禁断の味が心に甦るのだ
元来、美食とは縁がなく美味いもの巡りなどもしたことがない。すぐに手に入るジャンクフードがあれば事足りるといった、良くも悪くもこだわりのない食生活をしていた身ではあったが、食生活の変わった今になっても、思いがけない時に、かつて食べていたモノの味わいがふと懐かしく甦ってくることがある。食べ物の嗜好というより、私の場合は、別領域に属する食い意地によるものだろう。
ビッグマックの話である。仕事場の近くにマクドナルドがあったことも幸い(禍い?)して、以前は、週に一度はビッグマックとコーヒーを手にしていた。けれど、糖尿病が発覚してからというもの、マックの扉を開けることはしなくなった(今は仕事場もなくなって生活の周辺からマックの気配が消えた)。もう一年近くになるか…。それでなくても発覚当初は血糖値安定に一意専心、マックはもう行ってはいけないところなのだと、あっさり心の中から追い出してさしたる痛痒も感ずることなく、そんなもんだと糖尿病暮らし(?)を続けていた。
その間、糖尿病、ダイエット、食事療法、低糖質、低炭水化物…などと思いつくまま検索して、より小さなストレスで血糖値を安定させることができる食事を模索していたわけだが、時折は、低炭水化物ダイエットの代名詞、ケトジェニック、ketogenic diet、keto-friendlyなどと打ち込んで少し英語のサイトを覗いたりもしていた。さすがアメリカ、レシピは百花繚乱といった状況(アメリカの皆さんはポジティブ)で賑やか。低炭水化物ダイエットでは血糖値的に問題視されることの多い白米との組み合わせを連想させるメニューはほとんどない。アメリカのサイトだから当たり前だが、そもそもレシピにご飯のおかずという前提がない。パンを止めて素焼きアーモンドに変える、などとあったりする。そのあたりのことに取り立てて違和感はないのだが、チーズたっぷり、バターたっぷりという調理法が多くて、私などには初めから論外に見えるレシピも少なくない。一方で、彩り豊かで簡単、私にもやれそう、と思えるものもまたちらほらと散見された。
そんな風にしてketo-friendlyなレシピを覗いていたわけだが、先日「Big Mac Sauce」という表題があるのに気がついてしまった。えッ? ビッグマックのソース⁈それがketo-friendly、糖尿病でも安心な低糖質でいけるワケ⁈ホント?ホントにいいの?と微かな罪悪感のようなものを含んだ嬉しい発見に驚く。と同時に、そこまでして人はビッグマックが食いたいものか!という思いが浮かんでいささか複雑な感慨にも浸ってしまった。やはり、アメリカ人の食生活でマックは欠かせないものなのか。どんな状況でも、あの手この手で、あの味、あるいはそれに近いものをなんとか再現して、また味わいたいと思うものなのか。
…と、語る私にしてからが、巨大ジャンクフードカンパニーによって飼い慣らされてしまった(多くの)アメリカの人たち同様、こういう時だけアメリカ人並みに、大いに心を動かされてしまった次第。糖質を気にせずにあのビッグマック(に近い味)をまた楽しめるのか、もしかして。さらに検索を進めると、なんと、「Keto Big Macs」とビッグマックそのものを丸ごと再現しようというレシピもあるではないか!思わず興奮するというものだ。
まだ作っていないのでこれらのレシピがどれほどオリジナルの味を再現しているのかは分からない。でも、頑張ってやってみる価値はあるではないか…と、すでに昔のビッグマックファンに戻っている。近日トライします。
あっさりと捨てたはずの禁断の味が心に甦ってくる。これだからネット検索はやめられない。
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