エッ!明日は早帰りっ!? 呟7
「体育がさ~、体育にならないんだよ!Rのせいで!」
学校から帰ってくるなり、長男が乱暴にランドセルを床に下ろしながら言った。
「あいつが暴れて、先生が怒って全然進まない」
長男たちは今、体育でダンスの練習をしているらしい。
「もうS先生なんてずっと怒りまくりだよ。」長男は疲れた~と言ってソファーに寝転がった。
待て待て。
怒られてたのはRくんだし、ダンスの練習は進んでいない。なのに何でアンタがそんなに疲れたわけ?
……と思ったが長男には言わなかった。代わりに「へぇ~」とだけ答えておいた。
Rくんを初めて見たのは去年、4年生最後の参観日の時だった。学年全体で行うその参観は体育館で行われ、保護者は後ろのほうで子どもたちを見ていた。子どもたちが整列し、みんながきちんと座っていたその時、Rくんが突然、奇声を上げた。先生がなだめるがRくんの声は小さくならない。Rくんはやがて並んでいた列から連れ出され、先生たち3人がなだめていたが、結局高ぶった感情が治まらないのか、体育館の外に連れ出された。
後から聞くと、登下校の途中にも道路に寝転んだりして、その言動がわりと有名な子らしかった。
長男が言うには、Rくんは低学年の頃は普通学級ではなく、特別支援学級だったという。しかし3年になって長男たちと同じ普通教室になったが、いつも怖い男の先生が担任について、何かと怒られているという。
なんだかRくんのことを、心底気の毒に思った。
いつも先生に怒られるような学校に、彼が来たいと思うだろうか?思うわけない。誰だって怒られるのは嫌だ。
本人も何かあるから暴れたり奇声を上げるのだろうし、それを怒りつける先生。その様子を見つめている長男を含めた周りの子どもたち……。
こんな状況で、誰か一人でも、心が救われるのだろうか?
そういえば長女が高学年の時にもあった。その時は女の子だった。「Nちゃんが窓から飛び降りそうになってるから、先生すぐ来てください!」と隣のクラスの子が長女のクラスに飛び込んできたことがあったのだ。そのNちゃんは普段は普通なのだが、怒りのスイッチが入ると止まらないタイプで、ステンレスの水筒で男の子に殴りかかったりするような子だった。しかし結局、男の子たちの間では”Nを怒らせると面白い”って感じで、わざとちょっかいをかける子が出てきた。Nちゃんもいわゆる「グレー」の子っぽいのだと思う。普通学級では、辛いことも多かっただろう。
この手の子たちは、低学年ではあまりその言動は目立たない。なぜなら、単なる落ち着きのない子たちも、低学年ではまだまだたくさんいるから。しかし、高学年になると、やはりハッキリとしてきてしまう。
長女が幼稚園のころ、先生に向かってイスを振り回して投げつけていた男の子がいた。その子はやんちゃでやんちゃで、それこそ低学年の時は友だちの首を絞めて怒られたりしていた。
しかし、中1となった今は、フツーの子である。挨拶もして礼儀正しい。ゲームに熱中し、部活に夢中になり、勉強もよくできる普通の男子中学生。
子どもは、誰がどんな風に変化していくかわからない。だから周りの大人はよく見ていなきゃいけない。そして、この子は生きづらそうだと思ったら、どこかで手を差し伸べなくちゃいけない。それも、なるべく早いうちに。
子どもだって大人だって、誰だって自分が生きていきやすい場所を求めている。多数派の人も少数派の人も、普通の人も普通とは違う人も、皆が自分の居場所を求めているし、それが当たり前。
RくんにはRくんにあった場所があるはずだ。そこでのびのびと過ごす方がどれほど自分の力を発揮できるだろうかと、思わずにはいられない。
Rくんも、Nちゃんも、社会や自分に絶望しないで生きていって欲しいし、できるはずだ。そしてその環境をできるだけ整えてあげるのは、親、先生、地域や自治体など、大人の使命だと思うのだけど。
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