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古賀コン2024私が選ぶ10作品

最後に花を貰ったのはいつだろう
最後に花を贈るのは誰だろう

Re:nG feat. 初音ミク『貴方に花を 私に唄を』


はじめに

 2024年も押し迫って参りました。本年中に開催された古賀コン4、5、6、7より私の独断と偏見で10作品を選んでみました。
 なにを藪から棒にって?
 だって、相平さんが面白そうなことしているんだもん!

 この流れに乗るっきゃないない、というわけで行きます。


古賀コン4

テーマ「記憶にございません」

津早原晶子「花の子ども」

 投票期間内までに読めていなかったのが痛恨の極みで、読めていたら間違いなくこの作品に投票していました。
 古賀コン4を振り返るとき、自分の作品以外で真っ先に出てくるのが『花の子ども』でした。

 アネモネ。これは、食ってみろ、飛ぶぞ。

津早原晶子『花のこども』

 この一節がキーになって読んだ時の記憶がばーっとよみがえります。花をとっかえひっかえ口にしていくくだり、ふわりとした酩酊感を覚えるはこびから螺旋を描く急落。転じてその後生まれる花のこども。そして、子ども達が迎える最初の春。

 もうすぐ春。花の子どもたちにとって初めての春。風から伝わるなつかしさだけを頼りに、彼らはその身からソメイヨシノを散らせ、そして、死ぬだろう。

津早原晶子『花のこども』

 これで終わるんですよ。人生を感じますよね。

 いまにもバラバラになりそうな物語は起承転結の基礎構造をかろうじて構成していて、とても不安定であやうい印象があります。その不安定であやういところに愛おしさにも似た魅力を感じます。
 また、文章のリズムがいいので朗読で聞いてみたい作品でもあります。

 古賀コン7の『ねぇ、Ba-dee-ya』も好きです。安定した筆致でつづられる物語は、コメディとラブロマンスのバランスが取れていて素敵でした。


日より「白忘」

 日よりさんの『白忘』と高遠みかみさんの『記憶喪失集』と只鳴どれみさんの『森の女』での頂上決戦が私の中で発生していました。どの作品も作中出てくる言葉が印象的であり、それぞれのベクトルで尖っていたからです。ただひとつだけ違ったのは、『白忘』だけが一文ではなく文字列全体の印象を残していたからです。
 詩の各群で一行目の言葉が二行目にかかり、そこからさらに三行目から四行目にかかる。この時、受け渡されるイメージは明確に白です。
 でも、その白はやがてことばに転化し、空へ上り星の間を渡り、夜から朝に時が移ろう中で忘れられていきます。そして、観測者のわたしはその白い忘却に自分を重ねて、ただ見ている。
 視覚的なイメージを読者に渡しつつ、あくまでもことば(詩)としての印象を残してくる詩です。
 振り返ったとき、部分的なセンテンスではなく総体としての印象を返してきた強さがこの詩にはありました。


古賀コン5

テーマ「第一座右の銘」

日比野 心労「中学のときからのツレが地元でメイドバーを立ち上げるって言うから、友人割でサクラやってたら見事にハマった俺の話でもする?」

 古賀コン5を振り返ったとき、心労さんの作品がぱっと思い浮かんで、自分でもびっくりでした。古賀コン7の『ひらけ! 天の岩ポーゥ!』は面白かったのですが、読んであんまり乗れてない自覚があったからです。『ブンゲイテクノ』もそうでしたので、合わない読者なのかな? という思いを抱いていたからです。
 カウンターで酒飲みながら話す情景……というよりその場の空気が伝わってくるんですよ。私、昔川口に勤めていた頃、なれない裏路地を歩いていてバーっぽい店に入ったことがあるんです。ところが、そのバーは「内輪向けの店とのことで(そう言われた)」追い出されることはなく飲ませてくれたのですが、ビールとなぜかつまみにメロンを出されて結構良いお値段を取られた思い出があります。この日じつは誕生日でなにか自分にお祝いをあげたかったので、苦さや悔しさ、悲しさよりも寂しさが去来する思い出です。あのお店も最初やんわり「お帰りください」と伝えたつもりだったのが伝わらなくて、扱いに困りつつビールとメロン出してくれたんじゃないかなぁ……と今では思うんですよ。
 それでですね。その時、そのお店にいたマスターと水商売っぽいおねーさんと話していたときの空気がまさにこれなんですよ。もう明らかに失敗しちゃったルートに入ったんだけど、だらだら話しちゃうの。
 舞台が(後につぶれる)トレンディじゃないメイドバーで、自分はサクラの客で飲んでいて……ていうシチュエーションだけでも美味しいのに、ところどころに文学的なセンスが光って洒落まで効いていると来た。やっぱり面白いよね。


洸村静樹「神様のとどめ」

 説明不要なんじゃないかな、という気はします。
 古賀コンでは結構母親との関係を描いた作品があるのだけど、その中ではいまもなお王者の風格でたたずんでいます。
 愛憎と言ってしまえば簡単だけど、母親に対して抱いている複雑な感情が複雑さはそのままにちゃんとそれがどんな感情なのか読者が読み取れるように提示されていました。
 そして、「神様のとどめ」という言葉の強さ。洸村さんはしばしばこうした強い言葉を出してくるけれど、その中でも忘れられないほど強いのはこの言葉だと思いました。それをタイトルにもってきた判断もまた強いです。
 これは古賀コン5の感想に書いたことなのだけど、〝神様のとどめ〟があるからこそ、どうにもならないと思うこともそれでも生きているのなら生きていていいんだよ、と自身を肯定するような意味があるんじゃないかと思いました。これはいまでもそう思っています。


古賀コン6

テーマ「 架空 “☆1” レビュー 」

はしもとゆず「☆が欲しくなった日」

 小説や詩でのアプローチが多い古賀コンだけど、文字が入っていれば(添えられていれば)イラストだってOK。
 テーマにまっすぐ取り組みながら、ちょいちょい笑える小ネタも交えて3ページのショートコミックにまとまっています。じつは1ページ1コマ目のねこたくんの後ろ姿がいちばん好きで、「とんでもなく暗い」部屋に気持ちまで暗くなってくる心情を出しつつ、「まあしょうがないか」みたいな割り切りも感じさせる後ろ姿です。暗い雰囲気なのに和む感じが出ています。
 古賀コン6を振り返ったとき、発想の面白さや展開の秀逸さなどいろいろ優れた作品はあったのですが、暗いという表現で読者の気分沈み込ませず和ませたというのは大きかったと思います。


坂水「センチメンタル・ファニー・スター」

 坂水さんの作風を知っていると、意外なものが来たなー、という印象を受けるのが本作です。坂水さんは情念が渦巻く様を描くのが上手い方で、いつもこれほど心に迫るものを描けるだろうか、と圧倒されています。
 『センチメンタル・ファニー・スター』はむしろ可愛い感じのお話です。レビューするのに星が足りなくなったから回収人として働いて欲しい、という導入でドナドナされていくのですが、レトロSFを感じさせるガジェットが散りばめられた異国での作業はちょっと間が抜けていて、やる本人は大変ですが読者は楽しく読めます。
 聞けば、落ち葉掃除から思いついたお話しだそうで、その経緯もいいな、と感じました。


古賀コン7

テーマ「 ダンスをご覧ください 」

渋皮ヨロイ「にんべん」

 おいしそう。
 不条理と理不尽を楽しめてしまう小説で、「かつおぶしが踊っている」というひと言からここまでの飛躍と展開が見られるとは思っていませんでした。最後に戻ってくるところへの繋ぎ方も見事としか言い様がなく、いま思い返しても抜群に面白い作品でした。


両目洞窟人間『心が踊ればダンスだろ』

 こういうやさぐれた百合をたまに読みたくなるんですよ。作中に出てくる音楽の中にはわからないものもあったのですが、『星間飛行』には参りました。キラッ! が流行っていたのを目の当たりにしていた世代だったもので……。
 古賀コンでは百合作品がないかひそかに探しているのですが、まさか両目さんが書かれるとは思っていなかったので完全に不意を突かれました。
 折に触れて読み返したい作品になりました。
 サクロさん、この作品は読まなきゃダメだよ。


群青 すい「みてますか」

 古賀コン4の「無限のかたち」とどちらにするかで迷いました。言葉の美しさはどちらもいいのですが、「みてますか」は言葉の端々にすごみを感じさせられます。

はなびらのように生まれきて
風花とはちがうのは
とけては消えぬ肉のなか
重たき血があかく鳴く

群青 すい「みてますか」

 風花かざはなという言葉が強く作用していて、あの雪に満たない冷たい雪片が指先に触れてとける様とその指に流れる血の熱さを意識させられるのです。
 この後のはかない、はかない「かみさま?」という問い掛けが印象的で、はかなさに傾きそうになるのですが、最後の「わたしたちがそれにおどらされるのを」という一節がそれまで感じていたすごみを思い出させるのです。一瞬にして。


継橋「身勝手な復讐」

 百合を書く人だとわかっていたので、最初から女の子同士の作品として読んでいました。注目していたのは、いつどうやって同性同士の話だと明かすのかという手管。
 それは強烈にあざやかに提示されて、舞台から駆け去る私の姿がいまも脳裏に浮かびます。
 テーマの「ダンスをご覧ください」を存分に生かし切った作品でもあり、作品構造、構成の点でも非常に優れていたと思います。
 自分も磨きを掛けねばと思わされました。


番外編

サクラクロニクル『ブラックホール』

 2024年ではなく2023年最後の古賀コン3の作品なのですが、私が古賀コンに参加するきっかけになった作品です。そして、この古賀コン3でサクロさんは裕人賞を受賞し、私のライバル心は燃え上がるのでした。

蒼桐大紀『ラブレターの裏側に』

 古賀コン4での最優秀古賀賞受賞作。私はこの私にいまだに勝てません。古賀コン3の結果を受けて、ほぼサクロさんに勝つためだけに書いたような作品なので、殻を破るにはなんかそういう強い動機が必要なんでしょうね。

佐藤相平『オレは、ハゲ!』

 MVP。
 読んだときから結果が見えてしまった作品でしたね。仮に最優秀古賀賞を逃してもなんらかの賞はとると思ってました。そしたら、人気投票同率一位で🎅賞と最優秀古賀賞ダブル受賞とか。オーディエンスと古賀さんの心をがっちりつかみましたね。
 私は相平さんと会ったことがあるので、サムネイルを見たときにマジか、と思いました。テーマをどう繋げてくるのかと思って読んでいたら、最後にひらめきがあってこれがこれこそがダンスなのだと気づかされました。文章も面白かったですしね。

おわりに

 10作選ぶつもりが(番外編を除いても)最初25作もピックアップしていて、絞り込むのに苦労しました。
 古賀コン7からの選出が多いのは、記憶に新しいから——ではなく、歴代古賀コンの中で7が最も読者を楽しませることを意識した作品が多かったからだと思います。これは、テーマの「ダンスをご覧ください」がそう作用したためか、参加者の意識が変わってきたからなのかはちょっとわかりません。でも、後者だったらいいな、と思います。

 古賀コンの結果は毎回そう来たか〜、という感じでいままで一度たりとも結果に物申したくなったことがないんですよ。
 最初私が選びきれなかったように、古賀コンには笑える作品、泣ける作品、考えさせられる作品など、さまざまな切り口を持つ面白い作品がひしめいています。
 皆さんもマイベスト古賀コン作品を探してみませんか?
 そしてそれを教えてくれると嬉しいです。


引用補足

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