「ずっタピだよ…」守れなかったあのときの約束。もう一度タピオカに会いに行ってみた
この2年間、私はすっかりタピオカドリンクのことを忘れていたような気がする。世界が厄災に飲み込まれ、人間の暮らしは大きく変わり、また街並みも変わった。いつのまにやらタピオカ店も姿を消していた。
それでも店がゼロになったわけじゃない。目立つ場所にはなくなったかもしれないが、少しばかりの移動さえ惜しまなければ営業しているタピオカ屋はまだまだ見つけることができる。
私はタピオカが好きだった。今だって行こうと思えば行ける。でも、どうした。行っていないではないか。所詮それが私とタピオカの関係性だったのだろうか?
——ずっタピだよ。
ああ、青い約束が蘇ってくる。
熱狂は、人に嘘をつかせるのが上手い。いとも簡単に「絶対」や「永遠」といった類の言葉を使わせる。約束をさせる。そして大概は守られない。タピオカを優しく舌で転がし、よく噛んで、飲む。そんな甘美な生活はいつまでも続きはしないのだ。
お互いに別れの言葉もなかった。だが、そんな別れが一番悲しいじゃないか。あの時思っていたこと、今思っていること。全部伝えたい。かつてのタピオカと私を巡る物語がもう始まらないのは分かっている。
だけど、もう一度くらい、タピっても、キャッサバの神様は怒らないよね?
■タピオカ屋から感じる謎の視線
というわけで、やって来たのは「台湾タピオカ専門店 三太子(さんたいず)」。西武新宿線「下落合駅」から徒歩30秒という好立地のお店だが、訪れるのは今回が初めてだ。
それにしても、なんだか視線を感じるのは気のせいだろうか。
あなたですか?
いや、違う。もっともっと禍々しい視線を感じるのだ。
いた。
ギンギンだ。
なにをくわえているんだろう。
ペンギンの絵が描かれた、人間の尾てい骨…?
おそらく三太子は座っている状態だが、それでもゆうに170cmはあると思われる。あの有名天気予報士の眉を軽く凌駕するそれは自信に満ち溢れ、眼差しには命を捨てる覚悟すら見て取れる。おしゃぶりこそしているが、いざ戦いになったら敵は指一本触れることはできないだろう。
私なんぞ、あのおさげを高速でぶん回す攻撃で、首の骨をやられて即死。尾てい骨を抜き取られ、可愛いおしゃぶりにされるのが関の山だ。
■鎖につながれたババアを救え
——しまった。「お婆ちゃんの黒糖タピオカミルクティー」だって?こんな怪しい名前のタピオカ、裏でなにかやっているに違いないじゃないか。店のバックヤードにお婆ちゃんが鎖でつながれているんだ…。
ま、まだ間に合う…!
■太いストローはプロメテウスの火
出来上がったホットタピオカは熱々だった。だが、この暴力的に太いストローを前にすると、否が応でも体が縮み上がっちまう。だってそうだろう。熱さに怯え、吸いこむ力が弱ければ当然飲めない。かといって、冷たいタピオカティーを飲むかのごとく勢いよく吸い込めば口の中が逝っちまう。この際だから言っておこう。太いストローのコントロールは、まだ我々人間には早過ぎるのだ。
やはり冷めてから飲もうか。いや…それになんの意味がある?春は近い。でも今日は寒い。だから、私はあえてホットを注文した。そうだ、奮い立て。温まろう。ホットタピオカミルクティーは漢の通過儀礼なのだ。
っちいいいいいいい!!!
■時間を喰らい大きくなり過ぎたタピオカ
私も、タピオカドリンクも、昔となにも変わっちゃいないみたいだ。ホットタピオカはあの頃と同じように容赦なく熱い。私はそれを分かっていながら、嬉々として太いストローに吸いつき、口の中でタピオカを踊らす。
もう一度飲めば気持ちが昂るんじゃないだろうか。そして、またなにか楽しい毎日が始まるんじゃないだろうか。そんな期待もあった。だが、飲み終わってみると、私は驚くほど冷静だった。
なんというか、「取引先」に会ったような感覚だったのだ。取引先。お互いに必要なときにだけ連絡する間柄。需給がマッチすればお互いに嬉しいが、私情はほとんどさしはさまない。
だから、久しぶりにタピオカドリンクを飲んで、最初に出てきた言葉は「やっぱり大好き」でも「2年間飲めなくて寂しかった」でもなかった。
「ご無沙汰しております」
これだった。
ときに思い出は危険だ。時間を喰らい肥大し続ける。少し飲まない間に、私の中でタピオカは大きくなり過ぎたのかもしれない。
ようやくタピオカと私の正確な距離が測れたような気がする。
■店舗情報
店名:台湾タピオカ専門店 三太子
住所:東京都新宿区上落合1-1-15店舗4号
最寄駅:西武新宿線「下落合駅」南口から徒歩30秒
HP:https://tapiocasantaizu.business.site
※PR記事でもなんでもなく単なる趣味の記録です。三太子さん、美味しいタピオカをありがとうございました!
——おわり——
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