【前編】「楽しい」を軸に辿り着いた、陶芸家としての生き方 | ツカノマのはなし #1
「チャイと休息」をテーマとするツカノマチャイがお届けする連載、『ツカノマのはなし』。さまざまな領域で活躍する人のキャリアと休息について、お話を伺います。
第一回目のゲストは、個人で陶芸家として活動されている嵩下花奈子さんです。
新卒で入った陶芸教室を辞め、セブ留学へ
岩井:嵩下さんのキャリアは最初から「陶芸一本」というわけではなかったと伺っています。これまでどのような経歴を歩んできたのでしょうか?
嵩下:大学を卒業後、最初は伊豆にある陶芸教室に勤めました。
3年間働き、「ここで得られるものは全て得たかもしれない」と感じたタイミングで辞めて、フィリピンのセブ島へ2ヶ月間の語学留学へ行きました。
これが自分にとって一つ目の転機だったかなと思います。
岩井:陶芸教室から、陶芸と全く関係のなさそうなセブ留学へ?
嵩下:はい。陶芸とは関係なく、純粋に「海外に行きたい!」という気持ちからです。
もともと海外の方と英語でコミュニケーションをとることに抵抗はなかったのですが、思うように話せないもどかしさを感じていて。さらに英語力を磨きたいと思い、セブへ短期の語学留学へ行きました。
当時は、次の仕事の目処も全く立っていない状態でしたが…。とにかく「行ってみたい」という自分の気持ちに従って留学を決めました。
岩井:セブ留学を通して、どのようなことを得られたのでしょうか。
嵩下:やはり英語力と、コミュニケーション能力は鍛えられたと思います。
あとは、海外で一人体当たりの日々を過ごしたことで自信もつきました。知らない環境に飛び込む勇気というか。
自分の知らない文化や価値観に対して寛容になったとも感じます。現地の人たちは日本人と比べて適当だったり、楽観的すぎるところがあるというのを日々目の当たりにして、「そういうこともあるか」と少しのことでは驚かなくなりました。
留学の後も何度か働く環境を変えていますが、セブで過ごした2ヶ月間で得られたものは大きかったと思います。
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はじめて、「陶芸家」を名乗れるようになった
岩井:セブから帰国後はどのようなお仕事をされてきたのでしょうか。
嵩下:1年半ほど表参道のカフェでウェイターとして働きました。もともと表参道で働くことに憧れがあり、留学で得られた英語力を活かしたいなと思い。実際にそのカフェを訪れる半数ほどは海外からの観光客だったので、英語の学びは十分に活かせたかなと思います。
その後、ちょうど転職を考え始めたタイミングで前職の上司からスカウトを受けました。
飲食店の新店舗運営に携わったり、思いがけずマネージャー職も経験しました。縁あって、セブのカフェ店舗に赴任した時期もありました。
この頃は、実はあまり陶芸の制作はしていなくて。「陶芸家として活躍したい!」というよりも、自分の作りたいものを少しだけ作りながら、土に触っていられたら良いかなというような気持ちで。
なので、「陶芸家」と名乗ることさえしていませんでした。していなかったというか、できなかった。「陶芸、やってます…」みたいな、控えめな自己紹介をしていましたね…
岩井:当時の気持ちと対照的に、現在は制作に忙しい日々を送られているようですが、何か変化のきっかけがあったのでしょうか。
嵩下:現在講師をしている陶芸教室に転職した翌年の2020年、コロナ禍がスタートしたタイミングが二つ目の転機でした。
教室も休業を余儀なくされ、「自分の力で稼がなければ」と危機感を持ったことがきっかけで、自分の制作に本腰を入れて取り組みはじめました。
岩井:それまで接客を中心にお仕事をされていたところから、どのように陶芸のお仕事を得ていったのでしょうか。
嵩下:前職で多くの方と繋がりを持てたことが、本当に大きかったです。
私は飲食店のスタッフだったのですが、他にも複数の事業部があり、面白い方が本当に沢山いる会社で。本社から近かったこともあり、社員食堂のようなお店でした。将来仕事に繋げるために、と考えていたわけではないのですが、お店のスタッフとして積極的に色々な方と会話をしていました。
途中仕事で辛い時期があり、上司から「辛いなら辞めてもいいんだよ」と声をかけてもらったのですが、「こんなに面白い人が沢山いるのに辞めたくないです」と食い下がるくらいには、自分にとって楽しく、やりがいのある環境だったんです。
3年前に本格的にオーダー制作をスタートした時、前職で交流のあった方々やその知人の方を通じて、少しずつお仕事が増えていって。
現在継続的にご依頼をいただいているのも、前職のご縁がきっかけのところが多いです。
岩井:これまで培ってきた接客力やコミュニケーション能力が、現在の陶芸家としてのお仕事に生きているんですね。
嵩下:そうですね。これまで出会ってきた方々との繋がりの中から、少しずつ仕事が生まれていって、やっと自信を持って「陶芸家」と名乗れるようになりました。
また陶芸家といってもただモノを作るだけではなくて、お客さまとのコミュニケーションは必須です。
丁寧にやり取りをすることで、完成度やお客さまの満足度に繋がってくるので、過去の経験からコミュニケーションに必要な力を磨いてこられたのは良かったと思っています。
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後編では、嵩下さんがキャリアの中で大切にされてきたこと、そしてどのような「休息」を過ごされているのかを伺います。
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