別れない理由を探し続ける友人よ

あるとき友人が悩んでいた。
話を聞くと同棲中の彼女とうまくいっていないらしい。

「別れりゃいいじゃん」

おれは気楽にそう言った。
だってそうだろう。
うまくいっていないなら離れればいい。誰だってそうアドバイスする。

掘り下げて聞いていくと、その相手は毎日ずっと夜遅くまで友達と電話してその声が気になって眠れないらしい
共通の財布に給料もなかなか振り込まないらしい。
当然のように夜の営みだってしばらくない。
喧嘩も増えて生活リズムも異なることから
一緒の家にいるのにすれ違いばかりだと。

注意すれば反省してくれるのだが
数日経つと何事もなかったように同じことを繰り返してしまうんだとか。

なんてことだ!
さあ!早く別れろよ!
出会いなんていくらでもあるぞ!
結婚したいんだろう?
立ち上がれ!


それから暫くしても、その友人はなかなか別れようとしなかった。



理解できなかった。
なぜその苦しみを許容し続けるのか。
と、同時におれはその彼女に腹が立った。


なぜ一緒に暮らす人を思いやれない?
なぜ行動を改められない?
なぜいつまでも実家で暮らしているような感覚から抜け出せない?


おれは友人からの愚痴を聞くたびに彼女への嫌悪を募らせていった。
…のだが。

ある日、その怒りの正体がわかった。


その彼女はおれだ。と。

自分が彼女のようにパートナーに対して思いやりのない行動をしてしまう事実を受け入れられていないから
自分の至らなさを受け入れられないから、他人にもそれを投影して怒れていまうんだ。と。


しばらくして友人がなかなか別れられないのも
理由がわかった気がした。

人はその対象にコストをかければかけるだけ離れがたくなるという。
推しに時間やお金を費やすと、いざ手放そうというときにその時間やお金がもったいなく感じるのだとか。

心理学ではサンクコストの誤謬というらしい。

その友人もきっと
別れて同棲を解消したら
記念日に送ったプレゼント、同棲するにあたって買い揃えた家具家電のお金や
30歳手前の貴重な時間をムダにしたことになる、と思ったのだろう。


だから「別れりゃいいじゃん」と言うたびに
「いやでも、」と別れない理由を探したのかもしれない。


このままズルズル結婚してこれからかかっていくコストのほうが莫大で取り返しがつかないというのに。
そしてそうすればもっともっと別れることが容易でなくなるというのに。



※友人はその後、その彼女と別れて今は新しい彼女と幸せそうにしてます。

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