業間で提携して立ち上げる新規事業と、スタートアップにはいろいろなケースがあります。
どのようなケースであっても「何をやるか」と同じくらい「誰がやるか」は事業の成否を決める重要な要素です。
一番、重視すべき経営資源は、なんと言ってもヒトです。起業家本人は勿論、新規事業の推進役となるキーマンが何らかの理由で離脱することです。もし、離脱してしまうと事業は途端に失速してしまいます。
そして、カネです。予定していた新規事業の資金が何らかの理由から突然、枯渇するといったこともあります。
この他にも事業立ち上げ前に注意を持って体制を整えておくものがあります。
それは、せっかく始まった事業が何らかの法的問題(認可な権利など)に発展してしまいストップせざるを得ない、といったことです。
まとめますと‥。
事業の開始当初に当てにしていた経営資源が突然、ままならない状況となることは結構な頻度でありうるということ。もし、起こると途端に危機は訪れ、時には大きな損害賠償や最悪の実態である倒産といった悲劇にまで発展してしまうのです。
そうならないためにも、「始めるときに既に撤退の条件を決めておく」ことか必ず必要なのです。
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