エッセイ*バナナブレッドとSUSHI丼
先週より気温が4度ほど下がったらしい。
それでも酷暑の東京であったのだから、
28度近くあるのだが、人間というものは秋を感じると暖かいものが食べたくなるものだ。
「ポトフが食べたいかも。」
心の中で独り言を言いながら、スーパーの野菜売り場を物色する。
ここのところは物価上昇が激しく野菜はどれも高い。
おとなしくキャベツだけかごに入れた。
果物などなおさらだ。
ももが先週より100円も高い。
私の最終奥義的ストレス発散アイテム、ももモッツァレラも今年は終わりかと思うと少し残念だ。
こういう時に安心をくれるのがバナナ。
黄色の皮に包まれた、白いあいつは、いつでも裏切らない。
筋トレの次くらいには裏切らない。
バナナと言えば、バナナブレッド。
そのままでも美味しいバナナがワンランク上のスイーツ、時に食事に化けてくれる。
私には忘れられないバナナブレッドがある。
大学生の時分に少しの間アメリカの語学学校へ行ったことがあった。
そこの語学学校ではカフェテリアがあって、そこで軽食を購入することができる。
カプレーゼサンドと並ん私のお気に入りだったのは、バナナブレッドだった。
正気でないくらい砂糖を入れた甘さがスタンダードなアメリカなのに、
このバナナブレッドに関しては素材の美味しさの詰まった素朴な一品であった。
小さな白い紙袋に入れてもらったバナナブレッドを私はよく海辺の芝生の上で食べていた。
その横にはいつもカナダ人の青年がいた。
クラスメイトのその青年とあーでもない、こーでもないと、つたない英語で延々と議論を交わした。ひと夏だけの恋人同士だった。
そうして軽食をとって、海で泳ぐ。
そんな毎日を過ごしていた。
よく彼はセブンイレブンで買った「SUSHI丼」なる弁当を食べていた。
日本人の私から言わせれば、絶対寿司ではない。
カニカマと鮭フレークの2色丼である。
それをぽろぽろとこぼしながらも割りばしで食べる。
「へええ。箸を使えるんだ。」
日本人の私がバナナブレッドをかじり、
カナダ人の彼が箸で弁当を食べる。
不思議な光景。
ここを発てばきっと二度と会うことはないだろうな。
そんなことを思いながら海中で彼の手を握った。
日本に帰国してからも私は沢山恋をしたから、
バナナブレッドを食べたくらいで、彼を思い出したりしない。
だけど今でもあの夏は一生忘れられない宝物。
買い物かごからバナナを戻して、ポトフ用に人参を買って帰った。
-END-
*あとがき
エッセイが好き。食べることが好き。恋愛が好き。
私の3大欲求?を満たしてくれる、食べ物×恋愛のエッセイを書いていこうと思います。
今回は学生時代の思い出。
食いしん坊な私は食べ物で思い出を思い出すことが多い。
文章に書いているとまた食べたくなる。
まだまだ暑いこの時期、冷やしバナナブレッドが食べたくなってきた。