『サラバ!』西加奈子 書評
📕『サラバ!』西加奈子 書評
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年末に、とんでもなく面白い本に出会って「え、本ってこんなに面白いの⁉️」と久々に思いました。
上・中・下の3巻があっという間でした(日曜に読み始め、月曜に読了)
2015年直木賞受賞作ですが、今年の私のベスト小説は、本書に決まりました。
この書評は、英語にもニュースにも直接的には関係ありませんが、「異文化理解」の観点では、英語を学習したり、英語を子供達に教えたりしている皆様にも、関心のある話題だと思うので、こちらに私の書評を書かせていただきます。
この小説の魅力を5点にまとめてみました。
《1》 エジプトの描写
主人公の男性、歩(あゆむ)はイランで生まれ、日本の幼稚園に通い、小1~4をエジプトで育ち、小5で大阪に帰国。
少年の目線から見た、エジプトの描写が素晴らしい。
街の喧騒、鮮やかな色と匂い、モスクから流れるお祈りの声さえ伝わってくるようで、引き込まれます。
現地の家政婦の女性、後に彼の親友となるヤコブ少年など、現地のエジプト人の人格も素晴らしい。
子供の頃すごした、たったの4年間が、彼の心に深く刻み込まれたことを感じます。
《2》 村上春樹的な洗練
歩は様々な女の子と恋に落ち、別れを繰り返します。
その恋愛の描写の合間に『ホテル・ニューハンプシャー』などの文学作品や、当時を代表するレコードが出てきます。
村上春樹さんの小説が好きな人は、『サラバ!』も好きでは?と感じました。
私は特に、本書を通してニーナ・シモンズの “Feeling Good”に出会い、魂を揺さぶられました。
《3》宗教と信仰の意味
本書には、多くの宗教の信者が描写されています。
イランやエジプトで、お祈りを捧げるイスラム教徒や、コプト教徒達。
神社で静かにお参りをする叔母。
大家さんの祭壇、謎の「サトラコヲモンサマ」。
仏教、ユダヤ教。
多くの宗教や信仰と出会う歩の、人生の自分探しの旅は、
「自分が信じるものは、自分で決める」
の主題へと、ダイナミックに繋がっていきます。
《4》帰国子女の苦労と、逆カルチャーショック
子供の頃から「変わり者」だった姉の貴子は、
エジプトの日本人学校では楽しくやっていたのに、
日本に帰国した途端、日本人のクラスメート達に、いじめられます。
こういう話は、私は経験したことがないものの、周りの友人からは頻繁に聞くので、リアリスティックで、貴子の痛みが切なかったです。
反対に「世渡りの上手い」歩は、努力の結果、日本の生活にすぐに順応します。
大人になってから彼がエジプトに行く場面では、
自分の思い出を重ね合わせて(私も、大人になってから、自分の育った香港の街を旅行で訪れました)、泣きました💦
一方、歩の母は、日本の生活が便利で快適すぎて、「何やの、これ?」と絶句します。
これまで彼女は、エジプトの市場に出かけると
肉屋で丸ごと一羽の鶏しか売っていないため、
「頭を切り落として!」と肉屋にジェスチャーで交渉していました。
エジプトでは「もっと安くして!」と値切るのが当たり前でした。
しかし日本では何もかも清潔で、苦労がないため
「何やの、これ!日本人、こんなんじゃ、バカになるわ!」
と、(わりとお嬢様気質だったはずの)母は憤ってしまいます。
これは、発展途上国から先進国の日本へと帰ってきた友人達のうち、
数人から「日本の便利さが、ありがたいものの、空しい」と聞いたことがあるので、頷いてしまいました。
そんな私自身は、市場で値切ったこともなく、
(※香港にいた小学生時代、市場に行って、広東語で香港人の店員さん相手に値切る母を見たことはあります。そんな母を「かっこいい」と思っていました)
偉そうなことは言えないのですが…
歩にほ、エジプトという第二の故郷ができて、本当に素晴らしいことだと思います。
《5》松坂桃李さんの朗読が良い
私はこの本を、最初はオーディオブックで聞き始め、後に紙の本を買いました。
松坂桃李さんは、複数の登場人物を、声色を変えて演じ分けていらっしゃり、素晴らしい俳優さんだと思いました。
※あまりにも関西弁が上手なので、出身地を調べましたが、関西のご出身ではなく、私が住む神奈川県出身でした。
東京にエジプト料理屋さんがあるようなので、
食べに行きたいと思っています。
🔴フリーの写真サイトからお借りした、エジプトの写真を貼ります。
美しい建築は、カイロにあるコプト教会です。
この本で初めてコプト教の存在を知り、調べてみました。
ちなみに、この本で私が一番好きな登場人物は、ヤコブです。
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