【映画感想】二人ノ世界
映画「二人ノ世界」(監督:藤本啓太)
NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」で土居志央梨さんという役者を知って、過去作を調べた時に一番に観たいなぁと思った作品。
配信もソフト化もされておらず残念に思っていたところ、なんと劇場で再上映されることに…!ということで観てきた。
とても良かったので、もっと上映館が増えて沢山の人に観てもらいたい。
役者さんの演技はもちろん、まず台詞やストーリーが良くて。日本シナリオ大賞の受賞作なのね。(脚本・松下隆一)
以下感想。
主人公の俊作も、もう一人の主人公である華恵も、思ったことをハッキリ言うので見ていて気持ちがいい。
というかこの映画に出てくる人みんながそう。俊作の父も友人の後藤も言葉に裏表がない。俊作の親戚も嫌な奴なんだけど、清々しいぐらいそれを隠しもしない。帰ってほしい時は「お帰りになっておくれやす」(だったかな…?)ってキッパリ言うし。京都の人っぽいけど、ぶぶ漬けとか別に言わない(完全なる偏見)。
嫌なもんは嫌、ムカつくもんはムカつく、目が見えないからって気を遣わなくていいです、私も遠慮はしません、という毅然としたスタンスの華恵が、作中初めて本音を隠したのが元夫に引き取られた子どもの前で。
「お母ちゃん次いつ会える?」という問いには答えず、「パパとママ(元夫の再婚相手)と仲良くな」と微笑む。ここで泣いてしまった。(劇場内のあちこちで鼻をすする音が聴こえてきた。)
目が見えないから、子どものために身を引いた。華恵の強さの理由はこの子だったんだ。
(改めて、この役を演じた時の土居さんはまだ21歳という事実に驚く)
子どもに会いに行くきっかけになったシーンの俊作がすごく良くて、会いたいんやろ、子どもを取り返しに行こう、俺も行くから、って、最初のやさぐれ振りからは想像もつかない言葉で華恵を連れ出して。この人は変わったんじゃなくて、元々はこういう熱い人だったのかもと思えた。
だってあの優しいお父さんの下で育って、寝たきりになってもAV見ようぜって家に来てくれる、いい奴すぎる友人がいるんだもの。
華恵という他人が、親切心でも憐れみでもなく、対等な立場で自分と接してくれた。このことが俊作の熱さを取り戻したのかもしれない。
俊作が描いた鶴のつがいの絵の横で、杖を手にすっと立つ、まるで鶴のような華恵の写真。
喉を反らして、息を吹きかけてデスクライトの紐を揺らし、口で捉えてなんとか灯りをつける俊作。でも写真立てがあちらを向いてしまっている。手に取って見ることもできない様子が、華恵に会いたい気持ちと、自分から動いて会いに行くことができない無力感を表していてとても切なかった。
やっと会って触れ合うことができた二人のラストシーンは、クリムトの絵画のように美しかった。
首から下が動かず、「毎日天井を見て、喰って、垂れ流すだけ」。何のために生きているのか分からない人生を送ってきた俊作。だが、この映画の最後に呟く華恵の言葉が、まさに俊作が生きているからこそ出てくる台詞で。
生きてさえいれば、大切な人を温めることができるのだ。