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チーズマルコというおせんべいのお話

普段はIT企業で従事しておりますが、
このたび、個人的におせんべいの販売を
することになりました。
チーズの香りがするおせんべいです。

ここまでくるのに、いろんな出会いがあり、
自分でも驚いているのですが、
これまでの経緯を書いてみようと思います。

少し長くなりますが、
お付き合いいただけると幸いです。

話は今から30年前、
私の学生時代にさかのぼります。

1991年。
僕はリカーショップのアルバイトをしていました。
そこで憧れていたグルメな先輩スタッフが、
僕だけにこっそり教えてくれた
ワインのおつまみがあります。

それは、老舗のお菓子屋さんにあった
500円玉サイズの薄くて小さなおせんべいでした。

ビールケースを積み上げ、時間になったので、
休憩に入ると、彼女に呼び止められました。

「辻くん、ちょっと、ちょっと。」

先輩は、いつも楽しそうにしている方で、
今日は特にうれしそうな顔をして手招いています。

「ちょっとおもしろいもの見つけてん。
 これ、食べてみて。」

「チーズ丸」と書かれた袋の口を
こちらに向けています。
1枚取り出し、いただきました。

名前からして、もっとチーズの味が
主張してくるのかと思いきや、
ほんのりとしたチーズの香りがするくらいで
カリッとした硬めの食感に、
適度な塩分を感じます。

素朴で、懐かしい印象です。
なるほど、と彼女に目をやると、
もう少しどうぞ、と目で促しています。

さらに、2枚いただきました。

カリッとした食感と塩気もいい感じです。

ただ、1枚目とは異なり、
2枚目、3枚目と食べていくと、
さっきは頼りなかったチーズの味が
増してきました。

そして、気づかなかったのですが、
少しナッツの香りも追いかけてきます。

「なんか、これ、病みつきになりますね。」

思わずつぶやいてしまいました。

すると、彼女はパッと笑顔になり、

「そうやろ!これ、なんかクセになれへん!?
 ワインやビール、日本酒にもあうし、
 なにより3、4枚食べて初めて気づく美味しさ、
 なんか奥ゆかしくない!?」

とてもうれしそうな声と共に、彼女も袋に
手をやり、ポリポリと食べ始めました。

「奥ゆかしい」という表現に
彼女のセンスを感じます。

そして、少し神妙な表情になり、言いました。

「でも、これ、いつも売り切れてんねん。
 今日はたまたまあったけど、
 買われへんかったら悲しくなるやん。
 だから、あんまり教えたくないねん。
 みんなには内緒やで。」

人差し指を唇にあて、
いたずらっ子のように微笑みました。

まだ学生だった僕は、
この秘密めいたやり取りも含め、
この小さなおつまみの虜になったのでした。


ほどなくして先輩は転職し、僕もリカーショップの
アルバイトを卒業し、オーストラリアに留学したり
今の会社を立ち上げたりと忙しい毎日を過ごし、
気がつくと25年の歳月が経っていました。

その間もチーズ丸は変わらず僕の手元にあり、
自分自身へのご褒美として、密かに食べ続けて
いました。

そして、先輩の教えだけは守り、
お酒好きで気の合う仲間にだけ、
こっそりと教えることにしていました。

そんなある日、購入していたお店に行くと、
取り扱いがなくなりました。と、
まさかの悲しいお知らせがありました。

そうは言っても、また取り扱いが再開されたり、
またどこかで目にすることがあるだろう、と
当初はそれほど気にしていなかったのですが、
取り扱いは再開されず、どこかで目にすることも
ありませんでした。

たしかに、よく考えると、先輩から教わった
そのお店でしか見たことがなく、ともすれば
もう口にすることができなくなるのでは、
と、不安がよぎりました。

それ以来、僕は、取り扱い再開を夢見て、
3ヶ月に1度、季節の変わり目になると、
そのお店に確認に伺う日々が続きました。

でも、店員さんはいつも残念そうに
首を横に振るだけでした。

5年の歳月が経った頃、
いつも首を横に振るだけだった店員さんが、
私を見て、憐れんだのでしょう。

「あなた、よく訪ねて来てくれはるけど、
 残念ながら、あれはもう取り扱いしないから、
 製造元を教えてあげるから、
 一度連絡してごらん。」

と、こっそり教えてくれたのでした。

「え!?いいんですか?
 ありがとうございます!!」

深々とお辞儀して、心より感謝を述べました。

(もしかしたら、また、会えるかもしれない。)

心が踊りました。

お店を出て、僕はすぐに連絡しました。

それは西村製菓所さんという、大阪の枚方市で
大正時代からおせんべいを作っておられる
会社でした。

そして、2週間ほど日数がかかるけど、
10袋単位であれば購入できることを知り、
すぐに発注しました。

僕が食べていたものと同じものなのかどうか、
届くまでの2週間がとても長く感じました。
もし違うものだったら、
もう二度と会えない気もします。
これほどまでに自分の一部になっていたのだと
考えると、なんなら、あの日、出会わなければ
よかったとさえ思い始めました。


そして、運命の日、商品は到着しました。

すぐに紐をほどき、ダンボールを開けると
「チーズ万月」と書かれた袋が
10個入っていました。

その1つを手に取り、袋を開け、
すかさず1つ、口に放り込みました。

「カリッ」

もう1つ、「カリッ」

3つ目くらいに、
ふんわりとしたチーズの香りがします。

「これだ!」

目を閉じると、じんわりと涙が出てきました。
5年間、僕はこの食感を求めて、
さまよい歩いていたのです。

おかえり。僕のおつまみ。

まったく同じものだと確認ができ、
これではっきりとしました。
「チーズ丸」は「チーズ万月」の
OEM商品だったのです。

そのことを教えてくれた店員さんに
改めて、感謝しました。

それから毎日、晩酌にチーズ万月を食べました。
大量のチーズ万月は、なかなか減りません。
しかも、チーズ丸は80gの内容量でしたが、
チーズ万月は約2倍の150gもあります。

「昔から大好きなおせんべいなんです。どうぞ。」
家族や友人たちにもおすそ分けをしました。

ただ、おすそ分けをする量としては
少し多いような気もしますし、
また、一度開けると湿気てしまうため、
もう少し小さな袋で小分けにでき、
上にジップロックのように空気を抜いて
湿気から守れる機能があればいいのにな。
と思い始めました。

おすそ分けした方々からは
「これ、クセになって美味しいね!」
と言っていただき、
ますます、この小分けバージョンは
良い案だと思い込み始めました。

そして、すべてのチーズ万月がなくなったので、
次の発注をメールで行い、銀行振込をすると、
ほどなく入金確認の返信がありました。

「早々のご入金ありがとうございました。
 お味はいかがでしたでしょうか?
 またご感想、ご意見お聞かせください。
 ありがとうございました。
 またのご注文をお待ちしております。」

僕はこのメッセージを真に受け、
チーズ万月に対する思いの丈をメールに
ぶつけることにしました。

好きなお菓子ランキングの堂々1位であること、
30年前から不動の1位であること、
ここ数年ずっと探し回っていたこと、
家族や友人にもおすそ分けして好評だったこと、
みんながとても喜んでくれたこと。

そして、こう綴ったのでした。

チーズ万月が好きすぎての発言、お許しください。
小袋バージョンがあれば、みなさまにもっと手軽に
お配りできると思っているのですが、
お考えはないでしょうか。もしお有りなら
友人や仲間に配り歩きたいと思った次第です。
出過ぎた意見で申し訳ございません。

すると、すぐに返信がありました。

「色々と、アドバイスをいただき
 誠にありがとうございます。」

怒っておられないことがわかり、ホッとしました。

そして、昔は170g だったが、
今は150gに小さくしたこと、
チーズ万月を九州のお店が80gで
別名で出していることを教えてくれました。

そして、やりとりの最後に、

「もし辻様が、私共のチーズ万月を仕入れると
 お考えならば、またこちらから
 ご連絡させていただきます。こんなに気に入って
 いただき本当に感謝しております。」

とありました。

「え?」 僕は少し驚きました。

仕入れて売ることもできます、と
言ってくださっているのです。

この大好きなお菓子を小分けにして、
湿気防止機能をつけて、しかも
名前をつけて売ることができるってこと?

こんな幸せなことはないんじゃないのか。
こんなチャンスは二度とないかもしれない。
勝手な妄想がどんどん膨らみます。

すぐに西村製菓所さんに連絡を取り、
打ち合わせの日程を決めました。
しかしながら、今は繁忙期とのこと、
先方からお電話にて
ご連絡いただくことになりました。

その5日後にお電話がありました。
お電話口のお声は女性の方でした。
メールのやりとりは社長のお名前だったので
気づかなかったのですが、意外にも、その内容を
打っておられたのは奥様だったのです。

「はじめまして。
 この度はありがとうございます。」

優しい口調が電話口に響きます。

「いえ、こちらこそ素人が何か大変無礼なことを
言ってしまってないか、大変恐縮しています。」

受話器に向かって、一礼しながら
お話させていただきました。

そして、チーズ万月に対する思いや、
小分けにする際のグラム数について、
仕入、販売についての一通りのルールや
諸条件についても伺いました。

素人の私にもわかるように、
とても丁寧に教えてくださいます。

最終的には、
50g、80g、100gの内容量のサンプルを
一度、送っていただくことになりました。

そして、50gという量が、自分で食べる時や
おすそ分けする時の僕の理想だと思いました。

すぐに以前からお世話になっていた
印刷会社の谷川社長に連絡を取り、
「お菓子の袋っていくらくらいするんですか?」
と尋ねました。

始めは「急にどうしたんですか?」と笑いながら、
対応してくれていた谷川さんでしたが、
これまでの話や、このお菓子の魅力を伝えると、
たしかにこれは美味しいし、おもしろいですね。
と、私の想いを理解してくださいました。

チャック機能のある袋のサンプルを
いくつか見せていただき、
商品を立てるのか、吊るのか、どう見せたいのか、
などのヒアリングを受けました。

お店に置くことはなく、親しい人に少しずつ
紹介したいと思っていて、気に入ってくれたら
買っていただくのが理想かな、と曖昧なことを
言いましたが、谷川さんは困る様子も見せず、
さらりと言いました。

「今後、どこかのお店においてもらうことも
想定して、商品が立つタイプにしておきましょう。
例えば、飲食店や雑貨屋のレジ周りにも
置いてもらえるイメージです。」

爽やかな笑顔で提案してくれました。

なるほど。たしかにそんなこともできるかも
しれません。想定外のイメージが出てきました。

そして、袋に印刷するか、シールにするか。
印刷すると1万個以上のロットになるため、
最初はシールにしませんか?
500枚くらいからでも作ることができます。
ともご提案してくれました。

「それはそうと、商品名は何になりますか?」

と、質問がありました。

僕とこの商品との出会いは「チーズ丸」で、
これを小分けにしたい。という想いを込めて
「チーズ丸子」という名前が良いと思っています。
と話をすると、

「いいですね!チーズ丸子!」

と、楽しそうに笑ってくれました。

それからほどなくして、以前、
谷川さんがご紹介くださった岡田さんが
シールのデザイン案を考えてくれたと
連絡があり、提案書を見せてくれました。

岡田さんは東京を中心に広告デザインのお仕事を
されておられる方で、ファーストフード最大手の
広告制作も手掛けてもおられ、その合間に
チーズ丸子のデザインも作ってくれたようです。

全部で6つのシールのデザイン案がありました。
そこにはワインラベル風、チーズの形を模したもの、
縦書きのデザインやトリコロールカラーなど、
色んなバリエーションを考えてくださってました。

その中に、目が釘付けになった案がありました。

説明文にはこうありました。

ワインを嗜むマルコおじさんでキャラクター展開。
お酒(ワイン)にあうことを視覚的に訴求。
キャラクターを設定することで商品ストーリーを
感じられ、商品を愉しむシーンを具体的に想像
できるパッケージとなります。イタリア語圏に多い
男性名「Marco(マルコ)」表記にしました。」

僕が思い描いていた和風の「丸子」ではなく、
イタリアのオシャレなおじさんになって
「マルコ」は、僕の前に現れたのでした。

雷に打たれたような感覚に陥り、
僕は膝から崩れ落ちました。

第一線で活躍されている方の凄さを垣間見ました。
デザインの力、ここに極まれり、です。

商品名から、おもしろがっていただいたことが
とてもうれしく、岡田さん、谷川さんに
頼んでよかった、と心から思いました。

一緒になって楽しんでいただけるパートナーがいる
心強さは何物にも代えがたいと実感した瞬間でした。

これで、商品名、パッケージ、キャラクターが
出来上がりました。

あとは、値決めです。

仕入れ代、袋代、シール代、シール貼り代、
デザイン代、仕入れ郵送費などを合わせると
ある程度の仕入額になるため、コンビニや
スーパーで売っている100円前後の価格に
することは到底難しく、かと言って、
1つ300円以上もするお菓子というのも
海外の高そうなお菓子しか見たことがありません。

値決めは経営。
そんな言葉を聞いたことがあります。

とても難しい判断ですが、3つで1000円なら、
1つ333.333円。すべて3となります。

ここは、「三方良し」近江商人の言葉を借り、
「3で良し」「3つで1000円」
という価格にしました。

そして、1つでも多くの方に広まることを願い、
3000円分、買っていただけたら
1個おまけの10個になる設定にしました。


すべての準備が整い、先日、西村製菓所さんから、
初回制作分が届きました。

いよいよお披露目したいと思い、
「いつがいいだろう?」と
思いを巡らせていたところ、

なんと、
おせんべいの日が「11月7日」
チーズの日は「11月11日」
ということがわかりました。

チーズのおせんべいはその中心の日、
まさに、今日「11月9日」を勝手に
「チーズマルコの日」に制定し、
完成のご報告とさせていただきます。

マルコおじさんのお誕生日。としても、
深く歴史に刻まれることを願いまして、
僕の大好きなお菓子のご紹介と
これまでの経緯をご報告させていただきました。


勝手な個人の思いつきを、おもしろがって
協力してくれる仲間がいる。

人生って捨てたもんじゃないですね。

長文、最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。

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ご協力いただいています西村製菓所さまの
「チーズ万月」は内容量も多く(1袋150g)
ご購入いただけますし、チーズ以外のおせんべいも
たくさん扱っておられますので、ご興味ある方は
ぜひwebサイトにてご確認いただけると幸いです。

***

2021年11月9日に、チーズマルコの誕生を
発表させていただきました。

すると、予想以上の反響をいただき、
ひと晩に1,000袋を超えるご予約がございました。

コメントやご注文をいただきました
みなさまに心より感謝申し上げます。

そして、ご興味をもってくださった方との
ご縁を大切にしつつ、これからも
チーズマルコという大好きなおせんべいを
少しずつでも紹介していくことができるといいな、
と思っています。

長文を最後までお読みいただき、感謝いたします。
ありがとうございました。


辻 友崇


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