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【難病】脊髄空洞症だった④

頭蓋骨に穴をあける手術

K医師から提案された手術は大孔減圧術というもので
頭蓋骨に穴をあけて空間を作ることで
せきどめられている髄液の通り道を確保するという内容なのだと
その場で図を描いてもらいながら説明を受けた。

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私は常に冷静でいられるよう最悪の状況を想像する癖があって
K医師から説明を受けながら、
全身麻酔を打たれた私が
開頭手術中に執刀医から脳に傷をつけられてしまい
そのまま意識が戻らなくなるというシーンを想像してしまった。

とんでもないことになったなと思ったし
私の身体は、とんでもないことをしないといけない
状態になっているのだと理解した。

そして「ホムンクルス」という漫画をふと思い出した。

あらすじは省くが、この作品の主人公は
ある事情で世捨て人のような生活を送っており
ひょんなことから頭蓋骨に穴を開け
これをきっかけに不思議な能力に目覚めるという設定だ

開頭手術に対する怖さは感じてはいたが
シリアスに落ち込まずにすんだのは、この作品のおかげだ。

“実際に、頭蓋骨に穴を開けたらどうなるのか”

数秒ほど妄想したことで
冷静さを取り戻すことができた。

そして、私は自分が「知らない国」に
迷い込んだのだと考えることにした。

脊髄空洞症が発覚してから
それまでの暮らしでは関わってこなかった
「言葉」、「思考」、「ルール」に触れ続けてきた。

K医師はその国の住人で
初めて私にその国のルールを教えてくれているのだと。

そういう場面は以前、バックパッカーをしていたときに
何度も経験していて
知らない国を訪れた旅人なのだと思い込むことにした。
旅人は訪れた国について大いに学び楽しまなければならない、
これが旅中に私が心がけていたことだった。

そんなことを考えているうちに
手術の恐怖は曖昧になっていた。

その後、手術によって今の症状がなくなるわけではなく
手術はあくまで病状の進行を止めるものだと説明をされたが
「手術をする」という決意は揺るがなかった。

病気を伝える

後日、手術の詳細が決まり
今回の「大孔減圧術」において権威である
東京女子医科大学の医師が
執刀医を務めてくれることになった。

そして手術日と入院期間が決まった。

入院期間は10日間。

この時、帯のレギュラー番組を担当しており
他にもいくつかのレギュラー番組を抱えていたので
定例会議、企画会議と
穴を開けてしまうことが確定した。

これまで避けてきたが、
仕事関係者を含めた
周囲の人たちに病気の説明する時が来た。

すると、当然ながら

大丈夫なの?

という質問を何度もされた。

厳密に言うとこの言葉は質問というより
何の意図もなく条件反射的に返された、
何なら心配というニュアンスを含んだ
リアクションワードに過ぎないかもしれない。

しかし、余裕のない私には
「大丈夫なの?」という言葉は
そのままナイフのように体中に刺さって
これでもかと心をかき乱した。

このキーワードを浴びるたびに
本当に大丈夫なのか?
手術は無事に終わるのだろうか?
手術をしても症状が進んだら?
と、不安が駆け巡った。

大丈夫か否か。

医師が100%成功を保証することのない
手術の行方など誰にもわかる訳がないし
むしろ一番知りたいのは
他の誰でもなく私自身だった。

何人かに説明した後は
「大丈夫なの?」を避けるために
先走って病気と手術について
細かく説明をすることにした。

病院、主治医、手術の担当医について…
今回の手術において
これ以上無いベストな条件が揃っていることを
自分に言い聞かせるように強調して回った。

理解して激励してくれる人もいれば
それでも「大丈夫なの?」と聞いてくる人もいた。

無意識に口にしがちな言葉で
こんなにも疲弊することがあるのかと思った。
難病になって初めて知る感情だった。

逆に私はこれまで
家族や友人などが病気になった際に
同じことをしてはいないだろうかと不安になった。

このような具合で
心をグチャグチャにしながら
さまざまな相手に説明をして回ったのだが
中でも最も気を遣ったのが母親だった。

【難病】脊髄空洞症だった⑤に続きます

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