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「不幸中の幸い」として捉えるか、否か。

その日の夜、一つの都市ともう一つの都市を結ぶ高速道路のとある場所は、事故で渋滞していた。


目的地まであと半分を超えたところまでは順調に流れていたのに、その境目に入った途端に車の流れが急に悪くなり始めた。通りかかった情報掲示板には、随所にあるインターチェンジ間で起きている渋滞の距離と、通過するのにかかる目安時間が表示されていた。

やがて前方には渋滞を知らせるための、常時点灯している赤と点滅している黄色の、それぞれのランプが付いた車の列が見えてくる。それらが視界に移ってきた時、自分も倣うようにして後続車に減速を促すためのハザードランプを付ける。

それと同時に、渋滞情報のラジオをキャッチする特定の周波数に切り替え、冷静に対処するための態勢を瞬時に整える。しかしながら「こんな日に限って渋滞に巻き込まれるなんて運がない」と、そう考えなくはなかった。


車は迂回する場所に辿り着けないまま、アリ地獄のように身動きが取れない渋滞へと吸い込まれる。そこからは、ゆっくり止まったりゆっくり進んだりの繰り返しが続いていく。

突如として隙間を埋め尽くすような岩が落ちてきて、流れを堰き止められてしまったかの如く、思うように動かなくなってしまう。それでもおよそ1時間かけて、流れが鈍くなった赤い光の川を泳ぐように進んでいった。


ナビが示す、丸で囲まれた赤いバツ印の事故現場にたどり着くと、最新の渋滞情報を知らせるラジオのアナウンス通り、前方の追越車線のあたりで2台の大型トラックが衝突して止まっているのが見えた。

その周りには自分の肉眼で目視できる限り、ぶつかっては粉々に砕かれたガラスやプラスチックの破片が道端に散らばっている。一方で衝突を受けた後続のトラックは、特に操縦を司るキャブの部分においては、もはや原型をほとんどとどめていなかった。

極め付けには、おそらく一連の事故に巻き込まれたであろう、後ろ部分が大きく凹んでしまった軽自動車が路肩に止まっている。その付近では、事故現場に駆けつけた複数のパトカーが、赤色の警告灯を回転させながら事故が起きている旨を知らせている。


幸い今回の事故で死者は確認されておらず、意識不明の重体を知らせる報道も流れていなかった。何より、トラック自体が堰き止めるように道路を横転して、周囲が立ち往生することもなかった。

とはいえこの中に、真面目に安全運転を心がけていたにも関わらず、交通事故に巻き込まれてしまったら、文字通り「最悪」だと思わずにはいられないのかもしれない。

そして今回の渋滞に巻き込まれてしまい、時間通りに目的地に辿り着けなかったことを「運がない」と感じるか、あるいは事故に巻き込まれなかったことを「不幸中の幸い」と捉えるのか。

また事故現場に遭遇してしまった人達は、衝突事故に遭遇してしまったことを「運がない」と感じるか、それとも命に別状がなかったことを「不幸中の幸い」と捉えるのか。

それと一連の事故の原因をつくり出した本人たちは、いったいどう考えているのだろうか。少なくとも、あの事故現場で様々な人たちの思惑が、排気ガス越しから漏れているように思えたのであった。



最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!