設計事務所が考える宿泊
お客様に提案する前にアイデアを出し検証している。そのためには自ら運営する事で常に改善と新しいチェレンジをする事ができる。そしてその中で一番いいものを提案する。
◾️ゲストハウス建築のコンセプト◾️
旅をすることは人生を見つめ直すことに繋がる。新しい何かに出会う。そこには発見があり、自己との対峙である。旅によって新たに出会った空間は記憶として印象付けられ、空間をシーンとして切り取ることで記録として残る。そして印象的なシーンの連続が地図として立体的に表現されていく時に初めて全体としてその場所の風土を感じることができる。
ヤナギマチの歴史はというと上町や磯庭園などの上級武士の住むエリアの近くであり、上町の山手側には上山城があったとされる歴史的地域である。大正時代から昭和初期ではJR鹿児島駅が鹿児島の玄関口であった。現在ではJR鹿児島中央駅が文字通りのセントラルステーションでありJR鹿児島駅は小さな駅の一つとなっているが、当時は交通の要所であった。上町エリア、磯エリア、天文館エリアの中心であり様々な人や物が往来していた事だろう。
ヤナギマチには商売人が集まる商店街の長屋(ナガヤ)があった。『guesthouse建築』の前面には小坂通りという大通りに接続する道路がある。この小坂通りからはその長屋の風景を感じられないかもしれない。それは都市計画によって道路網という交通システムが張り巡らされて都市が画一化した事によると思われる。
そしてこの『guesthouse建築』は近代建築の象徴である鉄筋コンクリート造であるが、建物中心が長屋への入り口に位置している。その一歩裏の通りには木造2階建ての長屋が連なっており、かつての賑やかさや人々の往来を感じられる様な空間がアーケードとして残っている。もしかするとここが唯一のかつてのセントラルステーションであった頃の鹿児島駅の繁栄を記憶しているのではないかと感じる。長屋の良さは地域の関係性にあると思う。しかし、かつてのような長屋の活用はなくなり、1階部分はシャッターが締まった住宅または空き家となっている。そしていつしかネコも多く住みつくようになっており、古い街並みに老人とネコのいる空間になった。都市化によって『空間の歪み』が生じ、ノスタルジーとオリジナリティーが作り出されたとも言えるだろう。
建築には想像を促す仕掛けを作り出すことができる。想像することでいいと思う、かつての繁栄を取り戻す事は必要とは思わない。今の現状をいかに楽しむか、想像してその場の風土を感じることができるか。地域と人との関わりを想像する事。地域性を意識することが自己と向き合うきっかけになる。そんな事を追求するゲストハウスである。
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