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#旅のフォトアルバム
波
波と風
湿った空気に
混ざる砂
ベタつく肌が
塩味を帯びる
この世の物質は全て波を帯びているらしい。
感覚では全く解らないが、海も空気も砂浜も、そして目に飛び込む光も等しく波であるというのは壮大な自然と未知の中で粋がる人間の矮小さを示している。
些細な砂つぶにすら気を立て、敵わず背を向ける僕らは弱い存在だ。
雨
降り頻る
雨に構わず
袖濡らし
うねる水面に
逆らい歩く
僕が支配可能な領域は小さくて狭い。ときどきそんな事実を突きつけられ、目を覆ってしまう。でも、強く有りたいという願望は不変だ。悔しかろうが、恥ずかしかろうが、波立つ自分の感情を置き去りにするつもりで歩まなくては異なる景色を観られない。
すれ違い
すれ違い
振り向き捉えた
日常の
再現できぬ
美を独り占め
僕はGR2というカメラを自在に使いこなしたと自負していた。それを右手に握っていた時期は人よりも写真を撮り狂い、多くの偶然を切り取った。僕の中で一番記憶に残るこの写真も、他人から見れば質の悪い蝶の写真なのかもしれない。易々と見逃す景色ならば、その美しさについて他人からの同意を得られると勝手に期待していた。
名
名を借りて
銭を稼ぐは
赤の他人
貸す名なければ
夜を彷徨う
著名な写真家の展示会場へ行ったが、写真自体に感激することもなければ、思想に影響される予感も皆無であった。一方で、順路を巡り終えた時に僅かな嬉しさが込み上げた。言わずもがなと思える一連の展示は僕の写真が自分にとって意味があることを確かめるには十分だった。
役
役終えて
景観損ねる
鉄屑も
かき集めれば
金と見紛う
路肩に放られた空き缶にすら値段がつけられているというのに、抜け殻になった自分には全く価値がない。今はまだ気力体力ともに残存しているが、仮に出涸らしの身体だけになった時、生きるという必要悪を選択することになる。肉体を切り分けても、言葉を失っても、それらを身に宿していること自体の素晴らしさを伝え、身投げを一つでも減らしたい。
雪
これ雪と
色音匂いで
見分けるが
凝らせば氷晶
穂に付き重なる
人間は真新しい物に名前を付けるが、付けた名を改めて呼ぶことはせず、略称や種族としての呼称で共認識を得る。ある程度の区別さえできれば細かい違いなんてどうでもいいのだ。そんな大雑把な感覚を振り回しているからこそ、緻密に働かせた時に面白いと思える。そして自分が測りとる尺度の不正確さを忘れた時、見る世界が固定され、精彩を欠く。
無機質
無機質に
侵食される
人間の
生きる苦悩は
背から離れぬ
人生において一切の苦痛がない時期は存在しないだろう。救済を求め、運良くその場を凌ぐことができても、永遠に享受し続けることはできない。ましてや自分の利を第一として他人を妬み嫉み、希薄になりゆく社会で老いに屈しず、自立し続けることが可能なのだろうか。