レイモンド・カーヴァーを読もう、よい読者となるために。
もしあなたが、村上春樹の作品が好きで、概ねを読んできたのであれば、レイモンド・カーヴァーを読んでみてはいかがでしょう。村上氏が影響を受けた作家で、日本語訳は春樹氏が手がけています。彼のお陰で我々はいまその作品を読めているわけでもあります。また、たとえ村上春樹がお好きでなくとも、カーヴァーはアメリカ現代作家として重要なひとりです。
カーヴァーは生涯短編小説、詩作にこだわって執筆していた作家です。短編小説という枠のミニマムな文章の中で、ここまで我々の心を掴み、独特の余韻を残す物語、人の心を捉える話へと展開させていくストーリーテラー力は、磨き上げた職人技を眺めているよう。
なかでもとりわけ好きな二作品を今日はご紹介します。
まずは、私の周囲のカーヴァー好きな友人知人の間でも不動の人気の「大聖堂」。
あらすじは、
「主人公の妻は以前盲人の部下として働いていた。退職した後もその盲人と妻はカセットテープに音声を吹き込んで文通をする仲だった。ある日、その盲人が主人公の家を訪ねてくるという。当惑しながら主人公と盲人は出会うことになる。食後のテレビには、大聖堂を映し出した番組が流れ、大聖堂を巡って盲人と主人公の対話が始まる…」
短い物語に凝縮され描かれる舞台設定と主人公の心理。懐疑心を隠せない彼と盲人との距離感。ラストに向け静かに昇華してゆく空気を是非味わっていただきたいです。
そして、もう一作は、「ささやかだけれど、役にたつこと」。原題は ”A Small, good thing”。春樹氏の造語と言われている「小確幸」はここからきているのではと思います。
ストーリーは、
「ある夫婦が息子のために誕生ケーキをパン屋に注文するが、とある問題により、それを受け取りにいけなくなる。事情を知らないパン屋は連日にわたり、その夫婦の留守電にメッセージを残す。一向にケーキの受け取りに来ない彼らに怒りを感じ始めるパン屋。誕生日が過ぎた数日後、息子は息をひきとった。ようやくケーキのことを思い出した夫婦は絶望の中、パン屋へと向かう。そして事情を知ったパン屋は焼きたてのパンとコーヒーを振る舞いながら、話を始める…」
細かい事情は、是非読んでいただきたいので割愛しています。 悲しみの中で、黙々と食べるシーンには人間同士の触れ合う生の温度を感じる。
村上春樹氏は、カーヴァーについて、短編集「Carver’s Dosen」の中でこのように語っています。
最後にカーヴァーさんの残した読書家を励ます言葉を。
「よい読者になることは、人生をわたる上での武器になる」
こつこつと本を読んでいくことに、自信をもらえる気がしませんか。
「ささやかだけれど、役に立つこと」はこちらの短編集に収録されています。