見出し画像

【短編小説】 僕の指を掴むのは。

ああ、居たたまれない。

あからさまに「居ても役に立たない」ことがあるなんて。

追い出された訳じゃないけど、外に出た。

飛び出すように来たから上着を持って出なかった。

シャツの襟をなぶるように風が絡みつく。


ああ、寒い。

日差しはあるけど、急に下がった気温と風で体が冷えて来た。

けどな、戻るのもなぁ。


ピュ~っと僕をなぶりに来た風がシャツの襟に何か隠して行った。

カサっとする何か。

虫は勘弁ね。

指に挟まったのは、もみじの葉っぱ。

地面へ落ちないように、葉の間に僕の指を掴んで来た感じ。

あぁ、秋だねぇ、なんて、しみじみ。


少しだけ湿気を残している、ふんわりとした赤いもみじ。

ふいにスマホが鳴った。

画面に表示された番号と名称を見て、ダッシュした。


「ほんのちょっと、タッチの差!!」

おばちゃん助産師さんが笑いながら手招きしている。

慌てて部屋に入った。

彼女が泣き笑いで、「遅い!!」っと。

彼女に抱っこされた赤ちゃん。

近づいて、ほっぺをちょんっとした。

僕の指を小さな真っ赤な指がキュっと掴んだ。


「名前、考えてくれた?」

彼女に言われて「もみじ」の葉っぱを見せた。

「拾ったの?」

「ううん、何か、掴まれたんだよね。」

「ふぅん。」

「名前さ、『もみじ』が良いかなって。」

「安易じゃない?」

彼女が笑った。

「なんかさ、手みたいじゃない?
 んで、下の小さい葉が送り出してるみたいな。」

「うん。」

「大きくなるまで、小さくっても支えてる、みたいな。」

「ふふっ、どうしたの? 詩人だね。」

彼女は笑った。

彼女の横で『もみじ』な手が、ヒラヒラと舞っている。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集