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「メロンと寸劇」

向田邦子 没後40年ということで、読んでみました。

この本には、26のエッセイと寺内貫太郎一家2の第三回のシナリオが収められています。

お勧めは、「ごはん」や「蜆」「子供たちの夜」なのだけれど、やっぱり一番好きなのは、「父の詫び状」です。

父が仙台支店へと転勤になった。私と弟は東京の祖母の家から学校へ通い、夏冬の休みだけ仙台の両親の許へ帰っていた。

ある朝、起きたら、玄関がいやに寒い。母が玄関のガラス戸を開け放して、敷居に湯をかけている。見ると酔いつぶれてあけ方帰っていった客が粗相した吐瀉物が、敷居のところいっぱいに凍りついている。

赤くふくれて、ひび割れた母の手を見ていたら、急に腹が立ってきた。
「あたしがするから」
汚い仕事だからお母さんがする、というのを突きとばすように押しのけ

今度こそねぎらいの言葉があるだろう。私は期待したが、父は無言であった。黙って、素足のまま、私が終わるまで吹きさらしの玄関に立っていた。

数日たって東京へ戻った邦子の元へ、父から手紙が届く。

終わりの方にこれだけは今でも覚えているのだが、「此の度は格別の御働き」という一行があり、そこだけ朱筆で傍線が引かれてあった。
父の詫び状

一部抜粋した中からであっても、父の不器用さと、温かさ、朱筆で傍線を引くところなんかには、威厳を保ちたい父と、時が経ち、そんな父を許し愛する著者の姿を見た気がします。

戦中、戦後の頃の話なので、今の時代とは大分違うけど、今だったらどうなのだろうか?いや、そもそも上司や取引先の個人宅へお邪魔したりしないのかも…。

食いしん坊エッセイ傑作選とあるけれど、人間味が味わえるよき本でした。






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