自分という愛しだいで結果は多様に厚みをおびる
vol.99【ワタシノ子育てノセカイ】
愛は勇気をだす力。心に秘めたる熱い想いを表現するには愛がいる。
愛があれば自分を守れて、誰かのために動いてゆける。自分を理解し、自分を信じて、何かを生み出し、誰かを守る。勇気の動きが伝わるときは、自分が愛で満ちるとき。
愛と勇気が世界を創り、確かな私となっていくんだ。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
2024年10月14日、月曜日の祝日。私の祖母の一周忌だった。うっかり忘れていた私は、長男タロウと次男ジロウへの連絡が前日となる。
タロウにLINEで知らせると「いく」「ジロウは無理」と返事がくる。ジロウはどうやら野球の試合らしい。
当日の朝がやってくる。9時半ごろに車で迎えにいくと、制服を着たタロウが澄ました顔で現れる。背が、また、伸びたかな。
タロウは助手席にするりと座り、私と挨拶を交わして20秒ほどアイスブレイクすると、出場したボルタリング大会の話をはじめた。弾丸お喋りをする、私の知ってるタロウが顔をのぞかし、親子の時間を緩やかに埋めていく。
そういやタロウと会うのはひと月ぶりだった。我が子に30日も会えない日常を、どうして私は平然と過ごしているんだろうか。
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翌15日。ジロウと約束した密会日の前日。法事に来れなかったジロウの様子をうかがいに、いつもの駐車場で下校を待つ。
いくつもの地区の子どもたちが通り過ぎたころ、ジロウが同級生4人と談笑しながら現れて、自然に私のもとへとやってきた。この度も、どうやら密会するらしい。だけどいつもと違って、ジロウは母宅には寄らずに直帰すると決める。
車の中で2週間ぶりとなるジロウと私の親子時間は、10分間。
法事の日の野球の試合。今週末の修学旅行。児童会の選挙の結果。お母ちゃんの東京出張。話しは尽きないのに、目的地にはすぐ着いた。
6年生のジロウは到着と共にドアを開け、後部座席のランドセルや帽子を身につけながら「署名のやつ、どうなった?」と口にする。
一方の私はそれどころでない。ジロウが来れなかった法事も、頑張っている野球の試合も、楽しみにしている修学旅行も、前期に落ちた後期の児童会選挙も、なに一つジロウの気持ちに寄り添える会話ができていない。
するすると流れゆく言葉に溺れる私をよそに「署名結果をはよ見せて」と後部座席から運転席の私の方へ身を乗り出すジロウ。私は共同親権の周知と調査を全国2811件の教育機関にしていて、前日の14日は署名の最終期日だった。
署名サイトの数値をジロウに見せると「すごっ」とジロウは固まった。
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翌日16日の本密会日。6週間ぶりのジロウとのお出かけは、マクドはコメダになり、刺すような日差しは緩やかになり、ジロウの身長は私より高くなっていた。
駐車場からお店まで背比べしながら歩いていると、大きくなったとはしゃぐ私に、ジロウは「タロウはジロウより大きい」と漏らす。ジロウ小6、タロウ高1。
参加できなかった法事。負けた野球の試合。未知の修学旅行。落選した児童会役員。追い付けないタロウの後ろ姿。下校時間は、親子時間は、小1時間。次の時間は、あるんだろうか。
会話の中心は児童会の選挙についてだった。ジロウは前期にも立候補して落選し、落ちるのが嫌だから後期は出ない、と話してくれていた↓↓
だけどジロウは勇気をだして、後期の選挙に立候補するも、また落選。シロノワールにシロップをかけながら、選挙の過程について話してくれた。
立候補者は先生に伝えにいくこと。選挙ポスターはひとりでつくること。各クラスへ選挙演説にいくこと。6年生は先に選挙結果を知れること。投票数を教えてもらえないこと。
落ちるのが嫌だから、もう、選挙には出たくないこと。
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話を聞く限り、おそらくジロウはひとりで選挙活動をしたんだろう。
実子誘拐っ子が人と繋がる術を、社会でどのように磨けるというのか。ジロウは5歳からの7年間、母という自分の一部を、否定されて、抹消されて、生きている。社会が自分の存在を認めてくれない日常生活で、どうやって社会と繋がれというんだ。
選挙に出る旨は知っていたので、1学期の終わりから私は、ジロウにちょくちょく声をかけていたけど、私たちのちょくちょくなんてしれている。
作成したポスターを捨てた、と私の目を見ずに話すジロウに「お母ちゃんはジロウのお手伝いを、何かできたと今思ってる。ポスターとか一緒にできたかも」と伝えた。
するとジロウは「選挙にポスターはあんまし関係ないと思う」と真顔。ほな何が関係あるのか尋ねると「知り合いの数」と返ってきた。当選した子よりジロウは知り合いが少なかったという。選挙演説も2クラス行けなかったとも教えてくれた。
落選した理由を言語化するうちに、ジロウの表情は柔らかくなっていく。「お母ちゃんは3700人以上の署名と、100万円以上のお金集めたんやろ?ジロウも投票数を知りたいわ」とジロウ。
投票数を開示されない理由は知らされていないらしい。ジロウ曰く「ショックを受ける子がおるからちゃうかな。ジロウは知りたいって思うけど」。
サポートできない状態で、後期の選挙を促した私の無責任さを鑑みるけど、事実を探すジロウのようすに「お母ちゃんはジロウを誇りに感じるわ」と自然とこぼれる。すると「ジロウはきれいやで」と太陽みたいな顔がきた。
◇
ひと月ぶりに再会したタロウは、車の中で「近畿大会出るで」とエクボで私に報告する。初出場したボルタリング大会で、どうやら入賞したらしい。
4歳年上のタロウに身長すら挑もうとするジロウは、もちろんタロウのボルタリング大会の成績を知っていた。
中学生のタロウはボルタリングに突如はまる。志望校に受かったら、ボルタリングもできるワンダーフォーゲル部に入ろかな、と未来について話した2023年の夏から1年が過ぎた↓↓
私に「動画あるから送るわな」というタロウ。初めてのボルタリング大会は9月28日のジロウの運動会の日だった。親に伝えたい想いを秘めて、タロウが過ごした16日間、私は何をして、どのように、生きていたんだろうか。
掴む先を見上げて、足もとを確認して、また見上げて、全身で登っていくタロウ。刻々と判断が迫られる中、手を伸ばし、足をかけ、バランスを探して進みゆく姿は、私の知らない、タロウだった。
世界にあなたを伝えて、世界にただひとりのあなたを表現して生きて、とお母ちゃんはタロジロに、いつもいつも願っています。