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何もかも掻き切り、墜ちて行く。 ~ ミュージカル スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 ~

舞台を観に出掛けると公演中や公演予定のチラシを大量に頂くことがありますが、自分は読みかけの本を持参するので、チラシを頂いてもその場で見ないことがあります。

ある舞台の時に頂いたチラシをペラペラと観ていたら、大竹しのぶさんと市村正親さんが共演の当舞台を発見、しかも演出は宮本亜門さん!!!

抽選大会開催時に鼻息荒く参戦し、参戦3回目くらいでチケットをゲット出来ました。

そして先日、ルンルンで池袋の東京建物ブリリアホールへ出掛けました。

ここからはネタバレを含む感想を書いていきます。

観劇予定の方は後日お読み頂けましたら幸いです!

そして、書いてて楽しくなってきたので長くなりました(笑)


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舞台は18世紀末のロンドン。

海で遭難し漂っているところを水兵のアンソニーこと糸川耀士郎さんに救出された、スウィーニー・トッドこと市村正親さん。

糸川さんはロンドンの地に行けることを楽しみにしていますが、命が助かった市村さんはロンドンを激しく憎悪している様子。

ロンドンに知り合いがいない糸川さんは、ロンドンに知見のある様子の市村さんに自分が困った時には訪ねさせて欲しいと頼みますが、市村さんは助けて貰ったことは感謝するが、それとこれとは話が違うと釣れない返事。

ロンドンのフリード街は他人に関心が薄い人が多く、その中で不吉なことばかり口にする乞食女ことマルシアさんは狂人扱いされ特に疎まれています。


実は市村さんは15年前にフリート街で腕の立つ理髪師として、美しい妻と可愛い赤ちゃんと三人で幸せに暮らしていました。

その美しい妻に横恋慕した、悪徳判事ターピンこと上原理生さんに無実の罪を着せられて島流しを食らわされ、15年経った今、脱獄してきたのです。

身バレする訳にはいかないため、元の名前ベンジャミン・バーカーは名乗れず、スウィーニー・トッドと名乗ることを余儀なくされています。


そんな中、かつて理髪店を営業していた場所の1階にある、ロンドンで一番マズいパイを売る昔馴染みの未亡人ミセス・ラヴェットこと大竹しのぶさんに再会します。

妻は判事に凌辱され、夫が島流しに遭ったことを悲観し毒を飲んで狂い死にした。二人の間にいた可愛い女の赤ちゃんジョアンナこと唯月ふうかさんは判事の養女となっていると大竹さんから聞かされます。

怒りに震える市村さんは、判事とその腰巾着である部下のビードルことこがけんさんに復讐を誓います。


大竹さんはこっそり市村さんにラヴなため、一緒にいられることが嬉しくて仕方ありません。

二人で街のお祭りに出掛けて、ひょんなことから怪しい毛生え薬を売る散髪屋と髭剃り&抜歯対決をすることになりました。

散髪屋はちょっと抜けた孤児のトバイアスこと武田真治さんを雑に使いっ走りにしており、武田さんはとにかく言いなり。

たまたま通りかかったこがけんさんがこの対決のジャッジをすることになり、髭剃り対決は当たり前に腕の良い市村さん勝利。

抜歯対決は腕の良い市村さんには手を上げる街の人がいますが、腕の悪い散髪屋には手を上げる人はおらず、武田さんが無理やり歯を抜かれます。

これもスッポン!!っとスムーズ且つ痛みを与えず抜歯を終えた市村さんの勝利。

この勝利により散髪屋は市村さんに5ポンド支払う憂き目に。

これがきっかけで腰巾着のこがけんさんと市村さんは接点を持てました。


腕の良い市村さんは以前の場所、大竹さんのパイの店の二階で理髪店を再開します。

お店に例の散髪屋がやってきます。

市村さんに「お前はベンジャミン・バーカーだな。俺はお前が島流しに遭う前に数日間だけ理髪店で下働きをしていたから分かるぞ。素性をバラされたくなかったら、こないだの5ポンドの返金と、お前の理髪店の週の売り上げの半分を自分によこせ!」と迫って来るのです。

復讐を前に素性をバラされる訳には行かない市村さん。

切れ味鋭いカミソリで散髪屋の喉を切り裂きます。

市村さんが狂ったのかと大竹さんは惨状に慄きますが、市村さんから訳を聞くや否やすっかり納得、惚れた弱みもあり打ち明けられた復讐劇にもやる気マンマンで加勢宣言。

これをきっかけに店に来る客は喉を掻き切られては、理髪店の下の大竹さんの店で「ミートパイ」の原料となっていきます。

今までのロンドン1のマズイ店は「ミートパイ」の美味しいお店に成り上がり、大竹さんの店は大繁盛。孤児の武田さんは大竹さんに拾われて一生懸命に店で働きます。


水兵の糸川さんは悪徳判事の邸宅を通りかかった際に、幽閉されている養女の唯月さんの美しさに一目惚れ。

唯月さんも糸川さんにホの字となり、あれよあれよで二人は恋仲に発展。

糸川さんは市村さんの店を訪ねて来て、美しい娘に一目惚れし、幽閉された悲しい身の上から救い出し、自分の故郷に連れて行くつもりだと浮かれながら話します。

この計画に市村さんは一枚噛むことにして、可愛い唯月さんを助け出すことにひと肌脱ぎます。

ところがこの計画が悪徳判事の耳に入り、美しい唯月さんにスケベ心を寄せていたこともあり、逆上した判事は「自分と唯月さんが結婚」すべく、唯月さんを秘密の場所に隠してしまいます。

この頃から、乞食女のマルシアさんは街に怪しい気配が漂っている、夜の街は臭って仕方がない、おかしいおかしいと触れ回り始めます。


ある日。

孤児の武田さんは美味しいパイの作り方を知りたいと大竹さんにしつこく迫って来るため、根負けした大竹さんが店の地下の肉のミンチの機械やパイ釜の使い方を教えてあげます。

すると、腰巾着のこがけんさんは街の衛生管理も担当しており、乞食女が言うように確かに街に漂うこの臭いの元が大竹さんのお店から発せられていると思われるため、調理場を見せろと店にやってきます。

店を見られる訳にいかない大竹さんは、何のかんのと理由を並べてのらりくらり。

みんながバタバタする中、乞食女のマルシアさんが理髪店に忍び込みウロウロしていると、外から戻って来た市村さんに見つかります。

市村さんはマルシアさんから「何だかあんたを以前から知っている気がする」と言い寄られます。怒った市村さんが出て行くように言いますが、しつこく見たことがあると言い続けるマルシアさんの喉を掻き切る市村さん。

この勢いで体よく腰巾着を理髪店におびき寄せることに成功した市村さんは、復讐の思いを遂げます。

上階から地下へどんどん死体が落ちて来る状況に武田さんがおかしくなり始めます。


水兵さんは愛しい唯月さんをどうにか救い出します。

一時避難として唯月さんを理髪店に匿って貰うことにして、水兵さんは街を脱出するための馬車を探しに出て行きます。

そこへ理髪店に戻って来た市村さん。

唯月さんが自分の娘とは知らず、一部始終を知られたと思った市村さんは「誰だお前は!!」っと、興奮状態で喉を切り裂こうとしますが、寸でのところで唯月さんは逃げ出します。

何も知らずに唯月さんを追ってきた悪徳判事。

ここぞとばかりに市村さんは悪徳判事の喉にカミソリを引きました。


復讐をやり遂げた満足感でいっぱいの市村さんは地下に降りて行きます。

転がっている乞食女のマルシアさんには可哀そうなことをした・・と思い、その体を抱えてみると、あれ?何だか・・??

まさか!! 妻ではありませんか!!

余りの変わりように気が付けなかったのです。

市村さんは大竹さんに妻が生きているのに何で教えない!!と食ってかかります。

大竹さんは「悪徳判事に好きなようにされて頭がおかしくなった女が妻だなんて、あなたが可哀そうだから言えなかった。でも、復讐はやり遂げられたし、頭がおかしい状態からも脱してあげられたから良かったじゃないの。」と豪快な言い訳をします。

市村さんも「まあ、そうだな・・」と納得したフリをして油断させ、燃え盛るパイ釜へ大竹さんを投げ入れるのでした。

そこへ地下のゴミ穴に隠れていた武田さんが、ひょっこり出て来ます。

「なんだお前か・・」と放心している市村さん。

実は大竹さんにホの字だった武田さんは、場を察して市村さんの喉にカミソリを引くのでした。。



前半は復讐の舞台が整うまでの過程で、若い二人の恋物語、大竹さんのちょっとした新婚妻的立ち位置のルンルン具合など、悲惨な中でふんわりと幸せな時間が流れていました。

ですが後半は一変して、思いがけず復讐の舞台が整いまくる怒涛のスプラッタホラー状態。

善人で幸せに暮らしていたはずの人間が、一気にダークサイドに墜ちて行きます。

「誰が悪い」といった「悪人」はハッキリしているのですが、善人も「復讐」という目的のために見境が無くなっていっていく様は悲しいものがあります。

市村さんの復讐の鬼っぷり、大竹さんも感化され、「店の繁盛」も相成って見境が無くなっていきます。

悲しいことは、狂っていた乞食女のマルシアさんが、一番本質を見抜いていたということ。

確かに行動としては物乞いをしつつ男には直球な色目を使うなど道徳に反した挙動がありますが、「街がおかしい」と言い続けている点は、悪徳判事や部下の違法行為を、そしてパイ店や理髪店の繁盛の理由を指していたと思われます。


悪い人間に復讐を遂げる、そして取り戻せたはずの幸せを、その復讐を遂げる過程で全て壊してしまう。

壊してしまったけど、自分がいない間に育っていた大事な人たちだけは、せめて。。



悲惨なラストまで畳みかけるような物語でしたが、そこはミュージカル。

群舞や合唱シーンは大迫力。

生のオーケストラが入っているので、歌唱シーンや情景を表すようなシーンには音楽が寄り添っているような感じがしましたし、舞台装置も生きているように、一緒に怒ったり泣いたりしているように見えました。

市村さん、大竹さんをはじめとした演者の皆さんの、抑える部分とやり過ぎるべきな部分のはっちゃけ具合は見応え満点でした。

悪徳判事と腰巾着は石を投げつけたくなるほど腹立たしく、若い二人や大竹さん、武田さんのいじらしいラヴな思いにはグっと来るものがありました。

そして市村さんの静かな怒り、大爆発な怒りのアップダウンも最高で、生のオーケストラの音に波乗りしているような、倍加した激しい怒りを感じました。

思いを遂げているシーンの市村さんと大竹さんの生き生きっぷりが素晴らしかったです。


カーテンコールでは、ラテンのノリのマルシアさんが場をナイスに盛り上げてくれました。

もちろん観客側もスタンディングオベーション!

大竹さんが市村さんの喉を切るような仕草に、市村さんが舌をベローンと出しながら袖に去って行かれたのは、とってもお茶目でした☆


演出の素晴らしさもあり、あっという間の約3時間でした。

チケットチャンスがありましたら、ぜひ足をお運びください!!

Wキャストの方もおられました。
自分の観劇した日のキャストの皆さん。


もし、この物語が和ものだったら、主題歌はこちらがぴったりかと!

問題無ぁ~い♪


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