トラップファミリーは、アメリカ・バーモント州に眠る
ミュージカル映画が好きだ。
小学生のころ、「ウェスト・サイド・ストーリー」や「メアリー・ポピンズ」などのクラシカル作品がテレビ放映されるたびに、母が録画して家族団欒タイムに観ていた。
ミュージカルを観ると、なぜか気分がスカッとする。幸福感や高揚感はもちろん、現実には心の内に抑え込むような、憤りや猜疑心、寂しさなどのネガティブな感情も全力全開で表現してくれるので、いつの間にかどっぷり感情移入して、それが感情のデトックスにつながるのかもしれない。
なかでも「サウンド・オブ・ミュージック」にはとりわけ夢中になり、歌詞をそらんじられるくらいには観た。音楽が素晴らしいのはもちろん、主役のマリア(ジュリー・アンドリュース)から放たれる突き抜けた歌声と高揚感に、子供ながら圧倒されたのを憶えている。
物語のラストシーンで、トラップファミリーはナチスから逃れるためアルプス山脈を越えている。おそらくスイス辺りで幸せに暮らしたのだろうというイメージを抱いていた。ところがボストン滞在中、トラップファミリーの終の棲家がバーモント州にあると知った。しかも一家の運営するロッジ(山小屋風の宿泊施設)が今も健在で、ブルワリーも併設されているという。これは行かなくちゃ。
バーモント州への一泊旅行は決行された
昨年9月、ボストンのあるマサチューセッツ州から、バーモント州のストウに向かった。車で3時間超ほどの距離。
9月といえばボストンもまだ残暑の厳しい季節。だけどバーモント州に到着して車から降りると、すでに空気がひんやりして涼しい。高い山々に囲まれる地域の気候だ。
トラップファミリーはアメリカに渡った後、しばらくフィラデルフィアに住んでいたようだ。でもコンサートツアーでストウを訪れた際、ここへの定住を決めたという。「祖国オーストリアを思い起こさせてくれる」という理由で。
Trapp Family Lodge(トラップファミリーロッジ)の外観はこちら。なんと敷地は2600エーカー(ちなみに1エーカーは約4047㎡。東京ドームは46,755m² )にわたり、クロスカントリースキーやマウンテンバイクのコースなどもある一大リゾート拠点になっている。
映画では7人の子供たちが登場するが、トラップ少佐とマリアはその後3人の子供をもうけ、最終的に10人兄弟になった。今は10番目の子供であるヨハネスさんがその息子さんとともにロッジを経営している。
予算オーバーにつき宿泊は見送ったが、ロッジ敷地内にあるブルワリーの併設レストランVON TRAPP BREWING BIERHALL RESTAURANT(ビアホールという響きがまたヨーロッパっぽい)で昼食をとることにした。静かな山間で頂くラガー系ビールもハンバーガーも格別だった。
"A Little of Austria...A Lot of Vermont"
というキャッチコピーを掲げているビアホール。オーストリアには行ったことがないのでわからないけれど、どちらかといえばアルプステイストを感じさせるお店。
少し散策しているとロッジの庭の片隅にいくつかのお墓がひっそりと寄り添うように建っているのに気付いた。かわいらしい花が手向けられている。トラップファミリーの墓地だとすぐに分かった。
末息子のヨハネスさんがCNN travel のインタビューでロッジを改装したときの話をしている。
「古いロッジの時、母マリアは、家族の墓の見えるバルコニーに座って午後の時間を過ごすのが好きでした。だから新しいロッジを建てるとき、その場所を再現したかったんです」と話していた。
お墓なので写真は撮らなかったが、ゆったり柔らかい風に包まれた、とても穏やかな場所だった。肩を寄せ合って眠るファミリーの姿がまぶたに浮かぶ。お腹も胸もいっぱいになった私達はストウを後にした。
☆おまけ☆
ちなみにバーモント州には、チャンキーなアイスクリームで人気のベン&ジェリーの本社もある。
随所にユーモアが溢れている。極めつけは生産中止になったフレーバー各種の墓地。
参考資料