【旅して取り戻す、あの頃の私】-島ごと美術館-(エッセイ小説)
TRIP STORY とは?
物語の舞台
-企画-
島ごと美術館
-住所-
瀬戸田町内(生口島・高根島)各所
-営業日-
年中無休
-入場料-
無料
※観覧無料
※生口島にある「飛石」は瀬戸田小学校中庭にあるため事務所へご連絡お願いします。
-お問い合わせ-
瀬戸田支所しまおこし課しまおこし係
TEL:0845-27-2210
-Trip Story-
主人公紹介
美咲は、30代半ばの女性で、
尾道市にあるカフェで働いている。
都会の喧騒から離れたこの街で、
忙しい日々を送っている。
毎日忙しい仕事に追われる中、
ふとした瞬間に心の中で
「もっと自分らしく生きたい」
と感じることが増えてきた。
尾道市から生口島への小さな船旅が、
彼女の心に新しい風を吹き込むきっかけとなる。
地元の人々との交流や、
島の自然に触れながら、
美咲は自分を見つめ直し、
少しずつ変化していく。
彼女が迎える新たな一歩とは、
一体どんな未来が待っているのだろうか。
《耽りて、考えふ》
仕事に追われる日々の中、
美咲はふと
「生口島に行こう」
と思い立った。
尾道市瀬戸田にある
この島には、
美しい自然と共に
点在するアート作品があり、
ずっと心の片隅に残っていた場所だ。
週末、フェリーに揺られて
生口島に到着すると、
心の中の重みが
少しずつ溶けていくのが分かる。
柔らかな潮風が頬を撫で、
空には雲がゆったりと流れている。
日々の喧騒から遠く離れたこの場所は、
時間の流れさえも異なるようだった。
美咲が最初に目にしたのは、
広い空の下にぽつんと
立つ彫刻作品だった。
曲線が美しく、
どこか温かみを感じるその作品は、
風にそよぎながらも、
確かにそこに「在る」存在感を放っていた。
作品名は「一羽の鳥の為に」
作品の前で足を止め、
じっと見つめる。
何も語らない作品の中に、
美咲は自分の思いが
投影されていくのを感じた。
「こんなふうに、ただここに在り続けるだけで、意味があるのかもしれない」
日々の忙しさに押し流されるように、
美咲は自分の存在意義を
見失いかけていた。
しかし、
この彫刻が語る無言のメッセージに、
少しずつ心が解きほぐされていく気がした。
次に訪れたアートは、
「風の中で(瀬戸田)」
巨大なサクソフォンが目印の作品
力強く空に向かって伸びるその姿は、
音楽が視覚に変わったかのように見えた。
格子の中で無限の音楽が
響き渡り
心の中に何かが、
解き放たれていく。
そう感じさせられた。
美咲はこのサクソフォンに
向かって小さくつぶやいた。
「こんな風に自由に、思うままに音を奏でることができたら、どんなに素敵だろう…」
立ち止まって見上げる彼女の姿は、
まるでサクソフォンが
心の内に眠る本音を
響かせてくれるかのようだった。
美咲はその場で深呼吸をした。
仕事や生活に追われ、
息苦しさを感じるときもあるけれど、
こんなふうに自分を
取り戻せる場所があるのなら、
また明日も前を向いて歩いていける。
夕方の空が赤く染まり始めた頃、
美咲は島を離れるため
フェリー乗り場へと向かった。
心の中に灯った小さな明かりが、
穏やかに美咲の未来を
照らしているようだった。