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自分の人生を自分で選んで――。ランドセルでアフガニスタンの子どもを支援。

使わなくなったランドセルを回収し、公益財団法人ジョイセフが行っている「思い出のランドセルギフト」に寄付している「ランドセル・フロム・イーハトーブ」。級木美子まだのきよしこさんが2021年から1人で始めた活動です。ジョイセフへ寄付されたランドセルはアフガニスタンへ渡り、貧しい子どもたちへ贈られます。貧困の問題や宗教上の制約から、子ども、特に女の子の教育に否定的な親や地域の意識改革に、ランドセルは役立てられています。
賛同者や協力店の助けを借り、活動3年目を迎えた2023年。「勉強は『自分にとって正しいもの』を考える機会を与えてくれます」と話す級木さんにお話をうかがいました。
※表紙写真は、右から次男・崚斗りょうとくん、三男・逞斗たくとくん、級木さん、長男・駿斗はやとくん。

2022年は105個のランドセルを1人で梱包した級木さん。
今年2023年は子どもたちから「手伝うよ」と声を掛けてくれた。
毎年、チラシは級木さんが自作している。
2023年は花巻空港の負担で、先着20名は無料で寄付を受け付ける試みも行われた。

公益財団法人ジョイセフとは
女性のいのちと健康を守るために活動している日本の国際協力NGO。戦後、日本で蓄積された家族計画・母子保健の経験やノウハウを、途上国でも実践してほしいという国際的な要望から、1968年に設立されました。アジア、オセアニア、アフリカ、ラテンアメリカ地域にある30余カ国で、住民が主体となれる健康向上のための活動を支援しています。
●アフガニスタンにおける女性支援活動
2002年から現地のNGO、アフガン医療連合センターとともに女性支援クリニックを運営。男性に肌を見せることができない女性のために、クリニックには女性の医師や看護師が常駐しています。合わせて、母子保健に特化したクリニックの運営も支援。妊婦健診、出産介助を始め、産後のケア、避妊薬(具)の提供、予防接種などを実施。待ち時間にはスタッフが、家族計画、感染症予防などの健康教育も行っています。一人では自由に外出できない女性には、子どもにパンフレットを渡してもらうなど工夫が必要です。
●アフガニスタンの女子教育
小学校へ通う男の子は73%、女の子は53%(「世界子供白書2017」)。学校に通えず、教育を受けられない子どもが多くいます。そのため成人識字率は43%、女性に限定すると29.8%とさらに下がります(UNESCO,2020)。
特に女の子の就学が難しいのは、遠くまで歩いて水をくみにいかなければならなかったり、人口の約99%がイスラム教を信仰している環境で、クラスメートや先生など家族以外の男性がいる学校へ通うことに理解が得られなかったりするためです。


2022年は地元メディアで取り上げられたこともあり105個集まった。
6年間使われていても、まだ新品のようなランドセルもある。
「フェアスポーツもりおかA.T」(南仙北)、「Bonジュール」(肴町)、
「山口輪店」(材木町)の3店は1年目から協力してくれている。
※写真は「フェアスポーツもりおかA.T」で撮影。

自分の人生を
自分で選択してほしい

小学生の頃から、級木さんには大きな疑問がありました。
「何のために勉強するんだろう?」
小学校、中学校、高校と信頼できる幾人かの先生に質問しました。どの先生も、返答は同じ。「将来のため」。それでも質問を続け、納得できる答えに導いてくれたのは、大学で選択したゼミの先生でした。
「今、目の前にあることが正しいかを判断するためです」
つまり、だまされないために勉強するのだ、と理解しました。
なるべく多くの知識や価値観を知って、自分で考える。自分で考えられれば、自分にとって正しいことは何なのか、立ち止まることができます。
級木さんにとって「だまされない」とは誰かの言いなりにならず、自分の人生を自分で選択すること。
「テロ組織が支配する地域にいる子どもたちは、爆弾を抱えて自爆しろといわれたら従ってしまいます。それが当たり前だからです。でも自分で考えられれば『当たり前』を疑えるかもしれない。生きるために、逃げるという選択ができるかもしれません」
「自分にとっての正しさを考える」手段としての「勉強」。勉強するには、まず文字を扱えなくてはなりません。学歴に関わらず大抵の大人が文字を扱え、就学前に読み書きを始める日本の子どもと異なり、アフガニスタンでは小学校に行かなければ、文字に触れる機会がないのです。
「今はこうして話せていますが、寄付活動を始めるまで、ジョイセフもアフガニスタンでの教育の現状についても知りませんでした。大人になった今でも日々勉強です」

ランドセルの中には、未使用の筆記用具やノートが入っているものもある。
筆記具類のみの寄付は無料で受け付けている。

「思い出のランドセルギフト」とは
ジョイセフが行う、日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンに寄贈する国際支援活動です。ランドセルの素材メーカーの提案で2004年に始まり、2021年までに約25万個を寄贈。活動によって、ランドセルを背負わせてあげたい、学校で勉強させてあげたいという気持ちが、子どもを就学させていない親たちに芽生え始めています。男女に平等に配ることで「女の子も男の子と同じように学校へ通うもの」と考える住民も多くなってきました。
●教育の必要性
アフガニスタンでは児童婚が認められており、12、13歳で結婚し出産する女性も少なくありません。体が十分に発達しない時期の妊娠出産は、母親や赤ちゃんのいのちを危険にさらします。
文字が読めない妊婦に情報を伝えるには、会って話をしなくてはいけないため、とても時間がかかります。自由な外出を許さない家では通院もできず、情報を得る手段がパンフレットしかない場合もあります。
こうした現実の問題から、ジョイセフでは、アフガニスタンの女性と赤ちゃんのいのちを救う第一歩は「教育」であると考えています。
家族を養うためにテロ組織に所属する男性が多いアフガニスタンでは、女性だけでなく男性にとっても教育は大切です。
ランドセルは女性にとっても、男性にとっても「健康で平和な暮らし」の第一歩を踏み出す機会になっています。
https://www.joicfp.or.jp/jpn/column/afghanistan/

買ってきたダンボールの組み立て。
2人だとあっという間。
「まだ入るかな?」。駿斗くんが逞斗くんをサポート。

盛岡からアフガニスタンを支援
長男の卒業を機に始めた活動

「ランドセル・フロム・イーハトーブ」ではランドセルを、1つにつき2300円の輸送料と一緒に預かり、ジョイセフが行う「思い出のランドセルギフト」に寄贈しています。1年目は52個、2年目は地元のテレビや新聞などに取り上げられ105個を送りました。
今年の受け取り場所は盛岡市、滝沢市、遠野市など岩手県内9カ所。あまり告知をしませんでしたが、2週間ほどで約50個が寄せられています。
持ち主である子どもが主体になれるボランティア活動として、少しずつ定着しています。
ですが、目的は寄贈だけではありません。アフガニスタンの現状や人のいのちを救うジョイセフの活動を多くの人に知ってもらうこと、活動の大きな目的です。
「誰に頼まれたわけでもないんです。勝手に応援しています」
活動のきっかけは長男・駿斗くんの小学校卒業でした。わが子のランドセルをミニランドセルにリメイクした知人の話を聞き、自分もやりたいとネットで調べていて「思い出のランドセル」に出合いました。
大学では国際学部に在籍し、卒業後は海外での国際支援も考えていた級木さんにとって、盛岡から外国を支援する方法は魅力的でした。駿斗くんに相談すると「寄付していいよ」とすぐに賛同してくれました。
調べると1個も2個も送料が変わらなかったため、実際に寄付したのは2つ年下の次男・崚斗くんが小学校を卒業した2021年。話をすると同級生のお母さんが参加してくれました。周囲に話すたびに寄贈の輪が広がり、ついに場所を提供してくれる企業まで現れます。

ダンボール1箱に7個のランドセルが入る。
詰め終えたダンボールを、手際よく閉じる。

自分にとっては要らないものでも
誰かにとっては人生を変える力がある

保管場所はパートとして働く地元工務店の2階、8帖ほどの事務所です。募集期間が終わると協力店からランドセルを回収し、ホームセンターで買ってきた160サイズのダンボールに梱包。近くの郵便局まで車で運びます。事務所に保管できる数が多くないため、一連の工程を何度もくり返さなければなりません。
手間のかかる作業を続ける励みは、毎年ジョイセフから届く感謝状。中には活動報告も書かれています。
感謝状を初めて読んだとき、級木さんも子どもたちも驚きました。ランドセルを受け取ったことで就学でき、医師や教師になって故郷で活躍している女の子や男の子が紹介されていたのです。
自分にとってはいらないものも、必要としている人がいる。自分たちのランドセルを手にした子も、何年後かにはこうして紹介されるかもしれません。
「自分の持ち物や行動が、誰かのためになっていると実感しました」と駿斗くんは話します。
それでも「ランドセル・フロム・イーハトーブ」は三男・逞斗くんが小学校を卒業する2028年までと決めています。
「やりたいことがたくさんあります」。2022年、盛岡市の農家から規格外のリンゴを買い取ってサイダーの製造販売を開始。台風で落ちたリンゴを埋めている現場に立ち合ったことがきっかけです。今年は紫波町の農家から規格外のブドウを買ってジュースをつくる予定と目を輝かせます。
積極的に活動する級木さんを「ちょっと変わってる」と評する駿斗くんと崚斗くん。この3年、事務のパートと不動産関係の自営業を掛け持ちながら、男の子3人の育児、家事、ボランティアと、忙しくも楽しそうな母親の姿を間近に見てきました。
「他の人のために働く母を誇りに思っています」と駿斗くん。
勉強や仕事を面白がる大人の態度は子どもの心に強い印象を残します。「誇り」と感じた母の姿も忘れることはないでしょう。そして、記憶に焼き付いた母の姿は、人生の岐路で必ず現れてくるはずです。

引っ越しシーズンと重なったからか、ダンボールが手に入らず、この日は3箱で終わり。
この後、車に積んで郵便局へ運んだ。
形がはっきりしているから、使われている風景や使っている子を想像しやすいと級木さん。
「使ってくれているかなと考えることは、アフガニスタンの子どもたちが
みんな通学していてほしいと願うことですし、
差別のない平和な暮らしを祈ることと同じだと思います」

級木 美子(まだのき よしこ)
1978年、岩手県盛岡市出まれ。文教大学国際学部卒業。
2021年「ランドセル・フロム・イーハトーブ」を発足、活動開始。
2022年「さんさスパーク」の製造販売開始。 
趣味は山菜取り、さんさ踊り、ツーリング、天体観測など。現在は子どもたちが参加するスポーツのおっかけ。

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編集後記
子どもの頃、大好きだった絵本に「アンナの赤いオーバー」という作品があります。第2次世界大戦後、赤いオーバーを買ってもらうことになっていたアンナ。ですが、街には食べ物すらありません。お母さんは思案し、物々交換でつくろうを思いつきます。羊飼いのお百姓さん、羊毛を糸に紡いでくれるおばあさん、糸を布にしてくれる機屋さん、布をオーバーに仕立ててくれるテーラーさんを訪ね、最後はみんなを招いてクリスマス会を開きます。
子ども心に赤いオーバーが素敵でした。そして、たくさんの人たちに出会い、祝福されるアンナが印象的でした。
出会いはすべて、お母さんが用意したものです。けれど、その出会いをしっかりと受け止め、大切にしようとする「心の準備」がアンナにはあります。それはきっと、お母さんと絵本では登場しないお父さんから与えられたものでしょう。
級木さんのお子さんたちに、アンナと同じ「心の準備」があると感じました。他人事を自分事として活動する級木さんの真摯な態度は、わが子にも向かっています。人間としても母親としても、見習いたい方です。
                        取材・撮影/前澤梨奈

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