#05 神楽坂のサスティナブルな小確幸カフェ「アカアマコーヒー」
こちらのエッセイはパリの珈琲にまつわるetcの連載マガジンです。その他の記事はこちらからどうぞ。
・・・と言いつつ、今回紹介するカフェは番外編。久しぶりに母国日本へ一時帰国した際に出会った一杯とそのお店の紹介です。
*
秋晴れの朝、東京の滞在地として神楽坂に数泊していた我が一家。遅めの朝食をとろうとスーツケースをごろごろ転がしながら、赤城神社を通り抜け神楽坂の静かな裏道を歩きたどり着いた「AKHA AMA Coffee(アカアマコーヒー)」。
日曜日ということもあってか、朝遅めの時間にもかかわらず、店内・テラス席共に満席。こちらは子連れでスーツケースまであるファミリー。諦めようかな、とは言え他のカフェを探さねば。。。店の外でスマホで調べ始めたところ、店員さんが「カウンターで良ければ」と席を作ってくださった。ありがたい。救われたような気持ちで早速店内へ。
レジで注文をしようとメニューをみていると、先ほどの店員さんがお店についてとても丁寧に教えてくださった。お店の名前にもなっているアカアマの「アカ」とはタイの北部にある村の少数民族「アカ族」、そして「アマ」は「お母さん」の意。その村で作られたコーヒー豆を使用しているカフェだった。
タイでコーヒー豆が栽培されていることすら知らなかったわたしは、店員さんの話にどんどん惹き込まれていった。アカ族出身の青年リーさんは、貧しい少年時代を送っていたが、家族、村を豊かにしたいという想いから母親の稼業だったコーヒー豆の栽培を新しくカフェの経営というカタチで起業し、豆の栽培、焙煎、そして現在はタイと日本にカフェを経営しているのだそうだ。
豆の栽培から一杯のコーヒーとして私たちのもとに届くまで全てをまかなう。他にはない個性的な世界を背景に持つことがわかったけれど、さらにそのコーヒー農園の様子に惹かれた。
「ここが豆を作っている農園です」と店員さんが小冊子を指さした。辺り一面樹木だらけの森の写真だった。どれがコーヒーの木なのかすらわからない。
その農園は、さまざまな果物やナッツなどの木々の間にコーヒーの木が植えられている「森林農法」という森の生態系を守りながら、栽培をする方法で作られている。環境を守りながら持続可能な栽培法で作られていることがわかる。そのため農薬も使われていない。
彼らにとって持続可能であることは死活問題である。自分達の土地を守りながら共生していきたいという思い。
お店の方からお話を聞くのが一番よいのだが、すぐにお店に行けない方は、サイトを是非読んでみてほしい。
さらに私が心惹かれたのは、アカ族の民族衣装の美しさ。お店のロゴにもなっているリーさんのお母さんが被っている帽子は、無数の装飾が散りばめられとても印象的。さらに、リーさんの家族や村人たちが羽織っている、日本の半纏のような羽織ものも、幾何学模様がなんともチャーミングに織り込まれていて素敵だ。以下のサイトに写真や織物についての話をご参考までに。
丁寧に淹れられたコーヒーと合わせて頼んだケーキが運ばれてくるまで、私はこのタイの山中に暮らすアカ族に想いを馳せた。コーヒー豆を通して、一人の青年が自分の生まれた村と村人たちをさらに豊かにしている。村が伝統を守りながらも発展している。
神楽坂の片隅で、コーヒーに秘められた夢とストーリー、東京滞在で思いがけず出会えた素敵なお店とその一杯。ささやかだけれど、穏やかで幸せな時間が過ごせる場所。村上春樹氏が命名した「小確幸」という表現が相応しいカフェではないだろうか。
AKHA AMA COFFEE
東京都新宿区赤城元町1-25
mon-sun 8:00-19:00
この記事が参加している募集
サポート代は連載中のパリのカフェ手帖「フラットホワイトをめぐる冒険」のコーヒー代や美術館エッセイ「カルトブランシュ・ミュゼ」の資料代にあてさせていただきます。応援よろしくお願いします!