八代目市川新之助への期待
歌舞伎座の十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台公演は、昨日、千秋楽でした。
襲名披露興行はこの後、博多座、南座、御園座、大阪松竹座のほか、全国巡演などが予定されています。
私は、歌舞伎座公演は11月、12月とも昼の部、夜の部を各1回観に行きました。
11月の『外郎売』
八代目市川新之助として初舞台を踏む十三代目市川團十郎白猿の長男・堀越勸玄君は、すでに本名で歌舞伎座などの舞台に立っています。
今回、八代目市川新之助を名乗ることで、新たに歌舞伎役者として歩んでいくことになります。
11月は、昼の部の『外郎売』の外郎売実は曽我五郎時致で初舞台を勤めました。早口言葉の言い立ても、一つひとつの言葉がよどみなく、素晴らしかったと思います。その他のセリフもハキハキしていて良かったですし、見得の形も決まっていました。
工藤左衛門祐経の尾上菊五郎をはじめ、周りの役者さんたちが温かく見守っていたように見えました。
11月の夜の部は、『口上』と『助六由縁江戸桜』の福山かつぎ役で出演していました。福山かつぎが『外郎売』の曽我五郎時致に比べて小さくて幼い感じがしたのは、衣裳の影響も大きかったかもしれません。
12月の『毛抜』
12月は、昼の部の『毛抜』の粂寺弾正で初舞台を勤めました。
(夜の部は、『口上』のみの出演でした。)
粂寺弾正を勤めると聞いた時は、
「粂寺弾正を小学生が勤めて大丈夫?」
と心配になりました。
『毛抜』は歌舞伎十八番の一つですが、粂寺弾正は荒事らしさはあるけれど、知性も武勇も色気も兼ね備えた大人の役だと思っていたからです。いくら本人が「やりたい!」と言ったとしても、正直厳しいと思ったからです。
おそらく、多くの歌舞伎ファンの方々が期待よりも不安が大きかったのではないでしょうか。
12月に実際に舞台を観て、「厳しいな」と思ったところもありましたが、よく勤めたなと思います。
たくさんのセリフを詰まることなくはっきりと言っていたところ、見得の形が決まっていたののはさすがでした。特に、見得の際に、足の親指の先がきれいにピンと立てていたし、形もきれいでした。
『毛抜』も、周りの役者さんが揃っていたのが良かったです。
※ 和樂webに、歌舞伎『毛抜』のあらすじとみどころを紹介した記事を書きました。
役者としての華があるかも?
2ヵ月、八代目市川新之助の舞台を観て、約1時間の演目の主役として、失敗が許されないという緊張感の中で、堂々と勤めたことに拍手を送りたいと思います。膨大なセリフや動きや見得など、よく覚えたと感心しますし、教わったことをきちんと表現できていました。
何よりも、歌舞伎座の広い舞台に負けない華が感じられました。まだ9歳ですが、歌舞伎役者としてキラリと光るものがあったと思います。隈取りも似合っていました。
確かに、大人の役者さんたちに囲まれると小さいのですが、その中でもしっかりと存在感がありました。歌舞伎が大好きだということも、客席に伝わりました。
ただ、難しいのはこれからかもしれません。
初役であれば、今は教わったとおりに勤めて、「よくできました」で評価してもらえても、2回目、3回目と演じていくうちに、壁にぶつかることもあると思います。成田屋の屋号が重荷に感じることもあるかもしれません。
まずは、歌舞伎の基礎の部分をきちんと学び、身に付けていって欲しいと思っています。
八代目市川新之助がこれからどんな役者に成長していくのか、歌舞伎を観る楽しみが増えました。
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