昭和だけど、いまの孤独問題に通ず。 ~ 舞台 三婆 ~
高校生の頃。
授業が終わると必死に自転車を漕いで帰ったどうしても見たいドラマがありました。
何回目の再放送か分からないほど、当時でも古かったドラマ。
その名は「ありがとう」。
自分の記事をお読み下さる慈悲深い方々にはお馴染みの、ご存じ「水前寺チータ清子」が主演の一連のドラマです。
チータが「婦警さん」「看護婦さん」「魚屋さん」に扮したシリーズで、石坂浩二さんとちちくりあうのです(書き方)。
相良直美さんが主演を務めているバージョンもありますが、自分は専らチータ推しでした。
帰宅に間に合わない時はVHSビデオ録画をし、夕飯時に家族の大顰蹙を買っても完全スルーで楽しみに見ていました。
そんなに好きだったくせに記憶がややあやふやですが、一方的な思い込みでチータと恋のさや当てをしていた方に波乃久里子さんがおられました。
チータと石坂さんがイイ雰囲気になると、レースのハンカティーフを食い千切らんばかりに物陰で勝手にキレている、そんな役。(どんな)
面白いわぁと記憶しておりました。
そして、大人になりDVDを買えるようになり、テレビの再放送もされず、レンタルビデオ店にも置いていないため購入したテレビ東京で放映されていた「日本怪談劇場」。
このシリーズは水戸黄門どころじゃない勧善懲悪で、悪いことをすると確実に相応以上の罰が当たります。
血吹雪とか震えあがるほどに。
その一遍になみくり(高校当時からの心の中の呼び方を披露)は「番町皿屋敷」のお菊さんとして出演されておられました。
「ありがとう」とは全く違うシリアスなお話で、ご存じだと思いますが、お菊のなみくりはそれはそれは非業の死を遂げるのですが、壮絶な中に悲壮な美しさがあり、記憶に焼き付いております。
この「日本怪談劇場」のDVDを兄に貸したのですが「いたたまれない」と全4巻の内の1篇しか視聴出来なかったそうで、そんなドラマがやっていた時代だったんですねぇ。
わがままの過ぎる、いたずら好きなお子さまに見せたら、トラウマ必死の凄い断末魔が展開するので、先に下見をオススメ致します。(やめとけ)
そのなみくりの舞台を一度見てみたいと思っていたのですが、チケットサイトからのメールでこちらの舞台の案内が届きました。
まさかの水谷八重子さんと渡辺えりさんと共演。
先週、千恵子先生を拝顔しましたが、元祖(二代目ですが)まで観劇出来るなんて!!
これは観ないと確実に後悔して、歯ぎしりし過ぎて歯が欠けると思いポチっとな。
なみくりへの熱い思い、本題までが随分と長くなりました。
ここからも長いかもしれませんので、これから舞台を観劇される予定のある方も、休憩を入れたり後日お読み頂けました幸いです♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
舞台は昭和38年の初夏。
金融業者の社長が愛人宅で急死します。
この愛人が水商売をしている駒代こと水谷八重子さん。
社長の部下の重助さんこと田口守さんは水谷さんの家で、お葬式や会社のことで奔走しています。
そこに社長の妹のタキこと渡辺えりさんが乗り込んで来ます。
渡辺さんは建前では身体が弱いことになっていますが、憔悴し食欲の無い水谷さんに比べてパンやお茶をしっかり頂きつつ、兄の急逝を嘆きます。
さらに畳みかけるように本妻の松子ことなみくりも乗り込んで来ます。
お葬式は水谷さんが負担をして水谷さん宅で執り行うつもりでしたが、なみくりは体面が悪いと大激怒。
水谷さんは田口さんのせいにして、「やっぱり本宅でやるべきですよね、わたしも田口さんに懇々と言っていたところです」と調子の良さを見せます。
贅沢な暮らしを各々していましたが、社長が急逝すると会社の信頼は失墜してしまい、借入していた取引先から返せ返せの厳しい取立が始まります。
渡辺さんの分家を売り、なみくりの本家の一部も売却することでどうにか返済を完了させて、なみくりはひと安心。
社長が愛人を囲って30年間、本宅と別宅を半々で行き来されていたことでイライラしていた生活からせいせいします。おまけになみくりが土地建物を相続出来る本妻の立場は、法律が味方してくれるのでこちらにもニンマリ。
子どももいないため、これからのんびりとやっていこう・・。
そんなところに、家を売られて住むところが無くなり、田口さんに手配して貰ったアパート暮らしは絶対イヤな渡辺さんが転がり込んで来ます。
わがまま放題の渡辺さんを追い出せ!!っと、田口さんやお手伝いのお花ちゃんこと鴫原桂さんに命令しますが、図太い渡辺さんは意に介さず居座ります。
すると新橋で小料理屋を開店する予定なので、それまで置いて欲しいと水谷さんまで一応「ひと月」の約束で居候を決め込みます。
実はお手伝いのお花ちゃんも「こんな良い子は養子にして迎えたい」と、事あるごとになみくりに言われていたため、割と乗り気。
なみくりは社長の愛人問題、子どもがいない問題以外は好きに生活していたので、気に食わない面々にイライラが止まりません。しかし、渡辺さんや水谷さんは何だかんだ言っては居候の期間をどんどん伸ばして行きます。
さらに水谷さんの小料理屋で働く予定の女中さんが、水谷さんの部屋に転がり込み、植木屋さんがオススメの「養子候補」の若夫婦が部屋を借りようと訪れますが、ここでなみくりのフリをした渡辺さんが家賃敷金をかすめ取っていい加減に話を進めたり・・。
そんな1年が経過するところで、なみくりの堪忍袋の緒がブチ切れ、「みんな出て行けーーー!!!」っとなり、未練たらたらながらみんな出て行く算段をします。
最後の晩餐の日。
みんなが実際に出て行くとなると、子どものいないなみくりは一人ぼっちになってしまいます。
さて、なみくり、どうする??
まさかの休憩2回の3部体制でしたが、この3部が20年後の場面。
15分という短い時間の中で、芸達者すぎるお三方に笑い泣きでした。
熟成しきった円熟な舞台で、暗転する度にお約束の拍手が巻き起こりますし、観覧席のこちら側もけっこう熟成している年齢層でしたから、自虐のような場面には毒蝮三太夫、きみまろ的な爆笑が起こりました。
ある意味、吉本新喜劇のお上品版といった感じでしょうか。
いつも観劇はひとりですが、今回はいつも以上に誰かと感想を分かち合いたいと思い、しかし願い叶わずだよなぁと思っていました。
ところが、終演となっても持参のお茶を飲んでゆっくりしていたところ、隣の60~70代と思われるご婦人に「お若いのにおひとりでいらしたんですか?」と話しかけて頂けました♪
「お若いのに」に「そんなにお若くないんですよ(笑)」と過剰反応しつつ、上記の高校生エピソードを語りました。
「あら、相当古いドラマですよね、よくご存じですね、お若いのに」と自分に畳みかけて下さりつつ、ご婦人は「身につまされるお話で泣けて来ちゃった」と。
「元気に過ごせていけたら良いですよね、年齢は順番ですし。(ご婦人に若いと言われ続けましたが自分もいつか)」とお返事しました。
会場の外でご婦人とお別れしましたが、短時間でも感想を語り合えてとても嬉しく楽しかったです。
こちらの舞台は以前に「渡辺えりさん、大竹しのぶさん、キムラ緑子さん」のバージョンもあったようです。
こちらも相当見応えがあったと思いますが、今回の円熟具合には到達出来ないのかも、と思ったり。
会場の三越劇場はとてもこじんまりとしていましたが、天井にステンドグラスがはまっていたり意匠をこらしていてさすがの三越、それはそれはお上品でした。そしてフロアが妙に奥まった位置にあるので、慌てず騒がずフロア案内図のご確認をお願いします。(何の手先?)
実年齢は水谷さんが80代中盤、なみくりが70代後半、渡辺さんが60代後半と一番の若手が渡辺さんという凄い舞台。
THE昭和。
ちょっとしたシーンも注釈のようなセリフが入り、観劇しやすいです(笑)
お茶目な「三婆」を見に、ぜひ足をお運びください!