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政治講座ⅴ1114「経済的合理性を考えるトランプ大統領」

「政治的感情論・自尊心・虚栄心 vs 経済的合理性」から判断すると、ビジネス界からの政治界に参入したトランプ大統領は、今回のM&Aを企業経営の実利の経済的合理性から決断すると考える。もし、今回のM&Awo承認しなければ、米国のMAGAの成功は危うくなると考える。
今回は今話題のM&Aの報道記事を紹介する。

     皇紀2685年1月27日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

報道記事紹介

日本製鉄のUSスチール買収計画、トランプ政権でバイデン前大統領の禁止命令は覆るか?これまでの動きをやさしく解説

フロントラインプレス によるストーリー

日本製鉄によるUSスチール買収を支持する集会(写真:AP/アフロ)


 日本製鉄による米国の製鉄最大手「USスチール」の買収問題が混迷を深めています。
 2025年1月初旬、退任直前のバイデン米大統領が突然、禁止命令を出し買収を阻止。これに対し、日本製鉄はバイデン氏を提訴。その後も全米第2位の製鉄会社が日本製鉄の代わりにUSスチール買収に名乗り出るなど異例の展開が続いています。
 トランプ政権の誕生で、問題はさらに複雑な道筋をたどりそうです。
バイデン氏を被告とする裁判が2月3日に始まるのを前に、「USスチール買収計画」をめぐる動きをやさしく解説します。(フロントラインプレス)

そもそもUSスチールはこんな会社

「この買収は、米国最大の鉄鋼生産者の1社を外国の支配下に置くもので、米国の国家安全保障重要サプライチェーンにリスクをもたらす。強力な鉄鋼産業を米国が確保することは、私の大統領としての重要な責務だ」
 2025年1月3日、当時のバイデン大統領はこのような声明を発表し、日本製鉄によるUSスチールの買収を禁止する命令を発しました。
 新年気分が抜けないうちの大きなニュース。
 両社が買収契約を締結し、正式に公表したのは2024年12月18日のことです。それからわずか2週間余り後の出来事でした。
【関連記事】
◎【どうなる日本製鉄のUSスチール買収】バイデン・トランプ・労組の反発を抑え込めるか、衰退してもなお「鉄は国家」
 なぜ、こんなことになったのか、まずは経緯をおさらいしておきましょう。
 米国の繁栄を象徴する企業「USスチール」が誕生したのは20世紀初頭、1901年のことです。“鉄鋼王”のアンドリュー・カーネギー氏が所有していたCarnegie Steel社を、モルガン財閥創始者の率いるFederal Steel社が1900年に買収。その翌年、さらに鉄鋼9社を吸収合併して生まれました。
 USスチールは誕生時、米国の鉄鋼生産の7割を占有する巨大企業でした。
 時価総額は世界で初めて10億ドルを超え、米国の国家予算の2倍に達する規模だったとされています。
 カーネギー氏はこの取引で世界一の富豪となり、のちにカーネギー財団やカーネギー・ホールを設立
 文化や教育分野にも深い関心を持つ慈善活動家としても知られるようになりました。
 USスチールは米国産業界の心臓部であり、多くの米国民にとっても「強い米国」の象徴だったのです。
 世界一の鉄鋼メーカーになったUSスチールは労働者の賃金面にも大きな影響を与えるようになります。そして、最盛期には約34万人となった同社従業員の労働組合は、民主党の強固な支持基盤となりました。
 ところが、第2次世界大戦後は産業の構造変化などに伴い、USスチールは世界的に競争力を失い、製鉄市場の主導権は日本勢や欧州勢に、その後は中国や韓国の企業に奪われていきます。
 USスチールの本社工場が置かれているペンシルベニア州のピッツバークなど米国の中西部から北東部にかけては鉄鋼や自動車、機械など重厚長大産業の集積地でしたが、近年は「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれるようになっていました。
 そうしたなか、起死回生策としてUSスチールは、日本製鉄の100パーセント子会社になる決断を下したのです。

バイデン前大統領はなぜ「NO」を突きつけた

 USスチールと日本製鉄の契約が最終合意に達した2023年12月時点で、USスチールの従業員は1万5000人弱
 粗鋼生産量は欧州での事業分を含めても1449万トンで、世界27位にとどまっていました。
 一方、日本製鉄の粗鋼生産量は世界3位で、USスチールを傘下に収めると世界2位に浮上します。
 日本製鉄による買収価格は1株55ドル、日本円に換算すると総額で約2兆円。近年稀な大型の企業買収案件です。
 両社の合意後、この買収計画については、米国の対米外国投資委員会(The Committee on Foreign Investment in the United States=CFIUS)が審査を続けていました。
 CFIUSは外国企業が大型の対米投資を行う場合、国家安全保障上の懸念が生じないかどうかを審査する省庁横断型の組織です。しかし、CFIUS内では意見がまとまらず、2024年12月にバイデン大統領にこの買収計画の最終判断を委ねていました。
 そして前述したように、退任間際のバイデン氏は「NO」を突き付けたのです。

図:フロントラインプレス作成

 買収禁止命令が下された際の声明で、バイデン氏は「鉄鋼の生産と鉄鋼産業の労働者は米国の屋台骨であり、国のインフラや自動車産業、防衛産業の基盤を支えている」と強調。そのうえで、「外国企業による低価格の鉄鋼製品が世界市場で投げ売りされるという不公平な貿易慣行が長く続き、米国の鉄鋼会社は雇用の喪失と工場の閉鎖に直面してきた」と強調し、日本製鉄による買収を阻止することは、米国の産業と雇用を守る最善の道だと説明したのです。
 バイデン氏の決断に対し、全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール委員長は「バイデン大統領の決定を歓迎する。決断は組合員や国家安全保障にとって正しいものだ」との声明を発表し、買収禁止を歓迎しました。
 マッコール氏は従来から「日本企業はルール違反の常習者だ」と批判。日本製鉄に買収されたら、雇用を守るなどという事前の約束は反故にされて合理化が進むとして、買収計画には一貫して反対していました。ですから、歓迎姿勢は当然だったと言えます。

大統領を訴える前代未聞の裁判

 買収禁止命令を出した時点で、バイデン氏に残された任期は20日足らず。それでも次期大統領のトランプ氏に判断を任せず、自ら禁止の判断を下しました。その背景には「民主党の強固な支持基盤である労組側の意向をくんだ」などの理由があると言われています。
 買収計画を否定された日本製鉄とUSスチールの反応は激烈でした。

日本製鉄の橋本会長は激しい口調でバイデン政権の禁止命令を批判した(写真:ロイター/アフロ)


 両社はその日のうちに「米国政府による不適法なUSスチール買収禁止命令に反対する共同声明」を発表。「失望した」と強調し、次のように述べています。
この決定は、バイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、米国憲法上の適正手続き及び対米外国投資委員会(CFIUS)を規律する法令に明らかに違反しています。大統領の声明と禁止命令は、国家安全保障問題に関する確かな証拠を提示しておらず、今回の決定が明らかに政治的な判断であることを示しています」
 共同声明の末尾で自らの計画遂行のためには「あらゆる措置を追求」していくとした両社は、実際にさらなる措置に出ました。
 バイデン氏の命令から3日後の1月6日、CFIUSの審査手続きが法律に違反しているほか、審査の過程で違法な政治的介入があったなどとして、取引禁止命令の無効を求める訴訟コロンビア特別区連邦控訴裁判所に起こしたのです。
 訴えのなかで両社は、買収反対を続けてきた全米鉄鋼労働組合のマッコール委員長、競合メーカーのクリーブランド・クリフス社などがバイデン大統領に違法な政治的介入を働きかけたと主張しています。
 日本の一企業が米国の大統領を訴えるのは前代未聞のことです。
 日本製鉄の橋本英二代表取締役会長は記者会見で「バイデン大統領の違法な政治的介入により今回の大統領令に至ったのであり、到底受け入れることはできない」と強調。日本製鉄とUSスチールの関係は引き続き強固であり、関係が崩れることはないと言及しました。そのうえで次のように述べています。
「当社の技術・商品を米国に投入することで、現在は米国で十分につくれていない鋼材もできるようになるひいてはアメリカの国家安全保障の強化に資すると考えている。米国での事業遂行を決してあきらめることはない。あきらめる理由もない」

「米国の血を吸うのをやめろ」

 一連の動きの中では、米国鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスもUSスチールの買収に乗り出そうとしているとの報道が相次いでいます。
 米CNBCテレビによると、クリーブランド・クリフスは米鉄鋼最大手のニューコア・コーポレーションと協調し、1株当たり30ドル台後半でUSスチールの買収を検討しているとされています。ただし、日本製鉄による買収価格の1株55ドルを大きく下回る金額で、USスチール側もおいそれと乗れる話ではありません。
 それでもクリーブランド・クリフス側の意欲は衰えないようです。

クリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOは日本製鉄のみならず、日本を激しく批判した(出所:クリーブランド・クリフスWebサイトの記者会見映像より)
 同社のゴンカルベスCEOは1月13日に会見し、「中国は悪だ。中国は恐ろしい。しかし日本はもっと悪い日本は中国に対してダンピングや過剰生産の方法を教えた」などと激しい調子で日本批判を展開しました。そして第2次世界大戦を念頭に「日本よ、あなたたちは自分が何者かを理解できていない。1945年から何も学んでいない。米国の血を吸うのをやめろ」と強調。そのうえでUSスチールの再建について「われわれには米国流の解決策がある。米国がUSスチールを救うのだ」と強調しました。
 ゴンカルベスCEOの会見の様子は、日本でも広く報道され、時代錯誤にも映る“反日演説”は多くの日本人を驚かせる結果にもなったようです。
 一方、「バイデン後」を引き継いだトランプ大統領はどんな姿勢を見せているのでしょうか。
 トランプ氏は大統領選での勝利が決まった後の2024年12月2日、自ら経営する企業が立ち上げたSNS「Truth Social」(トゥルース・ソーシャル)でUSスチールの買収計画について初めて具体的に言及し、「かつては偉大で強力だったUSスチールが、外国の企業、今回は日本製鉄に買収されることに全面的に反対する」と表明しました。さらに同じ投稿で「大統領として私はこの取引を阻止する」とも記しています。
 ただ、トランプ政権の財務長官に指名されているベッセント氏は、仮に、日本製鉄によるUSスチールの買収計画が再び申請された場合、「(審査機関のCFIUSは)通常どおりに審査を実施するだろう」と述べました。
 プレーヤーが増え、糸が複雑に絡み合ってきたようにも見えるこの買収計画はこの先、いったいどう展開するのでしょうか。バイデン氏を訴えた訴訟は2月3日から書面によるやりとりが始まることになっています。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。

トランプ大統領就任で潮目が変わる? 日本製鉄「USスチール買収」の行方 カギ握る保護主義と規制緩和の“はざま”

Finasee によるストーリー

トランプ大統領就任で潮目が変わる? 日本製鉄「USスチール買収」の行方 カギ握る保護主義と規制緩和の“はざま”© Finasee

日本企業による米国企業買収劇―バブル期のある“既視感”

以前アメリカに住んでいた時、「アメリカは鉄の国、日本は紙の国」という印象を持ったことがある。一時帰国から戻る際のANAの機内は和紙を思わせる繊細なデザインで、JFK(ジョン・ F・ ケネディ国際空港)からニューヨークの自宅に戻る途中、車窓から見た高速道路や鉄骨の橋梁といった、武骨だが力強い鉄のインフラを見てそう感じたのだ。
さて現在、日本製鉄がUSスチールを買収しようとして、バイデン大統領(当時)によって阻止された一連の動きは興味深い。このニュースを最初に見たとき、アメリカの鉄鋼業に日本企業が買収を仕掛けることに対する心理的な抵抗は、1989年に三菱地所がロックフェラー・センターを買収した際にアメリカ国内で生じた反発と似ているのではないかと思った。しかし一連の動きを追う中で、これはそれ以上に複雑な構造を持つ問題だと感じている。

日本製鉄会長の記者会見ににじむ問題の“本質”

日本製鉄の橋本英二会長が先日の記者会見で行った説明は説得力があり、この事案の本質を捉えているように思えた。記者会見の内容を基に、会長の主張を私なりに整理すると次のようになる。
1.USスチールの現状業績不振により再建の必要がある
2.日本製鉄の技術力:日本製鉄の高い技術を導入すれば、現在USスチールでは製造が難しい高級鋼が作れるようになる。これにより、米国の鉄鋼業の競争力が高まる。
3.国家安全保障への貢献:日本製鉄の技術は、米国のインフラ整備や防衛産業にも役立つ可能性がある。
4.反対勢力の存在:日本製鉄の米国参入は、競合するクリーブランド・クリフス社にとって脅威となる。このため、クリーブランド・クリフス社と全米鉄鋼労働組合(USW)の会長が連携し、組合の強大な政治力を使って大統領に買収阻止を働きかけた
5.阻止の理由の本質:表面上は「安全保障上の懸念」が理由だが、実際には競争環境の変化に対する抵抗が背景にある。
 この一連の動きをまとめると、今回の買収は経済的には米国とその鉄鋼業全体にメリットをもたらす可能性が高い
 しかし、競合する企業や労働組合など一部の利害関係者にとっては、厳しい状況を招く可能性があるため、これを回避する目的で政治的に阻止されたという構図が浮かび上がる。
 資本主義においては、競争を通じた「創造的破壊」が経済発展を促す
 敗者を生む過程も含めて、それを受け入れる仕組みが本来の資本主義の姿だ。
 しかし今回のような保護主義的な動きは、それとは対極にある。これが「資本主義の国」として知られるアメリカで起きたという点が興味深い

保護主義vsリバタリアニズムの行方

最近、70年近く前に書かれたアイン・ランドの小説『Atlas Shrugged』(邦訳『肩をすくめるアトラス』)を読んだ。
 この小説では、画期的な新合金が産業構造を大きく変えるが、既得権益層がそれに反発し、政治的な力を使って新合金を厳しく規制する。
 その結果、経済が停滞し、最終的には破綻してしまう
小説の底流には、規制を徹底的に排除しようとするリバタリアニズムの思想がある。
このリバタリアニズムは、FRB元議長アラン・グリーンスパンやスティーブ・ジョブズも支持していたとされる。
そしてイーロン・マスクが提唱する「メリトクラシー(能力主義)」とも共通する部分がある。
トランプ大統領は保護主義者というイメージが強いが、リバタリアニズム的な側面も持ち合わせていると言われている。そのため、日本製鉄によるUSスチール買収が再び議題に上がった場合、トランプ政権下では実現する可能性があるのではないかと個人的には考えている。

木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO

野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。

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