絹糸と、蚕さんのこと。
蚕さん、いわゆる家蚕(かさん)と絹糸のことを、少し綴ってみたいと思います。
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蚕と絹糸、絹糸と生糸
蚕さんは、蛹になる際、身を守るために繭を作ります。
ぐるぐる、ぐるぐると8の字に頭を振りながら吐き出される糸の長さは
1300mとも、それ以上の品種があるとも。
細い細い糸で・・・私が普段着物を織る際使っている生糸は、
7粒引きの糸を10本撚ったもの。
つまり70匹分の糸の太さです。
生糸を引く際は繭を煮て、糸を固めている糊のようなタンパク質(セリシン)を解しながら引き出します。
8の字なのが途中で絡まらない秘密。
そう。何もなければ糸をぴーっと引いていくと中から蛹さんが現れるはず。
煮ていますので、成虫にはなりませんが。
生糸は蚕さんを煮るか、あるいは糸を取るにも作業量限界はありますので
最近は乾燥や冷凍、古くは塩漬け(塩蔵法)、蒸し上げ(蒸殺法)等を施し
要は蚕さんが成虫になって繭から出ないようにしないといけないのです。
生糸と紬糸
何故ならば・・・
蚕さんはまず、繭の中で羽化します。
で、繭と言うものは、作った自分なら好きに出入りできる、
なんでしょう、ファンタジー物の結界なんかとは違うので
中の蚕さんは自分で作った繭に穴を開けないと出られません。
とりあえずは中で蛾の姿に変体を終え、蛹の皮を破り、
《嗉嚢|そのう》という臓器で作られるコクナーゼという酵素を吐いて
出口と定めた場所のセリシンを柔らかくしつつ、
ぐいぐいと糸を押し分けて出てきます。
また、出てくる際には《蛾尿|がにょう》と言いまして、おしっこと言いますか、体内の水分を輩出します。
これに色がついていて、繭の内側が汚れてしまいます。
後は、脱いだ蛹の皮でしょうか、これも繭の内側に張り付きます。
そんなこんなになりますので、要は、蚕さんが孵ってしまうと、
繭の質が変わってしまって、生糸は取れないと。
酵素で糸そのものは切れないと言いますか、ただしコクナーゼはアルカリ性なので
弱酸性の繊維には少なからずダメージはありますし。
とはいえ、蚕さんの少なくとも一部は成虫にしないと、
次の回のための蚕種(さんしゅ:蚕さんの卵のこと)が取れません。
その、生糸が取れなかった繭、あとは病気だったり、
成長が悪くて小さくしか作れなかった繭などでしょうか
そういうものを無駄にしないのが日本の文化なんですよね。
これを煮て、糊のセリシンを解し、蛹皮なども極力剥がし、
綿のように引き延ばしたものが、真綿です。
で、その真綿を、引き出すと言うか撚ると言うか、そのどちらでもないと言うか、どっちともだと言うかで、伸ばし撚って作るのが紬糸というもので。でもって、その紬糸を使って織る織物が紬織と。
繭と生糸
正確に言いますと、蚕さんの糸は、キビソ(生皮苧、緒糸とも)
という吐き始めの部分、長い長い生糸の部分、ビス(皮巣)と言われる
吐き終わりの部分があります。
キビソもビスもそれぞれ生糸とは風合いが異なり、その部分だけを集めて別の糸として販売されたりもします。
(吐き始めはまだ安定してないから、終わりは体の中のの残りかすだから、要は作りが微妙に違うと聞いたことがあります。
分かりやすく色のついた天蚕繭で言うと、外の硬い黄緑色の部分がキビソ、
中に薄黄緑の生糸の部分があって、ビスは若干黄みを帯びた白、というくらい違います)
ビスは最後皮っぽい感じになって、解れなかったりしますね・・・
という、そういう皮っぽいものや節っぽいものが、真綿の中には残ります。
ですので、何とか均質に引き延ばして行こうと思っても、どうしても無理なことがあります。
それが紬糸に残っている節の正体です。
結局何が言いたかったかと申しますと、糸はやっぱり生命のいただきものだし、
こういう、勿体ない感から生まれた糸が、愛しいなあと思うわけです。