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宇宙飛行士か、忍者か 〜とけいさん その4〜 #018
「宇宙飛行士って言おうかと思ったら、夫に止められたんだよね」
先日、とけいさん(*1)から悩みを相談された。小学校の教員の彼女は、現在は育児休業中で、長男が幼稚園に入園することになった。送迎バスを待つ際の、親同士のやりとりで「職業を聞かれたら、どうしよう」と言うのである。
彼女はよく、うんちを踏んだり、身体から雑巾やうんちの匂いを発していたり、それを臆面無く周りに言うので、コミュニケーション力が高いと思われがちだが、実は結構人見知りでもある。
職業を小学校の教員と言うと、子育てや学校について相談されることがある。公務員という立場に嫉妬されるようなこともあって、言いにくい。同じ住民同士、あまり噂にならず、穏便な関係にしたい。それならば「ふつうの、OLです」とかなんとか言えばいいのだろうが、なぜだか、そういう普通のことは言いたくないらしい。
「ちょっと変わってて、あまり深く突っ込まれそうな職業がいいんだよね。なんかない?」ととけいさんは眉間にしわを寄せながら、真剣な顔で聞いてきた。なぜ、変わった職業を言う必要があるのかは置いておいて、そこで冒頭の発言である。
宇宙飛行士と言おうと思ったら、夫に「それはちょっと、さすがに…」と反対されたそうだ。いくら宇宙のように心の広い夫(*2)でも、嘘はよくないと思ったらしい。妻があまりに変な人だと思われるのも、心配なのかもしれない。
私は半ば冗談で提案してみた。
「じゃあ、忍者はどう?」
「あ、それいいね!」
自分で提案しておいてなんだが、職業を聞かれて忍者と答えるのは、相手に完全に引かれる可能性がある。しかも、「忍び」なのに、忍者であることを人に開示していいのか。全く忍んでいないではないか。
しかし、とけいさんは「職業:忍者」の採用に、非常に前向きだ。
忍者なら、内実がよくわからないし、本当かどうかもあまり突っ込まれなさそうではある。嘘かどうかもよくわからないし、冗談と取ってくれるかもしれない。変な人だと思われることは、おそらく間違いないだろう。とけいさんは言う。
「『伊賀と甲賀どっち?』って聞かれたら、その人と友達になる」
そんな人が、同じマンションにいるものか。
いや、忍者はどこにでもいるのかもしれない。きっと、その後の会話は「手裏剣は、棒状と平板型どっちですか?」だ。なんだか楽しそうだ。とけいさんは、私に尋ねた。
「私、友達できるかな?」
「…どうだろう」
どうだろう。忍びの友だちができるといいのだが。とけいさんに、幸あれ。
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(追記)
このエピソードを、あるところで話したら、実際の忍者に会ったことがあるという人が現れた。ある大学での授業中、外国人の講師の先生が、副業で忍者をやっている、という話をしてくれたそうだ。どんな仕事をするのか興味津々である。私も忍者の友だちが欲しい。忍者の方はぜひコメントや連絡頂きたい。
*1 とけいさんシリーズ
*2 とけいさん夫
2023年10月15日執筆、2023年10月24日投稿