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はじめて自炊した翌日の出来事
この時のために…もといこの日だけは、しっかりと料理しておけば良かったと思わないことはない。
数年前の今頃に上京を果たし、新しい職場へと入社する初日を迎えた朝に、その事件(?)は突如起きてしまった。甲高い音を鳴らす目覚まし時計に眠りから覚めるも、身体を起こした途端に自ら見える前方の視界が、メリーゴーランドのようにぐるぐると揺れているように見える。
加えて自分の身体がなんというか、真っ直ぐに立つことができず、どこかしら傾いているような感覚をもったのである。これは間違いなく調子がおかしいやつだ。そう気づくも束の間、ほんの一ミリでも気を緩めてしまえば、地面にバッタリと倒れてしまいそうだった。
もしも、この時に発症した一連の眩暈に原因があるとするなら、その前の日の晩に食した、人生初の自作野菜炒めに違いない。フライパンに放り込んだ野菜に対して、それぞれ火の通り加減がわからないまま炒めたせいだろう。
でなければ、こうして翌日になって意識が朦朧とするかの如く、立ちくらみするような場面に出くわすことはまずない。それよりも冷静に分析している余力などなく、平然を装って真っ直ぐと立つにもかなりの精神力を必要としていた。
因みに私は上京するに至るまでの間、まったくと云っても過言ではないくらい、自ら料理をおこなったことがない。実家で生活していたときは、ほぼほぼ親に任せっきりであり、これからおこなっていく自炊とは無縁な食生活を送ってきていた。
やがて一人暮らしをし始めてから数日経過し、そろそろ自分で料理を作らなければいけないと考えていた。そして本腰を入れて調理をおこなったつもりが、まさかの大失敗に終わってしまったのである。
よくよく考えたら、どうして料理未経験者が無事に上手く作れると過信したのだろうか。そうした思い込みと料理の経験においてなまくらのまま、ろくにレシピ本などを目にしないで作って食した結果、一晩明けて体調が絶不調へと急転してしまった。
そんな中で、誰かしらから体調が悪いのかと心配されないように、なんとしてでも必死に堪えなければならなかった。入社初日から早々、はじめて自炊した料理で食あたりなってしまったという理由で休むことは、自分としても世間的にも絶対に許されることではないと悟っていたからだ。
各々の状況が何であろうと、今日一日だけは根性でなんとか乗り切るしかない。そう云い聞かせつつも、足元が覚束ない状態のまま、私はこれからお世話になる職場へと向かっていったのだった。
幸いなことに翌日は祝日が絡む休みであったことから、その明けには体調を万全な常態までなんとか取り戻すことができた。仮に一日でも休みがなかったら、おそらく2、3日経過した頃合いに力尽きていたかもしれない。
今頃になって、過去の失態という出来事を振り返るだけでも、無意識にゾッとしないことはない。だが今となっては、経験不足に在るまじき失態を起こすことはほとんどなく、そつなくこなし続けている。
下手したらあの日の出来事を境に、一つの行動にうつさなくなってしまう可能性も十分にあったはずである。けれど、自分にとって生きる上での大きな失敗に遭遇したのもあって、自分で立ち直るためのきっかけが生まれ、そして今に至るまで続ける活力に繋がっていたのだと思う。
その中にはもちろん、一人暮らしを始めてなおかつ自炊を続けることも含まれているのだと。間もなく節目を迎える年になって、改めてそう感じたのだった。
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