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「歌うように」演奏するためには(その1)

Twitter(現X)で『「もっと歌って!」と言われても歌って聴かせることは難しい』といった話が盛り上がっているのを目にしました。

そちらで盛り上がっていることに触れる気はありませんが、僕自身が「歌う」とは何か、そうした演奏をしてもらうためにレッスンでどのように伝えているかを書いてみたいと思います。

ちなみに、どうでもいいですがXっていつまでたっても慣れなくて、未だツイッターって言ってます。


「歌う」とは何か

僕はレッスンで質問をよくします。特に音大生にはたくさん質問します。知識の確認をする時もあるし、「どう考えようか?」と一緒にひとつのポイントについてディスカッションしたり答えに辿り着けるように誘導したり、考えるプロセスやその大切さを学んでもらったりと目的はいろいろです。
例えば楽語の意味など知識に関する質問は最初の頃は答えらない学生が多いのですが、学年が上がるにつれて、多分「どうせまた聞かれるんだから先に調べておこう」としてくれる学生が増えます(狙い通り)。本当は入学前に楽語は一通り覚えているはずなんですけどね。おかしいなあ。

楽譜に「cantabile(カンタービレ)」という楽語がよく出てきます。主に「歌うように」という意味で訳されることが多いのですが、この楽語がレッスンで出てきたら「歌うってどういうことなんだろうね?」と、やはり質問します。

さてみなさんだったらどう考えますか?

「歌うように」は主に器楽に用いられる言葉ですが、「歌」というワードがあまりに日常的な言葉すぎて想像するのが難しい人が多いようです。

視点の切り替えをする

まず演奏表現に関して考える際に絶対にしてほしいことは「視点の切り替え」です。強弱記号もアーティキュレーションも何でもそうですが、必ず『聴く人に伝わるには』という客観的な視点で考えることが大切です。
表現を主観で考えると答えに辿り着きにくいだけでなく、発信力が弱くなったり説得力のない自己満足の演奏になりがちで、中でも重要なポイントとして多くの人に共感してもらえるか、という「その考えはマジョリティであるか」を忘れがちになります。学習する人はまずマジョリティを知るところから入るべき、と僕は考えています。

根幹の部分を考える

物事を考える際に最も核になる部分や、揺るがない根幹部分の定義などを理解して、そこから考えてることが大切です。SNSなどでは、そこかしこで口論をしています。こうなってしまう理由は論点がブレているからです。言い争っている人たちの発言を見ると、確かに話題は同じですが視点が全然違うのがわかります。

そんな状態で論争したって結論は出ません。なので、今回の「歌う」についても、まずここから考えてみましょう。

そもそも「歌」とは何か

根幹の部分を見つけるためのキーワード「そもそも」を用いることが多いです。今回も「そもそも歌とは何か」まず考えてみます。

歌は人間の声から生まれたものです。
そして人は発声、発音ができる器官を持っています。しかも高さ(ピッチ)や音量、持続の調整が自在にできる秀逸な構造で、それを聞き取る聴力も理解する脳も他の動物よりも発達しました。
ずっとずーーーーっと歴史を遡って、まだ西洋音楽の存在など全然なかった時代から、人は鳥や動物の鳴き声を模倣したり、風の音や雨垂れのリズムを感じたり、何となく心地よいときに「フン、フン」と鼻歌が出てきたり、反復される単調な作業をしている時の会話に音の高さを用いて「歌のようなもの」が生み出されるのは想像できます。
当然作曲なんてものではない、なんとなく生まれたメロディ「のようなもの」の存在。これが民謡や作業歌に発展していったのではないでしょうか(仮説)。

真逆を考える

表現をする上で考えているテーマの真逆はどういうものか、どういった状況かを考えると答えが見えることがあります。
では今回の「歌うように」の真逆は何でしょう。「無機質」「心がない」「感情がない」「機械的(人間味がない)」。連想していくとこんな言葉が出てきました。聴く人がこうした機械的だ、人間味がない、と思う演奏とはどんなものかイメージしてみてください。

正確すぎる、テンポが均一すぎる、隙がない、リズムの融通がきかない、全部同じ音圧、音量、計算されつくした(プログラムされた)、何度でも同じことが繰り返せる。管楽器の世界では「棒読み」ならぬ「棒吹き」という造語が使われることもあります。

これが「歌う」とは真逆のものであると考えれば、何だか少し見えてきた感じしませんか?


いかがでしょうか。「歌う」とはどういうことか、今回まずは根底の部分や物事の考え方について書いてみました。
明日か明後日かわかりませんが近いうちにこの続きを掲載したいと思いますので、ぜひご覧ください!


荻原明(おぎわらあきら)

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荻原明(おぎわらあきら):トランペット
荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。