政治講座ⅴ1481「トランプ劇場:2024年大統領選の開幕の前哨戦」
2020年米国の大統領選は「仁義なき戦い」であった。来年の米国大統領選も楽しみであるが、もう、前哨戦が始まっているようである。米国の有権者はどのように判断するのであろうか。楽しみである。世界を平和にする大統領か、第三次世界大戦の開戦に誘導するのか、一人の人物に運命が託されているのである。今回はその前哨戦の報道記事を紹介する。
皇紀2683年11月10日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
トランプ氏長女、父や兄弟らが被告の民事詐欺訴訟で証言 NY州
CNN.co.jp によるストーリー • 10 時間
(CNN) 米ニューヨーク州司法長官がトランプ前大統領やその息子2人などに対して起こした詐欺を巡る民事訴訟の公判で、トランプ氏の長女イバンカ・トランプ氏が8日、証言を行った。
司法長官側はイバンカ氏に対し、トランプ氏一族が経営するトランプ・オーガニゼーションへの融資実現で果たした役割や、父親から借りたペントハウスに関して尋問した。
6日に証言した父とは異なり、イバンカ氏が怒りを見せるような場面はなかった。
8日間に及ぶ証人尋問では25人が証言台に立った。トランプ氏一族からは、トランプ氏、長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏、次男エリック・トランプ氏、イバンカ氏が証言。前三者は本訴訟の被告だが、イバンカ氏は被告ではない。司法長官は損害賠償2億5000万ドル(約378億円)と、同州でのトランプ氏の事業認可取り消しを求めている。
8日の公判のポイントをまとめた。
司法長官側はドイツ銀行との融資交渉に焦点当てる
司法長官側は、ドイツ銀行によるフロリダ州のゴルフリゾートへの融資案件を中心にイバンカ氏を尋問した。
この融資は本訴訟の重要な柱で、トランプ氏は融資により毎年の財務諸表の提出が求められた。司法長官は、純資産の水増しと優遇利率実現を目的に財務諸表が改ざんされていたと主張する。
ドイツ銀行の融資の最終合意では、トランプ氏は保証人として最低25億ドルの純資産の維持が求められた。
以前の合意案では30億ドルの純資産が要求されたが、司法長官側が示した電子メールによれば、イバンカ氏が20億ドルへの引き下げを提案していた。
トランプ氏は融資を個人保証することで、より有利な条件を獲得できた。トランプ・オーガニゼーションは同リゾートへの融資で、同銀の商業不動産部門からそれと異なる条件を提示されていた。
イバンカ氏はペントハウスの資産価値評価に関わっていないとの立場
イバンカ氏は父親から借りていたニューヨーク市のパークアベニューにあるペントハウスの資産価値について、トランプ氏の財務諸表上、自身が有していた購入オプションの金額より1200万ドル(約18億円)あまり高く評価されていた理由を知らないと答えた。
訴状によると、イバンカ氏は同物件を850万ドルで購入できるオプションを有していたが、トランプ氏の財務諸表上では2080万ドルで計上されていた。
司法長官側はイバンカ氏に、自身の購入オプションの価値が父親の財務諸表に組み入れられていたかを質問。イバンカ氏は「1年半前に伝えた通り、彼の財務状況の明細に関与していないので、それが考慮に入っていたか否かは言えない」と答えた。
イバンカ氏は昨年の証言録取で、会社に財務諸表があるのは知っていたが、父親の個人的な財務状況の明細があるかについて「具体的な」記憶はないと述べていた。
イバンカ氏の証言は2人の兄弟の証言と一致する。ただ、兄弟は明細の作成に使われた情報を提供していた。
イバンカ氏夫妻の会話
イバンカ氏と夫のジャレド・クシュナー氏はともにトランプ前米政権の大統領上級顧問を務めていた。ワシントンに移る前は、2人とも不動産業に従事。クシュナー氏はトランプ・オーガニゼーションの仕事をしていなかったが、2人は仕事について話をすることがあった。
イバンカ氏は前述の電子メールに関連した質問を受け、夫が助言してくれることがあり、仕事の内容について話すことがあったと回答。司法長官側は、郵便局として使われた歴史的建物を改装してホテルにする案件で、米金融機関キャピタル・ワンからの融資条件の可能性を議論する電子メールのやりとりについて質問した。
クシュナー氏はメールの中で、よりよい条件を提示すると見込める別の投資銀行に対して、この取引を示すことも可能だと述べていた。
イバンカ氏は「このやりとりを覚えていないが、仕事のことで夫に見解を求めるのは珍しいことではない」と述べた。
司法長官側の弁論が終了
本訴訟では25人の証人が呼ばれた。トランプ氏の家族以外では、争点となっている案件に関与したトランプ・オーガニゼーションの幹部2人や社内外の関係者が証言台に立った。
トランプ氏の元個人弁護士で「フィクサー」だったマイケル・コーエン氏は、トランプ氏から自分や会社幹部が財務諸表の水増しを指示されたと証言した。一方、この幹部はそうした会合が行われたことはないと証言した。
判事は公判に入る前に、トランプ氏を含む被告に詐欺で責任があると認定。司法長官側はこの点で既に勝利を収めている。
判事は今後、トランプ氏らが詐欺的なビジネス慣行から得た不当な利益について、損害賠償額を検討することになる。
司法長官側は、ビジネス記録の改ざんや保険詐欺など、他の6つの主張についても立証を試みている。
トランプ氏チームの番に
公判は今後、トランプ氏側が防御を行う番となる。トランプ氏の弁護士は6日の同氏の証言時に、法廷職員の行動に言及し無効審理を申し立てる意向を示した。
ただ、この申し立てが認められる可能性は極めて低い。
トランプ氏の弁護士は8日のイバンカ氏への反対尋問で、今後の防御の方針をうかがわせる発言もした。弁護士は、電子メールの中で、ドイツ銀行はトランプ・オーガニゼーションを顧客に迎え入れることができて喜んでいる様子だと述べた。同行を含む銀行は返済を受けており、被害者は存在しないという論法だ。
この点司法長官側は、トランプ氏が詐欺的に認められた借入利率のせいで、銀行が数億ドルの詐欺被害にあったと主張している。
イバンカ氏は前述のリゾート案件について、ドイツ銀行にはリノベーションを行うビジョンを共有していたと発言。「彼らはとても興奮していた。我々の購入前に物件を訪問し、経験するためにチームを送り込んだ」と述べている。
「誰も望まない」米大統領選、熱狂なきバイデン・トランプ再対決
Joshua Green、Nancy Cook
2023年11月7日 5:20 JST
有権者の14%、バイデン・トランプ両氏いずれの勝利にも反対-調査
50歳未満の米国民、ほぼ半数が2大政党以外の選択肢を希望-調査
米大統領選挙まで残り1年となった。国民の間では2大政党への否定的な見方が過去最多に上り、有権者の大半は、ジョー・バイデン氏とドナルド・トランプ氏のいずれにも大統領になってほしくないと話している。つまり、誰も望んでいない選挙と言えるだろう。
より良い選択肢を期待する人は失望することになりそうだ。有権者も党指導部も両氏に疑問を抱いているが、来年1月に予備選が始まれば、両氏がそれぞれの党の候補指名を獲得するとの見通しを同じ世論調査が示している。過去に現職大統領が敗北し、4年後に同じ相手と対決して再選を果たしたのは、1892年にグローバー・クリーブランド氏がベンジャミン・ハリソン氏と対決したのが最後だ。
米国民の間で再選への熱狂は見られない。ワシントン・ポストとABCニュースが最近実施した世論調査によれば、大統領としての仕事ぶりに満足しているとの回答はバイデン氏が37%、トランプ氏も38%にとどまる。一方で、あと1期務めるには両氏とも高齢過ぎるとの回答は半数を占める。大統領候補が本選で中道寄りになることはよくあるが、「より若い方向へと軸足を移すことはできない」と、クリントン元大統領の最初の選挙戦を指揮したジェームズ・カービル氏は警鐘を鳴らす。
バイデン、トランプ両氏とも高い支持率を維持したことはない。しかし、否定的な見方は強まっている。NPRとマリストの世論調査によると、有権者の65%がバイデン氏の再選に反対で、トランプ氏についても60%が再選を望んでいない。有権者の約6人に1人(14%)は、両氏いずれの勝利にも反対している。この比率は前回2020年の大統領選でトランプ氏とバイデン氏の両方を嫌った人の4倍余りに上り、24年の選挙を左右するのに十分な規模だろう。民主党のベテラン政治ストラテジスト、ダグ・ソスニック氏は「問題は、彼らが誰を支持するかだ」と話す。
政治に関して、米国民の意見が一致することはあまりない。しかし、ハーバード大学とハリスの最新の世論調査によると、民主党支持者の68%、共和党支持者の57%、無党派層の78%は同意見であることが分かった。いずれも過半数はトランプ氏でもバイデン氏でもなく、「別の選択肢」を望んでいるということだ。
とはいえ、有力な対抗馬は見当たらない。民主党の予備選でバイデン氏の候補再指名を脅かすような相手はいない。ファイブサーティーエイトがまとめる世論調査の平均によれば、共和党予備選でトランプ氏は他のすべての候補者の合計を上回る支持を集めている。
Photographer: Mario Tama/Getty Images
共和・民主両党とも、前回と同じ2人で大統領選に臨むもようだが、これに至る道のりは違った。トランプ氏の強さの源は、共和党を支持する一般有権者の間で根強い人気を維持していることだ。共和党のエスタブリッシュメント(支配層)はトランプ氏が無党派層や郊外の女性の間で不人気な点に加え、計4件で起訴されていることを懸念しているが、圧倒的なトランプ人気がこれを打ち消している。
20年の選挙でトランプ氏が敗北し、とりわけ21年1月6日の連邦議会襲撃事件を受けて、共和党の指導部と大口献金家は次に進む準備を整えていた。新しい世代の知事、上院議員、元閣僚らが共和党の候補指名を目指し名乗りを上げた。献金家もこれに続き、フロリダ州のロン・デサンティス知事ら候補者に惜しみなく資金を提供した。
Money Raised by GOP Candidates
Through September 2023
Source: Federal Election Commission
*Pence suspended his campaign on Oct. 28.
ところが、トランプ氏は再選を果たせなかった大統領は潔く身を引くとの筋書きには従わなかった。これまでの敗者のように、共和党の一般有権者から見放されることもなかった。選挙で勝利を盗まれ、自身に対する起訴は「ディープステート(闇の政府)」による恥知らずの攻撃といった主張を、熱狂的な支持者たちに信じ込ませることができたからだ。
バイデン氏の次を求める民主党支持者は、全く逆の問題を抱えている。世論調査によれば、有権者は選挙日までに81歳になるバイデン氏を再選させることに大きな懸念を抱いている。8月のAP通信の調査では、民主党支持者の69%がバイデン氏は大統領として効果的な仕事を行うには「年を取り過ぎている」と回答した。
それでも、民主党のエスタブリッシュメントはこうした懸念を無視し、バイデン氏支持で結束している。
こうした民主党の状況が鮮明となるエピソードがあった。バイデン氏は6月に行った資金集めパーティーで、ウクライナを「イラク」と、「良き友人」であるインドのモディ首相を「習近平(中国国家主席)」と言い間違えた。バイデン氏は翌朝、ホワイトハウスを出るときに再びイラクとウクライナを混同した。
だが、その直後、民主党の献金家はバイデン氏を擁護するために列をなし、世間の関心をトランプ氏へとそらそうとした。
トランプ氏が共和党の大統領候補になることは不可避との見方が民主党内で広がっていることも、バイデン氏の候補再指名を後押ししている。20年の大統領選でトランプ氏を破り、22年の中間選挙でも共和党に善戦した実績を踏まえると、党内で最も勝算のある候補者だと考えられているためだ。
こうした中、比較的若い有権者はトランプ、バイデン両氏に一貫して否定的な見方を示しており、より良い選択肢を切望している。10月19日のピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、50歳未満の米国民のほぼ半数が、2大政党以外の選択肢を望んでいることが分かった。
11月1日のキニピアック大学の世論調査では、出馬を表明しているロバート・ケネディ・ジュニア氏とコーネル・ウェスト氏を選択肢に加えたところ、バイデン、トランプ両氏にとって気がかりな兆候を示す結果が出た。四者択一の対決では、バイデン氏の支持率(36%)がトランプ氏(35%)、ケネディ氏(19%)、ウェスト氏(6%)を上回ったものの、有権者の4分の1が主要候補を敬遠した。
国家のあり方や経済、主要候補にうんざりしている米国民が増えており、そのような有権者の態度は、少なくともレースの結果を左右することになるだろう。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:American Voters Tired of Biden and Trump Dread Election Deja Vu (1)(抜粋)
【米大統領選2024】 選挙の流れを変えうる四つの「予想外の展開」
BBC News によるストーリー • 8 時間
実施まで1年を切った2024年の米大統領選は、2020年の選挙の再来となりそうだ。ただし今回は、現職大統領はジョー・バイデン氏で、それに挑むのがドナルド・トランプ氏と、立場は逆転している。
有権者が4年前と同じ選択を迫られることに、不満が広がっている。あらゆることが、見覚えのあるパターンどおりに進んでいるように見える。世論調査さえ、接戦を示している。
しかし、残りの1年で何が起きてもおかしくはない。どんな歴史家でもそう言うだろう。1980年の大統領選でジミー・カーター大統領(当時)は再選を逃した。前年の1979年に在イラン米大使館で起きた人質事件で、救出作戦に失敗したことがほぼ間違いなく敗北につながった。そして2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックが、アメリカという国のかたちを変えた。
では、次の大統領選の流れを変えうる四つのサプライズについて見てみよう。
無所属候補が勢いを増したら?
キャティー・ケイ記者
共和党にも民主党にも属していないなら、アメリカの大統領になれる可能性は限りなく低い。しかし、過去に第三党の候補者が選挙結果をひっくり返したことがある。それと同じことが、2024年に再び起きるかもしれない。
1992年の大統領選では、裕福な実業家ロス・ペロー氏が独立系候補として出馬し、得票率19%を記録した。保守派の支持を取り込み、現職のジョージ・H・W・ブッシュ氏(共和党)が民主党候補のビル・クリントン氏に勝利するのを妨げたと言われている。
2000年には、緑の党候補のラルフ・ネーダー氏がフロリダ州で9万7488票を獲得。この激戦州でジョージ・W・ブッシュ氏(共和党)が現職副大統領だったアル・ゴア氏(民主党)を破るのにつながった。2016年の選挙でも、緑の党のジル・スティーン氏がヒラリー・クリントン氏(民主党)を苦しめたとの見方もある。
今回の選挙でも同じような意外な展開が見られるかもしれない。私が今週インタビューしたアメリカの有力政治家は、バイデン大統領と、共和党候補者指名争いで最有力とされるトランプ氏の支持率がいずれも低いことから、より多くの人がチャンスを得る可能性があると指摘した。米調査会社ギャラップ社の最近の世論調査でも同様のことが示唆されている。
すでに、2人の無所属候補が参戦している。進歩派的な活動家コーネル・ウェスト氏と、最近民主党を離党したロバート・F・ケネディ・ジュニア氏だ。離党前の世論調査では、ケネディ氏は民主党有権者の約20%の支持を得られる可能性が示唆されていた。無所属となり、陰謀論志向の有権者にアピールする同氏は、トランプ氏から票を奪うかもしれない。
今回の選挙は接戦となる可能性が高く、第三党の人物にわずかな票が流れるだけでも、選挙結果に大きな影響が及ぶ可能性がある。
投票日前にどちらかが死去したら?
ノミア・イクバル記者
この疑問はたくさん耳にしている。バイデン大統領とトランプ前大統領は高齢だ。2025年の就任式当日、バイデン氏は82歳、トランプ氏は78歳になっている。2人の健康状態が悪いという兆候はないものの、投票日までに2人に何かが起きたらどうなるのだろうか。
答えは、その何かが起きる時期によって変わってくる。
仮に、いまから2024年の元日までの間に、重い病気にかかったり死亡したりした場合は、代わりの候補者指名を争おうという人が民主党側でも共和党側でも大勢出てくる。しかし、各州の予備選の結果が確定していくにつれて、状況はより複雑になっていく。
2024年10月中旬に最悪の事態が起こっても、2人の名前は本選の候補者として残る。合衆国憲法によると、たとえ死亡して宣誓できない状況になっても立候補は有効とされる。
過去にこうした事態が起きたことがある。2000年、上院議員選挙に立候補していたメル・カーナハン氏は、選挙イベントに向かう途中、飛行機事故で死亡した。死後に行われた選挙で当選したため、2002年に特別選挙が行われるまで妻ジーン氏が代わりを務めた。
大統領に当選した人が就任式前に死亡した場合は、副大統領が代わりに就任する。副大統領は自分の後任を指名しなければならない。後任者は議会の承認を得て正式に副大統領に就任する。
かなり複雑なので、立候補者全員が健康であることを祈ろう!
外国の戦争がエスカレートしたら?
バーバラ・プレット・アッシャー記者
バイデン大統領はロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルのイスラム組織ハマスへの報復攻撃など、国際的な危機に悩まされる中、再選を目指している。中国が台湾の領空に対する軍事的圧力を着実に強めている危険な状況は言うまでもない。
バイデン氏のチームは、同氏を信頼できる最高司令官として描くため、この状況を政治的に利用しようとしている。バイデン氏は世論調査で、二つの戦争への対応について比較的高い評価を得ている。
ただ、同氏の選挙キャンペーンではすでに憂慮すべき傾向が見られる。特に、民主党支持の若い有権者という重要な層からの支持が落ちている。パレスチナ人の犠牲者が増える中、同氏がイスラエルを強く支持していることに怒りを感じているためだ。
そして、いずれかの戦争が現状の境界を越えて拡大することになれば――ロシアが北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃したり、イランと同盟関係にある武装集団がハマスと一緒にイスラエルとの戦闘に加わったりすれば――大統領選をめぐる予測は覆り、混乱の1年となるだろう。
抑止力を持つアメリカは、現在の傍観者としての立場を維持できなくなるのだろうか。
国際的な混乱は、バイデン氏のライバルとなる可能性の高いトランプ氏の今後の見通しにダメージを与えるのだろうか。それともトランプ氏は、アメリカが外国の戦争に資金を拠出したり、場合によっては外国での戦闘に再び加わったりすることにうんざりしている有権者から、後押しを受けることになるのだろうか。
多くの要因は彼らがコントロールできるものではない。中東問題では特にそうだ。どの大統領候補も、良い立場には立てない。
トランプ氏が刑務所に入ったら?
ギャリー・オドノヒュー記者
前大統領はこれまでに4回、刑事事件で起訴されている。罪状は計91件で、すべての裁判は来年開始される見通し。
最長の刑期は数百年に及ぶ可能性があるが、有罪判決を受けたとしても、実際にそうした量刑が言い渡されると考える法律の専門家はほとんどいない。
トランプ氏の弁護団は、来年の大統領選が終わるまで裁判の開始を遅らせようと懸命に努力してきたが、うまくいかなかった。弁護団は、トランプ氏が大統領に選ばれれば、おそらく4年間は裁判を先延ばしにできると分かっている。現職大統領を訴追するには、米下院が弾劾訴追を求める決議案を可決し、上院の弾劾裁判で罷免される以外の道はないというのが、多くの法律家の見解だ。
選挙前に刑務所に入ったとしても、選挙に勝てなくなるというわけではない。
重罪で有罪判決を受けても、大統領選への出馬は妨げられない。100年前には、獄中にいながら100万票近くを集めた候補者がいた。選挙運動に支障をきたすのは明らかだが、共和党支持の有権者の多くがトランプ氏への興味を失うことはないであろうことが、世論調査で示唆されている。
獄中で大統領に選出された場合、連邦法違反での有罪についてはトランプ氏自身が赦免できるかもしれない。しかし、2件の州法違反での起訴のうちのいずれかででも有罪となり、収監された場合、トランプ氏には赦免の権限はなく、受刑者ながら大統領になるという奇妙な状況になりうる。
まさに前代未聞の領域であり、国内最高の頭脳を持つ法律家たちでさえ、頭を悩ませている。
トランプ氏が大統領復帰に向け「独裁化」計画中との報道も…共和党指名レースで独走中
矢部 武 によるストーリー •
政権獲得後に向けて進む「独裁体制」への準備
2024年大統領選の共和党予備選が始まるまで約2カ月半に迫った10月28日、主要候補の1人のペンス前副大統領が選挙戦から撤退すると表明した。ペンス氏は2020年大統領選の結果を覆そうとしたトランプ前大統領の命令に従わず、当時副大統領としてバイデン氏の勝利を認定したことで、トランプ氏とその支持者たちを激しく怒らせた。
しかし、ペンス氏は「私は憲法に従った。米国の民主主義を守るために正しいことをした」と主張して大統領選に立候補し、そのことを有権者に訴えると同時に、トランプ氏に従うことへの警告を発した。けれども支持を広げることができず、この時点での支持率は5%で主要候補7人中5位だった。
ペンス氏は撤退理由について、「今は私の出番ではありません」と語ったが、まさにその通りだ。今の共和党はトランプ氏に完全に乗っ取られてしまい、党員の中には「MAGA(Make America Great Again=アメリカを再び偉大にする)の党」と呼ぶ人もいるくらいである。
トランプ氏は何をやっても、どんなにうそをついても刑事事件で何度起訴されても支持率はまったく下がらない。それどころか連邦議会議事堂襲撃事件を扇動して平和的な政権移行を妨害した問題や、機密文書をフロリダ州の自宅に不適切に持ち出した件などで起訴されるたびに寄付金が増え、支持率が上昇しているのである。
モーニング・コンサルトが10月24日に発表した共和党予備選に関する世論調査によると、トランプ氏の支持率は62%で、2位のロン・デサンティス氏(13%)、3位のニッキー・ヘイリー氏(7%)を大幅にリードしている。
共和党内で反トランプ候補が支持を広げる余地はほとんどないため、トランプ氏が党の指名を獲得するのはほぼ間違いないだろう。そして本選でも民主党のバイデン大統領とほぼ互角で並んでおり、トランプ氏が再選される可能性はかなり高いと思われる。
しかし問題は、もし第2次トランプ政権が誕生したら、1期目とは比較にならないほど、米国の民主主義にとって大きな脅威となるだろうということだ。トランプ氏はすでに2度目の政権獲得に備え、大統領執務室に権力を集中させて独裁者のように振る舞えるようにするための準備を着々と進めているのである。
大統領権限を拡大して行政府を思い通りに
有力紙ニューヨーク・タイムズは、「トランプ氏とその仲間たちは大統領の権限を大幅に拡大し、これまでよりはるかに大きな権限を同氏に集中させるために行政府の再構築を計画している」(2023年7月17日)と報じた。
それは具体的には、法律や伝統に基づいてホワイトハウスの政治的干渉を受けずに運営されている行政機関の独立性を奪い、行政機関のあらゆる部分に大統領の権限を行使できるようにするというものだ。
たとえば、テレビやインターネット関連の規制を制定・執行する連邦通信委員会(FCC)や、企業に対する独占禁止法やその他の消費者保護規制を執行する連邦取引委員会(FTC)などの独立機関を大統領の直接管理下に置くようにする。
また、数万人のキャリア公務員の雇用保護を剥奪し、大統領の政策遂行の障害と見なされた人たちを更迭しやすくする。そして情報機関や国務省、国防総省、司法省などの官僚を徹底的に調査し、トランプ氏が「我が国を憎む、病んだ政治階級」と批判してきた役人を解任する計画も準備しているという。
さらにトランプ氏は議会の独立性を奪うことも検討している。たとえば、大統領の気に入らない政策およびプログラムに議会が資金を充当した場合、大統領権限を使って、その支出を拒否できるようにすることだ。
この慣行は現在禁止されているが、トランプ氏は選挙キャンペーンサイトで、「大統領には(議会で充当された)資金の支出を差し止める憲法上の権限がある」と主張し、それを復活させるつもりだという。
トランプ前大統領は1期目の時に、行政機関の官僚や議会などの反対によって自らの政策を実行できなかった。そのことを教訓にして大統領権限の拡大計画を準備しているというが、もしこれが実行されれば、行政機関の独立性や議会の行政府監視機能などが著しく損なわれる可能性がある。
司法省への激しい攻撃は自らの捜査逃れが目的か
ニューヨーク大学の歴史学教授で独裁政治を研究しているルース・ベン・ギアット氏は、この計画を準備しているトランプ氏の側近たちが使う表現に懸念を示している。
トランプ政権1期目で行政管理予算局長を務めたラッセル・ボート氏はニューヨーク・タイムズ紙に、「我々がやろうとしているのは隠れた独立の塊を見極め、それを取り押さえることだ」と語ったが、ギアット教授によれば、それは独裁体制下においてよく使われる表現だという。
ギアット教授はこう説明した。
「新たな政権発足に合わせて公務員を一新する。自分に忠実でない人たちを粛清する。求められるのは専門知識ではなく、忠誠心です。自分の命令通りに動く人間で政府内を固め、そうやって大統領権限を集中させ、強化させていくのです」
その上でギアット教授は、「“隠れた独立の塊を探して取り押さえる”というのは、民主主義の基盤である行政府や行政機関の独立性を否定するものです。“取り押さえる”という表現も民主的な改革とは相いれません。権威主義的なものです」(PBSニュースアワー、2023年7月19日)と警鐘を鳴らした。
トランプ氏は以前から、「“ディープステート(闇の政府)”を一掃する。社会主義者や主戦主義者、司法制度を武器として利用する官僚を見つけ出し、彼らを連邦政府のビルから、そして政府から徹底的に追放する」と繰り返し述べているが、2期目にはそれを徹底して行うつもりなのだろう。
それからトランプ氏は自分を起訴した司法省を目の敵にして激しく攻撃しているが、その本当の狙いは司法省の独立性を奪い、気に入らない官僚や検察官を追放し、自分に捜査が及ばないようにすることではないかと思われる。
つまりトランプ氏は自身の法的問題を逃れるために「ディープステート説」を利用しているともいえるが、このような手法はロシアのプーチン大統領もしかり、権威主義的な政治家の常とう手段である。
なぜ共和党はトランプ氏に乗っ取られたのか
前述したようにトランプ氏を批判したペンス前副大統領が支持を広げられずに撤退したことは、今の共和党はトランプ氏に完全に乗っ取られ、反トランプ派が入り込む余地がないことを示しているが、最近そのことを印象付ける出来事が他にもあった。
下院は共和党が多数派を占めているため、議長は共和党から選出されているが、10月初め、ケビン・マッカーシー議長が党内右派の造反によって解任された。それから数週間に及ぶ党内の混乱を経て、ようやく下院共和党ナンバー3で人気も信頼もあるトム・エマー院内幹事が大半の支持を得て次期議長候補に選出された。
ところがその直後、トランプ氏がSNSに「トム・エマーのようなグローバリストで、名前だけの共和党員に票を入れるのは悲劇的な誤りだ」と投稿すると、党内で一気に反対ムードが広がり、エマー氏は撤退を余儀なくされた。
その後、下院議員を6年半務めただけで政治経験が乏しく、ほとんど無名のマイク・ジョンソン氏が立候補すると、すんなりと議長に選出された。その最大の理由はトランプ氏の支持を受けたからだが、保守強硬派のジョンソン氏は2020年大統領選の結果を覆そうとしたトランプ氏を強く支持したことで気に入られたという。
下院議長は大統領継承順位が副大統領に次ぐ第2位の要職だが、それをこのようなやり方で決めてしまってよいのだろうか。いずれにしてもこの出来事は、共和党はトランプ氏の支持がなければ下院議長ポストも決められない党になってしまったことを改めて印象付けた。
それにしても共和党はなぜ、こんな情けない党になってしまったのか。
数十年にわたって共和党選挙参謀を務めたスチュアート・スティーブンス氏は、最近出版した著書『The Conspiracy to End America: Five Ways My Old Party Is Driving Our Democracy to Autocracy(アメリカを終わらせるための陰謀~我が党が民主主義を強権主義に変えるための5つの方法)』の中で、2016年に共和党で起きたことは1920年代から30年代にかけてドイツの支配階級がナチスのヒトラーを受け入れ、国家社会主義の台頭を容認した状況に似ていると述べている。
スティーブンス氏は2023年10月25日のPBSニュースアワーの番組で、その類似点について詳しく説明した。
「当時のドイツでは支配階級が労働者階級との距離を近づけるためにヒトラーがそのつなぎ役になってくれると期待し、また自分たちは彼をコントロールできると考えて受け入れた。そしてまさにそれと同じことが共和党にも起こったのです。
ミッチ・マコネル上院院内総務(2016年当時)は“トランプ氏は変わるだろう。自分たちは彼を変えられる自信がある。自分たちが保守の本流であり、トランプ氏はそれに順応するだろう”と語った。しかし、それは甘い考えだったことが証明されました。彼は今でも変わっておらず、共和党が反トランプの方向に向かおうとするたびに逆の方向に向かい、ますます勢いづいているのです」
実際、2012年大統領選で共和党の指名候補となったミット・ロムニー上院議員やペンス前副大統領など、トランプ氏を批判する人は時々出てくるが、それを支持する声は党内で広がっていかない。なぜなら共和党の指導部がトランプ氏に対して従順になり、彼を批判しないからである。
民主主義を守ることができるのか分岐点に立たされた米国の危機
共和党がトランプ氏を批判できないのは、トランプ氏が共和党の本当の姿(実体、弱み)を見抜いたからではないかとスティーブンス氏は指摘する。
「トランプ氏は何らかの動物的な直感を持っていて、共和党はそれまで自分たちが信じていると主張してきたことを実のところは信じていない、ということを見抜いたのではないかと思います。共和党が自分たちの価値観だと主張していたものはマーケティング用のスローガンだったと。そしてトランプ氏は党に力を与えれば(支持者を増やすなど)、党は自分が望む方向に動くだろうと見抜いたのです。それがまさに今起こっていることです。これは異例なことです。主要政党が完全に乗っ取られるというのは米国の歴史上、これまでありませんでした」
その上でスティーブンス氏は、「共和党がトランプ氏のような人物に党を引き渡したことは党だけでなく、米国の民主主義にとっても大きな脅威です」と警告した。
民主主義を信じないトランプ氏とその熱狂的な支持者によって共和党が乗っ取られてしまったというのはショッキングなことだが、その結果、米国は非常に危うい状況に追い込まれた。
米国はこれまでも1800年代半ばの南北戦争、1920年代から30年代にかけて起こった大恐慌、1950年代から60年代に展開された公民権運動などで社会の分断と対立が深刻化し、困難な状況に追い込まれたが、なんとか乗り越えてきた。
今回は民主主義を守ることができるのか、それとも独裁体制に陥ってしまうのかという分岐点に立たされたが、はたしてこの危機を乗り越えることができるのだろうか。
(ジャーナリスト 矢部 武)
トランプ氏、次期大統領選「出馬困難」か?相次ぐ不正疑惑で窮地に
2022.8.24 4:10
共和党予備選挙で見せた
トランプの強い影響力
なんとも恐ろしいまでの復讐劇だった。今年秋の中間選挙に向けた米国共和党予備選挙のことである。
昨年1月の2回目の弾劾裁判でトランプ前大統領に反旗を翻した勇気ある10人の共和党下院議員のうち4人がトランプの放った“刺客候補”に破れ、他4人も出馬を断念。辛くも勝ち抜いたのはわずか2人だけという結果となったからだ。
退任後もトランプが恐怖支配で共和党内に強い影響力を持ち続けていることを見せつけたかたちだ。
だが、皮肉なことに、この復讐劇が2年後の大統領選で再選をもくろむトランプの命取りになるかもしれない。
ワイオミング州予備選で対立候補に37ポイント以上の大差で敗れた反トランプの急先鋒リズ・チェイニーは8月17日、NBCのニュース番組「トゥデイ」出演し、「あらゆる手段を使ってトランプをホワイトハウスに近づけないようにする」と宣言。2024年の大統領選への出馬を検討していることを明らかにした。
「トランプが米国にとって非常に重大な脅威とリスク」を及ぼしているというのがその理由だ。
リズ・チェイニーは、ブッシュ(子)政権で副大統領を務めた父ディック・チェイニーの地盤を引き継いで下院議員を3期務め、共和党保守派の期待の星と目されていた。
2年前の共和党予備選では得票率73%で大勝。昨年1月の連邦議会襲撃事件でトランプ大統領を批判して解任されるまでは共和党下院で第3位の重要ポストに就いていた。議会襲撃事件を調査する超党派の下院特別委員会でも副議長を務めていた。
今回のチェイニー敗退の背景には、トランプが仕掛けた“刺客”候補以外にも、ワイオミング州の事情があった。
米50州で最も人口が少ないワイオミング州(約58万人)の経済は石炭などの化石燃料産業に依存しているため同産業を優遇するトランプの人気が根強いのだ。住民からはチェイニーが前大統領の不正追及に固執し、地元の意見を代表していないという批判の声も上がっていた。
「トランプ逮捕」のXデー迫る、大混乱で“大統領返り咲き”のどんでん返しも
矢部 武:ジャーナリスト
国際・中国DOL特別レポート
2023.3.28 4:20
トランプ氏がSNSで「逮捕される」と投稿
米国の政治史上、刑事事件で起訴された大統領経験者はいないが、まもなく新たな歴史が作られようとしている。
2016年大統領選の投票日の直前、トランプ前大統領が不倫相手の元ポルノ女優に支払ったとされる口止め料をめぐる選挙資金法違反の容疑を捜査してきたニューヨーク州のマンハッタン地区検察が、近日中に起訴するかどうかの決定を下す可能性が高いことが分かったからである。
この事件の捜査では、かつてトランプ氏の顧問弁護士を務めたマイケル・コーエン氏が検察側に協力し、トランプ氏の指示で13万ドル(約1700万円)の口止め料を支払ったこと、またそのお金を法務費用として不正に会計処理していたことなどを供述したため、トランプ氏は窮地に追い込まれた。
マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は3月初めにトランプ氏に対し、大陪審で証言を行うように求めたが、トランプ氏はこれを拒否。その後、3月半ばにコーエン氏が大陪審で証言したことで、「トランプ氏起訴の決定が間近に迫っている可能性が高い」とニューヨーク・タイムズやMSNBCなど主要メディアが一斉に報道した。
このようななかで、トランプ氏は検察の機先を制するかのように自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「来週火曜日(3月21日)に逮捕される」と投稿し、「抗議して、私たちの国を取り戻せ!」と支持者らに呼びかけた。それからトランプ氏は無実を訴え、「捜査は政治的な動機に基づくもので、米国の不正義な司法制度を象徴するものだ」と検察批判を繰り返した。
参考文献・参考資料
「誰も望まない」米大統領選、熱狂なきバイデン・トランプ再対決 - Bloomberg
【米大統領選2024】 選挙の流れを変えうる四つの「予想外の展開」 (msn.com)
トランプ氏長女、父や兄弟らが被告の民事詐欺訴訟で証言 NY州 (msn.com)
トランプ氏が大統領復帰に向け「独裁化」計画中との報道も…共和党指名レースで独走中 (msn.com)
トランプ氏、次期大統領選「出馬困難」か?相次ぐ不正疑惑で窮地に | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
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