今こそルーティンを変える時だ
このnoteは#SaaSLoversのバトンブログ27日目として書いています。私はAppsFlyer Japan株式会社のカントリーマネジャーをやっています。通常自己紹介とかから始めるものだし、本来「SaaSと英語とグローバリゼーション」というテーマで書こうと思っていたんですが、世の中の状況がそんな余裕をかましてる場合じゃなくなってきたので、緊急的にテーマを変更して、自己紹介もすっ飛ばして書きました。今このnoteを書いている間にも、神奈川県の黒岩知事が週末の外出自粛要請について会見中です(会見の質は置いておいて)。
このnoteは主に企業のリーダー向けに書きましたが、リーダー以外の方にもぜひ読んでいただきたいと思っています。
セコイアキャピタルから起業家へのメッセージ
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、セコイアキャピタルから起業家やCEOに宛てたメッセージが3月6日に公開された。セコイアキャピタルは、前回のリーマンショックの際にも発生直前に起業家に予測めいたメッセージを送ったことで知られている。その彼らが今回どのようなメッセージを起業家に送ったのか。原文は以下の通り(英語で長いですが、英語に強い方はぜひ読んでほしい)。
日本語の要旨は以下の通り。一言で言うと、「今まで立てた仮説や想定は全て白紙にして、全部一から見直せ。そして不況に備えろ」ということだ。
暫定的には、乱気流に備える必要があり、展開する可能性のあるシナリオに備えて心構えを整えておく必要があります。
あなた自身、あなたの従業員、そしてあなたの家族の健康と福祉を守るために、COVID-19に対する予防策の提案が殺到していると思います。
最前線の国の多くの企業はウイルス発生の結果として次のような課題に直面しています。
・事業活動の低下。一部の企業は、成長率が12月から2月の間に急激に低下するのを見てきました。ウイルスの影響が波及するにつれて、軌道に乗っていたいくつかの企業でさえも、2020年第1四半期の計画未達の危機にさらされています。
・サプライチェーンの混乱。中国での前例のない封鎖は、世界のサプライチェーンに直接影響を与えています。ハードウェア、D2C、および小売企業は、代替サプライヤーを見つける必要があるかもしれません。純粋なソフトウェア企業は、サプライチェーンの混乱にさらされる可能性は低くなりますが、経済効果の連鎖により、リスクにさらされています。
・出張の削減と会議のキャンセル。多くの企業がすべての「重要でない」出張を禁止しており、一部の企業はすべての海外出張を禁止しています。旅行会社が直接影響を受けますが、営業、ビジネスデベロップメント、またはパートナーシップの議論を行うために対面の打ち合わせに依存しているすべての会社が影響を受けています。
ウイルスが封じ込められたと確信できるようになるまでに、かなりの時間がかかるでしょう(おそらく数四半期)。世界経済が回復するまでには、さらに時間がかかります。一部の人は需要の軟化を経験するかもしれません。このメールを受け取られた皆様の中には、供給の問題に直面する人もいるでしょう。 FRBや他の中央銀行は金利を引き下げることができますが、金融政策は世界的な健康危機の経済的影響を緩和するための率直な道具となるかもしれません。
以下を含む、あなたのビジネスに関するすべての仮定に質問することをお勧めします。
・キャッシュ・ランウェイ。あなたは本当にあなたが思っているほど多くのランウェイを持っていますか?経済が急落した場合、売上の乏しい数四半期を耐えることができますか?緊急時対応計画を立てましたか?ビジネスを根本的に害することなく、どこで費用を削減できますか?痛みを伴う可能性のある将来の結果を回避するために、今すぐこれらの質問をしてください。
・資金調達。 2001年と2009年に起こったように、民間融資は大幅に軟化する可能性があります。2020年と2021年に魅力的な条件での資金調達が困難であることが判明した場合はどうしますか?困難な状況を、成功を持続させるための準備をする機会に変えることができますか?最も象徴的な企業の多くは、困難な時期に築かれ、形作られました。私たちは1987年のブラックマンデーの直後にシスコと提携しました。GoogleとPayPalは、ドットコムバブル崩壊の余波を乗り越えて戦ってきました。最近では、Airbnb、Square、Stripeはグローバル金融危機の真っ只中に設立されました。制約は心を集中させ、創造性に豊かな土台を提供します。
・売上予測。あなたの会社に直接または直接的な影響が見られない場合でも、顧客が彼らの支出の習慣を改めるかもしれないことを予想してください。確実と思われた取引も成立しない可能性があります。大切なことは不意打ちを食らわないようにすることです。
・マーケティング。売上高が軟化すると、顧客のLTVが低下し、マーケティング支出の一貫した利益を維持するために顧客獲得支出を抑制する必要があると気づくでしょう。経済と資金調達の不確実性が高まると、マーケティング支出のROIの基準を引き上げることを検討した方がいいかもしれません。
・人数。上記のすべての財務上のストレスポイントを考えると、これは、より少ないリソースでより多くのことを実行でき、生産性を上げることができるかどうかをクリティカルに評価するときかもしれません。
・設備投資。経済的自立への道筋を描くまでは、より不確実な環境において設備投資計画が理にかなったものかどうかを厳しく吟味してください。もしかすると、計画を変更する理由はなく、ご存知のように、状況の変化は加速する機会さえもたらすかもしれません。しかし、これらの決定は慎重に行われるべきです。
ほぼ50年にわたってすべての景気後退を乗り越えてきた私たちは、重要な教訓を学びました。状況の変化に迅速かつ決定的な調整をしたことを後悔する人はいません。景気後退時には、収益と現金レベルは常に支出よりも速く落ちます。ある意味では、ビジネスは生物学を反映しています。ダーウィンが考えたように、生き残るのは「最強でも最もインテリジェントでもなく、変化に最も適応可能したものだ」。
永続的な企業の特徴は、このような時におけるリーダーの反応の仕方にあります。あなたの従業員は全員COVID-19を知っており、あなたがどのように反応し、それが彼らにとって何を意味するのか知りたいと思っています。誤った楽観主義は簡単にあなたを迷わせ、あなたが不測の事態の計画を立てたり大胆な行動をとったりするのを妨げることがあります。臨床的に現実的であり、状況の変化に応じて決定的に行動することにより、この罠を避けてください。このストレスの多い時期にチームが必要とするリーダーシップを示してください。
不況(恐慌)はすでに発生している
この記事がリリースされた3月6日といえば、世界の感染者数が10万人を超え始め、イタリアで死者数が増加し始め、イギリスでは2人目の、フランスでは9人目の死者が出た頃だ。ご存知の通り現在では感染者数、死者数とも激増してしまっており、国レベルでの封鎖が行われている地域もある。
失業率も大きく上昇し始めており、米国では4-6月に30%に達する可能性があると米セントルイス連銀のブラード総裁が述べている(リーマンショックの際の米国での失業率は10%だった)。すでにイスラエルでも17%、ノルウェーでも10.4%まで失業率が急上昇している。まるで、この起業家へのレターは、よく当たる占い師からのメッセージのようで恐ろしくもある。
つまり不況、もしくはそれを超える恐慌がすぐそこまで来ているということだ。日本でも確実に起こるだろう。幸いなのは感染者数がまだ日本では激増していないので、他の国々で起こった(起こる)ことを観察し、余裕を持って対策を取れる点だ。
立ち止まろう。前提を疑おう。そして変化に適応しよう。
日本人は一度決めたことを変えることが得意ではない。むしろ「石の上にも三年」という諺の通り、変えないことを美徳としている。しかしそれは正常な状態であればこその美徳だ。この「戦時体制」とも言える状況の中、セコイアキャピタルのメッセージの中でも引用されていたダーウィンの言葉の通りに、生き残るのは「最強でも最もインテリジェントでもなく、変化に最も適応可能したもの」である可能性が高い。幸いなことに、不況に適応した会社が不況後にもっとも大きなビジネスオポチュニティを得られるのは歴史が証明している*。だから僕たちも一度決めた仮説や決定や前提、身に染み付いたルーティンを疑い、変えるべきなのだ。一度決めた決定を覆し、チームの意識を変え、徹底するのは大変だし、大きなチャレンジだ。でもチャレンジが大きければ大きいほど、得られるオポチュニティも大きいはずだ。なぜならチャレンジが大きい分誰もやらないからだ。例えばリモートワークを初めて行う場合、就業規則改定などの準備や、メンバーの管理方法をどうするのかというグラウンドルールの設定に時間がかかり、結局既存のフォーマットを継続してしまっている企業も多いのではないか(実際AppsFlyerも1ヶ月前までは中国以外のオフィスでは全くリモートワークではなく、いやむしろアンチリモートワークで全員オフィスに来いっていうスタンスだった)。
でも従業員はそんな会社のことを、リーダーのことをどう思うだろうか。セコイアキャピタルのメッセージにもあった通り、従業員は会社やリーダーの決定を見ている。危機の中、自分たちを守ってくれる組織なのかを見ている。満員の通勤電車で通わせられてる自分のことをヤフコメで哀れに描くだろう。そしてその不満や嘆きは顧客対応にも現れ、最終的に顧客満足度も下がるに違いない(このPwCが出してるROX(Return On Experience)に関するビデオがとてもよくソレを表してるので観てみてください。この女性のバーガー屋の店員さん、うけますw がこれが自分の会社のメンバーだと思うと恐ろし過ぎる)。
従業員=チーム=共に働く仲間を大切にしよう
大変だけど、まずPeople Firstであろう。今ほど共感性(Empathy)が大切な時はない。会社が困った時は従業員も困っている。会社を支えてくれている従業員=チーム=共に働く仲間を大切にしよう。ビジネスはチームで成り立っていて、チームがいなければ何も生まれない。それはきっとみんな分かっているけどちゃんと表現するのは難しい。でもこんな危機的状況だからこそ、威厳や権利や体制は脇に置いて、リーダーはチームのことを共感性を持って考えてみるべきだ。人が元気ならビジネスはまた元に戻すことができる。でも人が重病になったり死んでしまったら、ビジネスを元に戻すのは不可能に近くなる。
今日(3月26日)カントリーマネジャーの会(小池都知事のメッセージを受け、Zoomでの開催)なるものがあり、そこで一緒に登壇した元Facebook Japan代表の児玉さんから、今Facebookに存在する災害支援ハブの機能は実は3.11の際にチームメンバーの安否を確認するために日本から生まれたというエピソードを聞いた。プロダクト化されたのには、児玉さんはじめFacebook Japanの当時のメンバーの方々の相当な努力があったのは間違いないだろうが、これもPeople Firstがビジネスを作った好例だと思う。
SaaSにはフレキシビリティがある
その点、このバトンブログのテーマでもあるSaaSには優位性がある。クラウドでサービスを提供しているので、理論的には従業員もリモートで働くことができるはずだし、サービスを受ける側もどこで働いていてもそのサービスを利用できる。
なぜ理論的にはと注釈をつけたかというと、昨日取材のためにコワーキングオフィスに久しぶりに行ったら、とある営業支援ツール会社の人たちが普通にオフィスで働いているのを目にしたからだ。営業に行かなくてもPCで営業できますというからには、自分たちがリモートで働いた方がより説得力があるはずで、それを売りにすればと思ったが、外からは窺い知れない何か他の理由やプライオリティがあるのかもしれない。
話は逸れたが、危機的状況なのは自分たちだけではなく、クライアントもそうだということだ。それはもしかしたら潜在的課題も強制的に顕在化されているという点で、サービス提供者側からすればオポチュニティでもあるはずだ。例えば準備不足のままリモートワークを行うと、リアルタイムのコミュニケーションが妨げられ、可視性は下がり、オーナーシップも曖昧になるケースが多い。
Zoom+Slack+Asana+Salesforce+α
しかしSaaSを利用することにより、上記の課題のほとんどは解決できる。AppsFlyerでも現在世界中全てのオフィスでリモートワーク中だが、ビデオ会議にはZoom、テキストでのコミュニケーションはSlack、プロジェクト可視化にはAsana、CRMにはSalesforceを活用し、問題なくビジネスを前に進めることができている。αと書いたのは、これが実は秘伝のタレで、人を繋げるもの、共感性(Empathy)だ。リモートワーク中は互いが見えないだけに、共感性がなくなると、どんなツールを使ってもコミュニケーションはうまくいかないし、チーム間に疑心暗鬼と不安が渦巻くことになるだろう。
まとめ
今こそリーダーは立ち止まり、一度決めた決定を疑い、変化に対応すべきだ。それはリーダーにしかできないことだ。変化に対応する時には、まず何よりもPeople Firstでいよう。従業員=チーム=働く仲間を大切にしない会社にはお客様のことも大切にできない。そしてこの危機的状況に対応するために、SaaSを活用しよう。SaaSのいいところは、今日にでもどこでも低コストで始められることだ。そしてどんなツールを使うにしても、この危機的状況で最も大切なのは共感性(Empathy)だ。
ちなみにリモートワークをする上で、うちの社内で大切にするように言われているのは以下の4つだ。参考になれば。
・Do more with less 少ないことでより多くのことを実現しよう
・Refine/define processes & interfaces プロセスとインターフェースを磨き、定義しよう
・Clear ownership and responsibility オーナーシップと責任を明確にしよう
・Improve internal communication 内部のコミュニケーションを改善しよう
最後にWinston Churchillの言葉を。
この危機的状況を無駄にせず、皆で未来を作っていきましょう。そしてコロナ禍が終わったら、地球上のみんなで一本締めをやりたい。早く平和が、大切な家族や友人と普通に話せる平和な日が戻りますように。それまでは、Stay safe, stay healthy!
ちなみに僕や会社のことはここに書いてありますので、ご興味ある方はお読みください。
*2000: The dot-com bubble
Giants created: Google, Amazon, Netflix, Salesforce, Apple (Take 1)
Vanished: Blockbuster
2008: Subprime financial crisis
Giants reenforced: Apple (Take 2), Google, Amazon, Facebook.
App ecosystem: Uber, Airbnb, Whatsapp, etc.
Vanished: Blackberry, Nokia
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