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似ているけどちょっと違うマーケティングキーワードについて考える(全3回):第1回 「顧客起点」と「顧客中心」

当協会は文字通り「通販のエキスパート」を目指す方々に向けた資格「通販エキスパート検定」を実施しています。

これから3回に分けて、同一視されることもあれば、違うものとして区別されることもあるマーケティングキーワードについて、個人的な見解も織り交ぜながら整理したいと思います。今回取り上げるのは「顧客起点」と「顧客中心」です。

1)「顧客起点」とは?
それではまず顧客起点について、いくつかの「用法」を見てみましょう。
◯リクルートマネジメントソリューションズHPより
「顧客起点」とはお客様の声(顧客接点現場で起こっている事実・現実)を捉え、その声を自社のサービスや事業戦略に活かすことです。
◯ニッセイ基礎研究所HPより
自社の商品・サービスについて、企業側の立場を離れて一般の消費者と同じ目線にたつこと
◯日経ビジネス:楠木建氏・西口一希氏対談より
(顧客視点でない例として)
顧客の意向や要望に耳を傾けず、自社の都合で商品開発や販売施策をどんどん進めてしまう

以上のように、顧客起点とは「企業起点」ではなく、顧客あるいは消費者の立場に立ち、その具体的な購買行動や声と向き合い、事業戦略やマーケティングに反映していくこと。と言えそうです。
ちなみに昨今では「顧客起点のDX」という言葉も大手広告代理店のキャッチ
フレーズで良く聞きます。DXにおいてはデジタル化とともに「データの取得と分析」が重要とされていますから、この場合の顧客起点とは、「顧客データを収集、分析し、そこから得た知見に基づいて事業や組織を変革していく」といった意味になります。

2)顧客中心とは?
一方で「顧客中心」ですが、上記とほぼ一緒の意味に(「企業中心」に対する反対語として)扱われることも多いのですが、顧客中心の反対語は企業中心というよりは「製品(商品)中心」です。
典型的なのはマーケティングの4Pと4Cの対比です。
4PのProduct(製品)に対して4CのCustomer Value(顧客にとっての価値)という考え方こそ、顧客中心の本質の一つです。

また、最近「売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法」という本を見かけたので読んでみましたが、

(中略)売上高には、商品から積み上げる観点と、顧客から積み上げる観点があります。商品から積み上げる考え方が「商品勘定」。一方、顧客から積み上げる考え方が「顧客勘定」。こちらは「どの顧客がいくらの何をどれだけ買ってくれたか?」です。

とありましたこの「何がどれだけ売れたかではなく、誰がどれだけ買ったか」という視点は、もう一つの顧客中心の本質です。

つまり顧客中心は、顧客起点の概念を含みつつ、さらに戦略レベルで一歩進んで、企業における事業成長や収益管理の主役を製品(商品)ではなく、顧客とする、という考え方です。最近良く聞くようになった「LTV経営」のベースとなる考え方とも言えます。

もし当社は顧客起点ですとか顧客起点マーケティングを実施しています、と言いながら、事業計画を製品(商品)ジャンルごとの売上計画の積み上げでだけ表現し、顧客セグメントごとの売上やLTVなどについては言及がなかったら、その会社は顧客中心ではないことになります。

下表は、製品中心と顧客中心の比較表です。とある海外の学者が顧客中心のアプローチについてまとめたものを翻訳しました。最上段の基本的理念については、まさに顧客起点の発想です。しかし、その下段以降で表現されている内容は、よく見かける顧客起点の議論より細かく、組織構造や業績評価にも及んでいます。

また、最下段の顧客知識については、「価値ある資産」という言い方をしています。これは上記の「顧客起点のDX」で言及した顧客データ重視の文脈と同じです。

製品中心と顧客中心のアプローチの違い

以上、まとめると、顧客起点と顧客中心は「全ての意思決定を(企業視点、自社都合ではなく)顧客を起点に行うという考え方をする点で同じですが、製品中心の考え方からの脱却(4Pではなく4C)や、LTVを中心とした経営管理や、顧客セグメントを中心とした組織運営にまで言及しているなど、より具体的な戦略を伴う、という点で違いがある、と言えそうです。

実は、この顧客中心に関するお話は、主に海外のビジネス誌や著名な学者の
説明が元
になっています。なぜなら、日本では顧客起点と顧客中心をほぼ同じ意味で使っていることがほとんどだからです。

ここからは私見なのですが、日本人は士農工商という言葉があるように、「お金」、「勘定」というものを少し否定的に捉える傾向に有り、とりわけそれを顧客と結びつけて使うことに、抵抗感があるのではないでしょうか?

顧客に対して誠意を持って向き合い、顧客の行動や声を起点に事業やマーケティング活動を組み立てる、というところまでは腑に落ちても、さらに進んでその活動の成果を顧客から得た「収益」という観点で評価し、顧客のことを自社を中長期的に成長させてくれる「資産」として投資を行い、収益管理する、というところまで行くと、顧客起点から外れて顧客を金儲けの対象にしている、というある種の嫌悪感に近い感情を抱いていしまうのかもしれません。

しかし、デジタルマーケティングの世界で、CPAやCVRにように「コストパー◯◯」、「◯◯レイト」という言葉がよく使われるのは全てROI(投資対効果)重視の発想です。LTV経営という言葉が数年前に新しいマーケティングキーワードとして日経などのメディアでよく取り上げられるようになったのは、このROI重視のデジタルマーケティングの浸透が一つの理由です。

顧客と真剣に向き合う、ということと、投資対象として収益管理する、といいうことは本来矛盾しないはずです。

多くのビジネスがデジタル化、ダイレクト化していっている現在、このLTV経営のベースとなる「顧客中心」の考え方はこれからどんどん当たり前のように定着していくと思われます。

以上、いかがでしたでしょうか。それでは次回は「マーケティングとダイレクトマーケティング」です。

*「顧客中心」の考え方についてもっと知りたい方へ!
更に詳しい「顧客中心」に関する解説や、実践手法については、当協会の検定試験「カスタマー・セントリシティ(顧客中心)」のテキストにまとめています。よろしければぜひご参照下さい。



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