“砂糖は嫌いだが甘さは好き”-ワガママな日本人消費者の好みにどう対応するか
By 钱 俞颖, 2025.01.21
前回の記事で少しローカライゼーションについて話しましたが、今回の記事はそのローカライゼーションに焦点を当てています。
前回記事はこちら
日本人の方は、海外旅行をする際にまたは輸入食品を手にした際に、甘すぎると感じたことはないでしょうか?
本稿の記事は、飲食品産業に従事する中国人ビジネスパーソン向けに執筆したものになるのですが、中国人アナリストが日本市場の甘さに関する嗜好をどのように分析しているのかを理解することは、日本の飲料ブランド・飲食産業の方にとっても中国市場との違いを知る上で、何か気付きに繋がるのではないかと考え、日本語版をシェアすることにさせていただきました。ちなみに、執筆中にお米の甘みについて議論しましたが中国人スタッフは、その甘さを理解できず、しばらく噛むと、少し甘さを感じるといった日本人の話は伝わりませんでした。
以下、本文になります。お楽しみいただければと思います。
日本市場の無糖飲料の市場浸透率は中国市場の10倍
日本に行ったことがある外国人なら、自国のお店と比べて、日本のコンビニや自動販売機に無糖や低糖の飲み物が溢れていることに気づくことになる。日本人との会食では、飲酒を除けば、ほとんどの日本人男性は無糖の飲み物を選ぶ傾向がある。日本の砂糖入り飲料の市場シェアは、1980年以降減少し続けている一方で、無糖飲料の市場シェアは1980年の1%から2022年には54%へと急速に成長している。(参考までに比較すると中国における無糖飲料の市場シェアはわずか5%程度である。)
アメリカ農務省(USDA)が2024年に発表した世界の砂糖消費量に関する報告書によると、日本の年間砂糖摂取量は1人当たり約14kg、中国は日本をわずかに上回る約16kg、欧州と米国は日本の 2〜3倍となっている。多くの日本人読者も感じておられるように、日本人の砂糖摂取量はほとんどの国よりも低いと結論づけることができる。(それでも14kgと言われるととてつもない量に感じられるのだが。)
しかし、これは日本人が甘い食べ物・スイーツを好まないということでは全くない。 LINE Yahooが2024年に実施した15~64歳の日本人を対象としたスイーツに関する調査によると、日本人の90%以上がスイーツが好きと回答した。予想通りかもしれないが、Yesと答えた回答者の中では、男性よりも女性の割合が高く、10~30歳の若者の方が60代の中高年よりもスイーツを好むという結果が出た。
海外旅行などをしていると感じられると思うが、それぞれ国によって消費者の味覚は異なる。そして、それはその国の食文化と密接に関係している。私が上海で出会った日本人の多くは、上海料理や中国のミルクティー、デザートは甘すぎると言っていた。(上海料理については私も甘いと思う。)近年、Hey Teaなどの多くの中国の茶飲料ブランドが海外に進出しており、日本の消費者の嗜好を理解することが対日輸出向け商品の開発となって重要となっている。この記事では、中国の茶飲料を日本に輸出する際に、どのようにローカライズするかについてのヒントを与えられるように、日本のスイーツ・飲料市場についての私見を綴ろうと思う。
日本人は甘味に非常に敏感であり、60%以上の日本人は、“ほんのり甘い”食べ物を好む
それぞれの国の人々によって「甘さ」に対する認識は異なる。オックスフォード大学の研究によると、日本人は甘味に対して特に敏感で、糖類などを大量に摂取しなくても甘味を感じられるということだ。これは日本人が子供の頃から微かに甘い味(米やみりんなど)に慣れ親しんできたことと関係があり、古代から現代の日本人の食生活にも同様の食習慣が受け継がれている。一方で、日本のメディアは長年にわたり糖尿病予防を推進し、「砂糖を摂りすぎると糖尿病になりやすい」という健康意識の種を日本人の心に植え付けてきた。
では、日本人は砂糖に対してどの程度敏感なのだろうか?飲食業界が実施した調査によると、中国人の約10%がブラックコーヒーを選ぶという、一方で、日本では、オンライン調査によると、63.5%以上の人がブラックコーヒーと無糖のお茶を選ぶことがわかった。
「砂糖・糖分の摂取に関して、最も気を付けていることは何ですか?」というアンケートでは、「糖分の少ない商品を選ぶ」を選んだ回答者が全体の39.9%であった。次いで「砂糖・砂糖分の多い食品・飲料を避ける」(26.3%)、「食品・飲料に一定量の砂糖・砂糖が添加されるのを避ける」(21.6%)となった。日本の無糖派は中国よりはるかに多いことがわかる。
また、別の調査において、多くの方が人工甘味料に関する安全性を正確に理解していないこともあり、人工甘味料を好まないと回答したことは注目に値する。では、日本人にとって「低糖質・ほんのり甘い」食べ物とはどのような食べ物なのだろうか?それは、例えば、杏仁豆腐、ギリシャヨーグルト、パイナップルケーキ、そして以下に挙げる果物といった、それぞれ自然な甘みが含まれたものが該当するだろう。
外国企業は日本の消費者の甘味嗜好にどう適応すべきか?製品をローカライズするにはどうすればいいか?
1. 天然素材の自然な甘さを活用
日本人の消費者は甘いものは体に悪いという感覚を持っている、一方で甘いものは嫌いではない。要は、甘みは取りたいが砂糖は取りたくないのである。それを理解した上で商品をローカライズしていくことが重要でろう。そこで、日本では、砂糖の量を減らした上で甘さを維持するために、自然の素材の甘みに焦点を当て商品を開発するケースがある。小豆、黒ゴマ、栗などの原料に含まれる天然の糖分はほんのりと甘く、日本人の目から見ると健康的で糖尿病の原因にもならず、美容にもよいとされている。これらは日本人にとって馴染み深い食材であり、日本のデザートにもよく登場している。(小豆などの場合は砂糖が多く添加されていることもあるが。)通常砂糖を多く使用する和菓子屋でさえも、自然の豆の甘さを引き立て、砂糖の使用量を制限する和菓子を開発し始めている。
日本茶そのものの自然な甘さを商品解決に生かしているケースもある。例えば、日本のスターバックスで長く消費者に親しまれているほうじ茶ラテは、その例に当たるであろう。ほうじ茶ラテは、「優しい甘いお茶」と評されている。そのほろ苦さは控えめであるが、同時に豊かな甘い香りが漂う。さっぱりとしていて飲みやすく、とてもリラックスした気分にさせてくれる。通常のほうじ茶ラテには、シロップが入っているが、日本のカスタマーの中には、ほうじ茶そのもののほのかな甘さを楽しむためにシロップ抜きを好む人もいる。
そして、果物も自然の甘味の優れた供給源であると言えよう。日本の果物は平均して中国の果物よりも甘いので、日本人の甘いものへの欲求を満たすために追加のシロップや人工甘味料は必要ないと考えられる。果物の栽培に関しては、日本人は「職人精神」を存分に発揮してきており、イチゴだけでもそのブランドは、250種類以上ある。下の写真からもわかるように、日本には非常に甘いイチゴの品種がいくつかあるので、そういった糖度の高いイチゴは商品開発に活かせる可能性がある。ただ問題として、日本の果物は非常に高価で、卸売価格は中国の約10倍であることに、外国企業は留意しなければならない。
2.苦味や酸味を使って甘味を中和・際立たせる
単一の味ではなく、対照的な味を組み合わせることで甘さを中和・強調することもできるだろう。たとえば、甘味と苦味の組み合わせを考えてみたい。甘さと苦さを組み合わせる習慣は、日本の茶道の伝統に由来しており、甘みの強い和菓子と抹茶を一緒に味わう習慣は、日本では1,000年以上前から存在している。冬に日本で発売されたゴンチャの「抹茶ストロベリーミルクティー」と「ストロベリーアーモンドミルクティー」は、この甘さと苦さの組み合わせで約40万杯の売り上げを達成している。甘みや苦みだけでなく、甘じょっぱさや甘酸っぱさも日本人が受け入れられる味といえよう。コカ・コーラは2019年夏、日本で「コカ・コーラ クリアライム」を発売した。発売後、夏季販売期間(6月~8月)で販売本数が1,000万本を超え、月間新飲料売上ランキングで6位にランクインした。
甘過ぎたアメリカのドーナツブランド
アメリカのデザートブランドであるクリスピー・クリーム(Krispy Kreme)は、アメリカの消費者から「お気に入りのドーナツブランド」に選ばれ、 2006年に日本に1号店をオープンした。アメリカで流通するオリジナルのレシピを変えなかったが、立ち上げ初期のマーケティングが功を奏し発売当初は行列のできるドーナツ屋さんとなり、日本国内に64店舗を展開した。しかし、その後、業績は低迷し、店舗の約3割が閉店し、2018年には国内店舗は44店舗となった。
当初は、クリスピー・クリームは業績低下の原因を見つけられなかった。(日本人顧客は一口食べれば、大体原因を言い当てれろうであるが)その後、ユーザー調査を通じて、アメリカのドーナツのレシピは日本人には甘すぎることが判明した。アメリカ文化が好きな日本人でさえも熱意を失いつつあった。クリスピー・クリームは協議の後に、甘さを抑えた日本限定フレーバー「ブリュレ・グレーズド」を発売、またチョコレートをダークチョコレートに置き換えるなど甘さを抑えた。その甲斐もあり、2022年には店舗数は60店舗に戻ってきている。フレーバー・味のローカライゼーションの重要性を考えさせられるケースとなった。
ドーナツに関する例としてもう一つ紹介しよう。京都のローカルのドーナツブランド「Koe Donuts」は知っておいて欲しい。このブランドは、天然、オーガニック、自社生産の材料で京都で瞬く間に人気を得たドーナツ店となった。京都産のオーガニック小麦粉とオーガニック砂糖を主に使用し、国産米油で揚げ、オーガニックフルーツと栗のペーストをトッピングした、低カロリーの日本のドーナツが特徴的である。
これは、日本市場に参入したい中国のデザートなど(例えば、鲍师傅、鲜芋仙、赵记传承など)にもインスピレーションを与えることができるだろう。一部の中国ブランドは、製品の甘さを調整しなければ、日本市場で好まれるのは難しいだろう。
この日本のテイストに合う中国製品として何が考えられるか?
私は甘さを抑えた低糖のフルーツティーが日本市場で受け入れられる可能性が高いのではないかと考えている。
コンビニなどでは、レモンティーやピーチティーといった商品も店頭に並んでいるが、日本のフルーツティーにフルーツのなど粒が入っていることはほぼなく、商品の見た目やパッケージも比較的シンプルなパック系の既製製品が多い。まず、商品の見た目の面では、インスタ映えしやすい、中国のフルーツティーは日本国内で非常に競争力があると言えよう。日本も中国と同様にお茶を愛飲する大国であり、日本人は果物の甘さは自然な甘さであり、健康への負担やカロリーの不安はないと受け取られると考えられる。フルーツティーに「天然、オーガニックフルーツ、健康的、無糖」というラベルが貼ってあれば、日本の市場で人気が出る可能性は十分にあると考えられる。これが、Heyteaが日本の大阪に店舗を開くことを選んだ理由の一つかもしれない。
しかし、日本市場でのフルーツティーは、原材料価格というボトルネックに直面する可能性はあるだろう。日本のフルーツの卸売価格は中国の約10倍である。フルーツティー1杯が700円を超えると、日本の消費者は、それならばと、ブルーボトルコーヒー(約600円)などのプレミアムコーヒーにスイッチする可能性はある。しかし、この問題はマーケティング、特にブランディングを通じて解決することができるだろう。(次回以降の記事で、HEYTEAの日本進出について書こうと考えているので楽しみにしていてください。)
Appendix: 消費者受けする日本語表現
商品をローカライズして売り出す際には、当然、商品を説明・表現する言葉にも気を使いたい。
甘さ控えめを表す一般的な日本語の表現として、「ほんのり」や「優しく」といった言葉を「甘い」の前につけることで商品を魅力的に表現することができるだろう。
また、甘さとは直接関係ないが、「生」という言葉にも注目してほしい。例えば、生茶、生チョコレート、生キャラメル、生トーストなどは、すべて日本発祥である。ほとんどの国では、「生」という言葉を聞くと、その食べ物は生焼けか有毒だという、少し危険な考えが最初に浮かぶだろうが、日本ではそれは全く逆で、「生」という言葉には、新鮮、おいしい、無添加といったような、第一印象を自然に人々に与えることができる。この背後にある歴史的な理由も非常に興味深い。日本は魚が豊富で、特に仏教が日本に伝来して以降、日本人の祖先は早くから魚と野菜を主とした食生活を確立した。新鮮な魚のおいしさを楽しむために、日本人は酢を試し、コショウ、ノビル、シソなどの抗菌作用のある植物を植え、食中毒のリスクを避けながら生の食べ物のおいしさを楽しめるようになった。 日本人の生の食べ物に対する執着は現代社会にも引き継がれており、生の食べ物とおいしい食べ物が脳内で結び付けられていると言えよう。
以上が、記事全文になります。このような形でTriunityは中国企業に、日本進出のアドバイスを提供しています。同様に、日本企業が中国・シンガポールなどの東南アジア市場に進出する際にもサポートさせていただいております。こちらの記事や弊社サービスに関するお問い合わせについては、以下のリンクをクリックください。
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出典
[1] PR Times, 2024.2.13, 【LINEリサーチ】9割以上がスイーツ好き!好きなスイーツ1位は「アイスクリーム/ジェラート」
[2] Shijie Yang,Takashi Doi and Tatsuro Miyake, 2024.4, Sensitivity to sweetness of Japanese students and Chinese international students
[3] R. Ishii, S. Yamaguchi, M. O’Mahony, Measures of taste discriminability for sweet, salty and umami stimuli: Japanese versus Americans, Chemical Senses, Volume 17, Issue 4, August 1992, Pages 365–380, https://doi.org/10.1093/chemse/17.4.365
[4]PR Times, 2024.3.22, ゴンチャ史上、期間限定ドリンク最大のヒットを記録 春の定番「いちご杏仁」
[5]日本食品出口展,日本糖果零食展|日本民众对甜食的偏爱是出了名的,那么究竟哪些甜点能够俘获他们的味蕾呢?
[6]搜狐,2022.10.17,什么是适合国人口味的创意咖啡?T97给出了答案
[7]@dime,2018.11.1,「甘さ控えめ」に弱い日本人、約4割の人が微糖、低糖、無糖を選んでいた
[8] Medipalette,2024.3.11,コーヒーや紅茶に砂糖を入れない人は6割超!砂糖の摂取量の目安とは
[9] チコちゃんに叱られる!】なぜ日本人は「生」が好き?生ビールや生チョコ、日本人の「生」へのこだわりを解説|9月27日放送
[10]Ryutsuu biz, 2019.7.24, 清涼飲料/6月1位はキリン「生茶」
[11] Ryutsuu biz, 2019.7.24, コカ・コーラ/昨年1000万人が飲んだ透明なコーラに「ライム」味
[12]Savvy Tokyo, Healthy Japanese Sweets To Keep An Eye Out For
[13]Biglobe, 2024.1.15, いちごの品種による甘さの違い 「いちごチャート」で酸味もチェック
[14]Fun!Japan, 2024.8.9, Kyoto】Popular Sweet Shop “koe donuts” Launches New Products: Full Lineup Revealed
[15]azuchanblog, 2020.12.27, 【ほうじ茶ティーラテ】元スタバ店員が基本情報とおすすめカスタムをお伝えします
[16]华福证券,2023.8.28,代糖专题一:减糖趋势下代糖对食糖的增量替代空间探讨
[17]搜狐,2023.10.25,饮料乳品行业研究报告:复盘日本软饮变迁,探究行业潜力赛道(附下载)
[18]HFG. 2022.02.15. Chinese Hey Tea wins against Singaporean copycat.