作品販売で伸び悩んでいるあなたへ
作品クオリティーを上げ、手作りの良さをお客様に届けようと努力してきた「あなた」。やる気はあるはずなのに、どうしてか最近は活動を続けることがしんどくなってしまいました。今日は、手作り作家がぶつかる壁についてお手紙を書いていきます。
このnoteは、10年前の私である「あなた」に向けて書いています。
「あなた」は作品販売を頑張る売れないハンドメイド作家。
「わたし」はワークショップ歴10年のプロ講師です。
「一点物」作品の魅力
作品を通してものづくりの楽しさを感じてほしい。心の中に熱い想いを持ったあなたは毎月イベントに参加しながら作家活動を続けてきました。
接客時、あなたはよく「一点物」という言葉を口にしています。
あなたの作品制作は、手の感覚を頼りに粘土をかたちづくっていく作業。気温や湿度やあなた自身の内面まで様々な要素と指先で対話しながらの作業は、同じモチーフを作るのでも毎回微妙に違って新鮮です。その微妙な差の影響が作品にも表れ、ちょっとずつ個性が出るのが愛しくて、「ものを作る時のこの魅力をお客様にも届けたい」と思った時に、あなたは「一点物です」という説明を選びました。
大切に仕上げた一点物の作品たちを陳列してのイベント。購入アイテムを決めてから「どの子をお迎えしようかな」と楽しそうに悩んでくれるお客様の姿は、どんな疲れも吹き飛ぶほど嬉しいですよね。
作品制作の労力
良いものを作るというのは、行程一つひとつに丁寧な気配りが要求される繊細な作業です。先ほど書いた気温や湿度含め、制作時の条件は都度変わるので最後まで気を抜くことができません。時には最終工程で失敗し、何日もかけて作ったパーツを全て無駄にしてしまったことだってあります。
職人気質なあなたはハンドメイドを始めてから今日までずっと、根気強く丁寧な作業を続けてきました。販売価格が安過ぎるために「趣味の延長」と思われ悔しさに震えたこともありますが、あなたの制作はずっと本気の真剣勝負でした。あなたの作品は強いこだわりと多くのエネルギーを注いで生み出されています。
ハンドメイド作家がぶつかる壁
そんなふうに魅力的でクオリティーの高い作品を作ってきたあなたですが、時間が経つにつれてしんどい気持ちが強くなっているのを感じています。お客様に喜んでもらえる瞬間の喜びはものすごく大きいけれど、その瞬間以外は売れない自分に自信が持てなくてずっと不安が消えない。大好きなハンドメイドを、自分の意志で、やる気を持ってやっているはずなのに、どうしてこんなに気持ちが沈むんだろう。心の底に淀んだ感情に気付きながらも、誰にも言えずに悩んでいますよね。
悩みを経験して10年大人になったわたしは、あなたのことを客観的に分析できるようになりました。あなたがぶつかっている壁が何なのか、整理するポイントは3つあります。①目標と②現状と③目標へ辿り着く方法です。
目標に向かってできる限りの努力をしてきたけれど、このまま頑張っても目標には届かないだろうと勘付いているのが現状。目標は諦めたくない。なのに、じゃあどうしたら目標に辿り着けるのか方法もわからない。考えても思いつかない。進むべき道が見えないから、不安で不安で仕方ない。不安なまま月日が過ぎていくから気持ちがどんより沈むんです。これが今あなたがぶつかっている壁の正体です。
壁を超えるために
「頑張り屋さんのあなたへ」というお手紙に書きましたが、あなたが今のままハンドメイドの作品販売で10万円稼ぐのは、かなり厳しい目標です。
少しでも購買してもらうチャンスを増やすために、同モチーフでイヤリング・ピアス両方作ったり、商品のカラーバリエーションを増やしたり、あなたは商品の選択肢を増やしてみました。商品のバリエーションが増えるということはあなたの作業が増えることでもあります。もっともっとと頑張ってくるうちに、真面目なあなたは いっぱいいっぱいになってしまいました。
たった一人で山ほど作業を抱えたあなたにいま本当に必要なのは、手放す勇気です。
私が手放したもの
あんなにこだわって自分の手で作品を制作していた「あなた」が、どうして今はワークショップを専門にしているのでしょうか。わたしは自分の手で作ることを手放したからです。
でもそれは楽をするために手放したのではありません。
自分の活動と向き合い、優先順位をつけて選んだ結果です。
作品クオリティーを上げたいとか、自分も楽しみながら活動したいとか、チャンスを逃したくないとか、お客さんを良い意味で驚かせたいとか、もっと売れたいとか、安売りしたくないとか、わたしの中には色々な思いがありました。特に強かったのは
・ちゃんと仕事として稼ぎたい
・ものづくりの楽しさを伝えたい
・作品クオリティーにこだわりたい
の3つの気持ちでした。
当時のわたしにとって「稼ぎたい」は絶対目標で「楽しさを伝える」は活動の原動力でした。そして、「楽しさを伝える」ためには「クオリティー」にこだわる必要があるけど、「クオリティー」にこだわると「稼ぐ」のに十分な商品数を作れないという、ジャンケンみたいな矛盾を抱えていました。矛盾に追い詰められて壁にぶち当たり、動けなくなっていた時に試してみたのがワークショップでした。
ワークショップに出会って、私は目から鱗が落ちました。
ものづくりの楽しさを伝えたいなら、作品のクオリティーを「通して感じてもらう」なんて回りくどいことをせずに、作品作りを「直接体験してもらえば」よかったのです。
ワークショップなら、一つひとつに個性が出る「一点物」のものづくりの面白さも、お客様と一緒に味わうことができます。それに、定員数を多くするなどやり方次第では自分の手で制作できる作品数よりもずっと多くのお客様に提供できます。これは目標(10万円)分以上の商品を継続的に生産できる方法で、つまり矛盾解消の糸口でした。
稼げる自分への道筋が見えたわたしは、ものづくりの楽しさを届ける方法にワークショップを選び、作品販売という方法は(ずっと頑張ってきたけど勇気を持って)手放すことを決めました。
壁にぶつかり長いこともがいていた売れないハンドメイド作家は、ハンドメイド作家を卒業してワークショップ講師になることで、とうとう大きな壁を越えることができたのです。
壁にぶつかっているあなたへ
壁にぶつかり悩むあなたは、前に進む手応えがなくて焦りで喉がヒリつくような不安を抱えていることと思います。
いまのあなたはね、きっとサナギの状態なんです。変わっていないように見えても内側では羽化に備えてじっと自分を見つめ直しているんです。大きな壁を越えるには大きなエネルギーが必要だから、もうすこし時間がかかるだけなんです。
大事なことは、壁が大きければ大きいほど越えるときに遠くまで飛べるってことです。だから不安に負けないで力を蓄えてください。あなたが感じる楽しさも喜びも焦りも不満も、ぜんぶ羽化のエネルギーになります。
でも自然界は厳しいです。羽化を待てずに力尽きるサナギも少なくないのが現実でしょう。わたしは あなたが賢いこと、心の内に強い想いを持っていること、忍耐強いことも知っていますから、あなたは大丈夫だと信じています。けど同時にサナギで耐える時期がどんなに辛いかも知っています。だから心配もしています。
もしも。
もしもあなたがどうしても辛くなったら。
わたしにお手紙を書いてください。
わたしに向けて気持ちを文字にしてみてください。文字にすると自分の気持ちが目に見えます。目に見えるものは整理しやすくなりますから、お手紙はあなたの助けになってくれると思います。
あなたを信じていつも応援しています。
そして、あなたに感謝しています。
わたしより