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R.ウォボルディング著「リアリティ・セラピーの理論と実践 」:選択理論とリアリティ・セラピーの本当の関係を紹介してくれる本


「リアリティセラピーの理論と実践」に隠された秘密?

この本の原題は「Using Reality Therapy」で、「リアリティセラピーを使う」とか「リアリティセラピーの実践」という意味でしょう。

グラッサーが選択理論に先駆けて開発した心理カウンセリングであるリアリティセラピーについて、その実践方法やセミナー、トレーニングの第一人者であるロバート・ウォボルディングが書いた本です。

ちょっと古い本(1988年)ですが、リアリティセラピーの考え方や方法、注意点や事例など、くわしく、細かく、まとめられており、非常に参考になる本です。ロールプレイなどを通してリアリティセラピーを勉強した人が、確認や整理、レベルアップに読むのに適しているでしょう。

しかしながら、私(筆者)は、この本が、「カウンセリング技術の本」とか「セラピーの本」である以上に、もっと重要であると思っています。

実は、この本の最初の書名は「セルフ・コントロール」というものでした。

そして、この「セルフ・コントロール」という旧書名が、リアリティセラピーの本質というか、リアリティセラピーが「セラピー以上のもの」であることをよく表していると思っています。

本人のセルフコントロールを手助けするセルフヘルプの方法が「リアリティセラピー」

この本の原書には、付表として「Summary Description of Reality Therapy」が付けられています。そこには「リアリティセラピーの定義」が書かれているのですが(邦訳本の冒頭にも掲載されています)、私なりにわかりやすく翻訳してみますと、次のようになります。

「リアリティセラピーとは」
-リアリティセラピーの定義を求める人のために-


リアリティセラピーは、みなさんが自分で自分の人生をよりよくセルフコントロール(内的コントロール)できるように、手助けするための方法である。

リアリティセラピーは、みなさんが自分の願望と基本的欲求が何であるかを明確にし、自分が満たしたいという願望が、現実的に達成できるかどうかを、自己評価する手助けをするものである。

リアリティセラピーは、みなさんが自分の行動を検証し、明確な判断基準(criteria)に照らして、自己評価する手助けをする。

そして、続いて、みなさんは、自分自身の人生をセルフコントロールして、実現可能性のある願望と基本的欲求を満たすことができるような前向きな計画を立てる。

その結果、みなさんは、自分の精神力が高まり、より自信に満ち、よりよい人間関係と、より効果的な自分の人生計画を得ることができよう。

このように、リアリティセラピーは、みなさんに、日々において、問題(逆境)に対処し、自分らしく成長し、自分の人生をより効果的にセルフコントロールすることができるセルフヘルプ(自助:自分で自分を助けること)のツールを提供する。


リアリティセラピーは、いくつかの原則に基づいている。

①みなさんには、自分の(選択した)行動に責任がある。(自分の行動は)社会や、遺伝や、過去の出来事のせいではない。

②みなさんは、変わることができ(自由に行動を選択することができ)、より効果的な人生を生きることができる。

③みなさんは、(願望と基本的欲求を満たすという)目的のために行動している。つまり、彫刻家が粘土で彫像を形作るように、みなさんは、自分の環境を、自分の内側にある手に入れたいイメージ写真にマッチさせるべく、行動している。

そして、自分がほしい結果は、継続的な努力と、ハードワークによって、達成可能なものとなる。

※( )内は筆者が追加

(出典:「Using Realty Therapy」のAppendix)

上の定義を読むと、「リアリティセラピーとは、本人が、自分の行動や、ひいては、自分の人生をセルフコントロールする方法」であり、同時に、「本人がセルフコントロールするのを他者(カウンセラーなど)が手助けする方法」であることがわかります。

上記の文章の「セルフコントロール」を「セルフコーチング」に置換えると、リアリティセラピーは、もともとは、「選択理論によるセルフ・コントロール(セルフコーチング)の方法」と言った方がいいのではないかと、私には思えます。

その追加的な根拠として、この本の「12.「質問」の意義とQ&A」の質問(5)には、次のような興味深い文章があります。

「(リアリティセラピーは)プロの援助者が、他者の効果的な援助をする前に、まず自分のセルフヘルプのために使うべき「生き方(人生)の方法」である。

もし、援助者自身が欲求を満たされていなければ、また、もし、援助者自身に欲求を満たすための知識とスキルがほとんどなければ、そのような援助者が他者を助けられる望みはほとんどないであろう」

(筆者が原文から翻訳)

(出典:「Using Realty Therapy」p.169)

このように、リアリティセラピーは、援助者本人の「セルフヘルプ(セルフコントロール)の方法」「生き方の方法」として、まず活用されるべきであり、それによって、リアリティセラピーの知識と方法が身について、効果を上げられてはじめて、「他者のセルフヘルプ(セルフコントロール)の手助け」ができる、と考えられています。

上記の引用に記載した著者の言葉からすると、リアリティセラピーは「選択理論のカウンセリング」というより、「選択理論によるセルフコントロールを実践する方法」と考えるのが、「リアリティセラピーの本質」を表していると思います。

しかしながら、本書は、「カウンセラーによる、リアリティセラピー・カウンセリングの考え方と方法」が内容の大半を占めていますし、「リアリティセラピー(現実療法)」は、名前からして、他者に対するセラピー(癒やし)とか、心理療法を連想させます。

「リアリティセラピー」を「選択理論による対人カウンセリング」だと考える場合、「リアリティセラピー」という用語は、その本来の意義の半分は言い表せていますが、残りの重要な半分である「選択理論によるセルフコントロールの実践方法」という側面が表せていないように思われます。

リアリティセラピーは、セルフコーチングであり、対人コーチングの方法である?

そして、リアリティセラピーを上記の引用のように考えると、その意義は「心理療法としてのカウンセリング」にとどまらず、もっと広く、私たちの基本的欲求の充足とか、上質世界のさまざまな願望、ひいては自分が望む生き方を実現するツールであり、その意味では、「コーチング」という用語を使う方が、よりその実態を表せるように思えます。

リアリティセラピーは、援助者(カウンセラー)に限らず、誰が学んでも、セルフヘルプのツールとして、自分の願望や欲求を満たし、自分らしい生き方をしていくのに役立ちます。

誰でも、自分の生活、日常のコミュニケーションにおいて、リアリティセラピーを使うことができれば、身の回りの人間関係をよくし、相手の願望実現や欲求充足の手助けもできるようになる、ということです。

要するに、リアリティセラピーは、心理療法としてのカウンセリングにとどまらず、「選択理論によるセルフコーチング」であり、「選択理論による対人コーチング」であるといえると思います。

「選択理論を実践するためのトーク」としてのリアリティセラピー

ところで、選択理論とリアリティセラピーの関係については、「選択理論は線路」であり、リアリティセラピーは、「線路の上を走る電車」であるといわれています。

内的コントロール心理学としての選択理論の基本原理は、
「人は自分の行動を内的コントロールしている。そして、人がコントロールできるのは、自分の行動だけである」
でした。

また、選択理論は、「人間関係が良好であること」「満足できる人間関係が持てていること」を、私たちが幸せになるための必須条件と考えています。

そして、これらを実現するために、「相手(の内的行動システム)を外側からコントロールすることはできない(相手を変えることはできない)」という考え方を徹底します。

このことをカウンセリングの場合で考えると、「カウンセラーはクライアントを外側から変えることはできない」ということですし、「カウンセラーはクライアントを外的コントロールしてはならない」ということになります。

このように考えてくると、リアリティセラピーとは、カウンセラーがクライアントを外的コントロールせずに、クライアントのセルフコントロール(内的コントロール)を手助けするというカウンセリングの方法、ということになります。

そして、カウンセラーだけでなく、誰でも、リアリティセラピーの方法を、日常的な身の回りの人間関係で活用できれば、「相手を外的コントロールせず、相手の内的コントロールを手助けする」ことができ、つまりは、他者に対しても選択理論が実践できる、ということになります。

つまり、「リアリティセラピー」とは、私たちが、それによって選択理論を実践することができ、お互いに幸せになっていけるための「日常的なコミュニケーションの方法」でもあるといえるでしょう。

以上のように、「リアリティセラピー」は、選択理論を自分が実践するためのセルフトーク(自己対話)としての性格と、他者が選択理論を実践する手助けをするための対人トークとしての性格を持っているので、筆者(私)は、両方をまとめて、「選択理論実践トーク」と呼んだ方がわかりやすいのではないかと思います。

以上のように、「リアリティセラピー」は、その語感以上に、広くて大きな意義を持っており、このことを紹介してくれているという点で、本書は極めて重要な文献であると考えます。

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