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サステナブルデザインの新機軸、「リペア&リユース」できること

先日、家でお茶を淹れるのに使っている土瓶の取っ手の引っ掛けるところが壊れてしまいました。
取っ手がないと使えないので、一瞬、同じものをまた買うかぁと思いましたが、本体は無傷なのに捨てるのはもったいないなと思い直し、ネットで取っ手だけ売っていないか調べることにしました。

左:https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/g/g4547639462657/ 右:筆者撮影

本体に引っ掛ける針金がこのように取れてしまいました。
で、調べてみたら売っていました!取っ手のみで!

https://amzn.asia/d/3fsUEFv

これなんかちょうどいいんじゃないかと大して期待もせず注文し、取り付けてみたところ…

筆者撮影

前よりもいい感じになりました~!(中川政七商店さん、すみません…)
人に見せたらGUCCIのBambooバッグみたいだと言われました~
捨てなくて良かったー!
何か、サステナビリティを自分でも実践してみた気分です。

持続可能な製品開発の本命!?
ユーザーにも環境にも優しい “修理/二次利用が可能なデザイン”

企業や事業家のSDGsの取り組みが活発化する中、最近では製品に関する持続可能性に最も有力な策ではないかと思われる「リペア(修理)できること」が注目されています。
また、リペア同様に一つのものを「長く使い続けられる」ようにするという観点から「リユース(再利用/二次利用)できる造りになっていること」も開発テーマになり始めています。
近年の環境に配慮した製品開発に多い、廃棄物を新たなプロダクトにリサイクル(再生)することは、生産活動における環境負荷軽減に有効ですが、まずは廃棄物が出ないようにすることが大切ですからね。

まだ十分使えるのに破損してしまったからやむなく処分する、というのは、環境だけではなくユーザーにとっても残念なことです。
スマホのガラスパネルが割れたとか、大抵の場合、一部分が破損しただけだったりしますしね。壊れたらその部分だけ取り替えられたり、不要になったら部材を組み替えて都合よく使えるようにしたりできると良いです。

それを既に実現させているプロダクトもあります。
最近は、メーカーが自社商品の修理サービスを行うケースも急増しています。取り組みがもう始まっているのですね。
製品に関する企業の取り組みも、
リサイクル素材やバイオ素材の活用(廃棄物や環境汚染軽減)
⇒ 回収サービスの実施(資源を循環)
⇒ 修理サービスの開始、修理/再利用可能な設計(製品寿命の延長)
と、広がりを見せ、発展を遂げています。
サステナブルデザインにおいても今最も旬で重要なトピックであると思われるこの「リペアとリユース」は、土瓶を直したこともありわたし自身も高い関心を持っていて、色々調べたりしています。そこで、今回はこのテーマについてお話させていただきます。

近年の製品における「リペア」動向

①「修理できる仕様」が、製品開発の新たな条件に!

最近では、アメリカやイギリスで「修理する権利」が法制化され、これまでメーカーに一任せざるを得なかった修理をユーザーが自ら行うことや依頼先を自身で選ぶことが正式に認められるようになりました。
フランス政府は昨年、電化製品に「修理可能性指数」の表示を義務化しています。スペアパーツの入手可能性なども査定の基準となるそうです。

こうした社会的な強制力が増す中、AppleがiPhone 14シリーズで初めて液晶パネル同様に破損しやすい背面ガラスパネルを取り外せる構造にするなど、メーカー側の対策も採られるようになりました。

背面パネルが破損しても液晶パネル以外の本体ごと交換しなければいけなかったが(左画像)、
液晶/背面パネル共に容易に外せるように改善された(右画像)。
https://www.ifixit.com/Teardown/iPhone+12+and+12+Pro+Teardown/137669
https://youtu.be/ZQErjW5uR0k

電子機器の修理業を行い、最新デジタルデバイスの分解情報を発信する米国のiFixit社は今年、通信機器の「リペアビリティスコア」の公開を始めましたし…

https://jp.ifixit.com/smartphone-repairability

2013年から分解可能でパーツ交換が可能なスマートフォンを製造販売する米国のFairphone社や、2021年から同様に分解可能でパーツの拡張やアップグレードを可能にしたノートPCを販売する米Framework社など、修理できることをコンセプトにしたメーカーの存在も以前に増して注目されるようになりました。

https://www.frandroid.com/marques/fairphone/1177115_test-fairphone-4
https://frame.work/laptop-chromebook-12-gen-intel

ユーザーが自分でパーツ交換できるモジュール構成のFairphoneには5年間の製品保証があるので、故障しても最低5年間は使い続けられます。
販売中のモデルの全パーツを長期間にわたって常備しておかなければいけないという製品開発以外の課題もクリアしているのが素晴らしいです。
フランス政府による修理可能性指数は、9.3だそう。
ただ、パーツ間のクリアランスが必要な分解可能な構造にしているためか、厚みは10.5mmで重さは225gとボリュームがあることが、ユーザーの購入意思決定の障壁になるのかもしれないですねー(><;)

「修理のしやすさ」と「普段の使い心地」。
ユーザーが天秤に掛けると後者が優先されがちです。
なので、修理しやすい構造設計が、利便性だけに留まらずに新たなユーザー価値を生み出せると良いのではないかと考えました。

②「修理できること」をいかにデザインで魅力的に見せるか

既に形状が決まっているものを修理しやすい構造に再設計するのではなく、修理して長く使い続けられるようにすることから導き出したデザインがあります。そのデザイン性がユーザーにとっての「魅力」となる製品です。
これは、新しいデザインの方法論になるのではないでしょうか。
いくつか思い当たる好例を挙げてみたいと思います。

https://transpa.rent/en/transparent-speaker-black

2019年にスウェーデンのTransparent Sound社が発売した「Transparent Speaker」は、その中でも秀逸なデザインですね。
ガラスとアルミフレームで構成し、パーツをボルトで固定しているのでユーザー自身で簡単に分解でき、修理やパーツ交換が可能です。
その修理可能な構造が、製品の美観にもつながっています。

https://www.kickstarter.com/projects/transparent/transparent-speaker-1?lang=ja
白モデルも美しいです!
https://www.facebook.com/transparentspeaker/photos

同社は、持続可能性とインテリア性を重視しているようです。
2020年に発売された、音に合わせて炎がゆらめくランタン型ポータブルスピーカー Light Speakerも自分で分解して修理できる構造になっています。

Transparent Speakerのように修理可能性から導き出すデザインの考え方は、「家具」にも及んでいます。
と、言うか、家具においては以前からイケアを始めとするメーカーが組み立て式家具を開発していますし、修理可能な形に改良することは、デジタルデバイスよりも難しくはないのかもしれません。

https://taktcph.com/products/

デンマークのTakt社が昨年発売した「Sling Lounge Chair」は、フラットパック式にして輸送時のCO₂排出量の削減を図ると同時に、4本のネジで簡単に組み立てられる構造にすることで、パーツの破損時にその部分のみを交換して製品を長く使えるようにしています。
オーク材とリネンのパーツで構成され、木材はFSC認証のものを使用しているそうです。
製造から廃棄に至るカーボンフットプリントも算出し公表。CO2eを19.5kgに抑え、カーボンオフセット事業を行うフィンランドのテック企業Puro Earthと提携して、その排出量を相殺しているのだそうです。カーボンオフセットの代行が事業化していることも驚きですが、製品の低炭素化に向けここまで徹底していることにも驚きました。

https://taktcph.com/products/sling-lounge-chair/#/oak-oil-armrest/untreated-natural-european-linen

シンプルなデザインを得意とするイギリスのインダストリアルデザイナー、Sam Hecht + Kim Colinがデザイン。
組み立て式の家具は珍しくないのですが、パーツ交換のために解体してまた組み直すとなるとそれに耐え得る構造にしなければいけないので、良くここまでシンプルな形で実現できたなと感心します。
見た目の美しさもポイントが高いですね。

また社会問題を解決すべく開発された製品で、修理可能なサステナブルなデザインもあります。

https://myfootballkit.jp/   https://www.nendo.jp/jp/works/my-football-kit/

サッカーボールが入手困難な貧困地域の子供たちのために開発された組み立て式のエアレスボール。2021年にボールなどのゴム製品を開発するモルテンがデザイン会社nendoと共同開発した「My Football Kit」で、竹鞠の構造をヒントに考案されたそうです。
エアレスなのでパンクすることもなく、またTransparent Speaker同様に、破損したらその部分を交換して直せるので長く使うことができるというものです。

https://myfootballkit.jp/   https://www.nendo.jp/jp/works/my-football-kit/
https://myfootballkit.jp/

修理可能な構造で長く使えるようにするデザインは、環境だけではなく社会的弱者とされる人々のウェルビーイングの実現にも貢献し得るのですね。素晴らしい取り組みです。

話は少し逸れますが、千葉県のヘアサロンThe Oriental Journeyが、2019年に国内の美容院で初めてBIO HOTEL認証を取得したというニュースを知り、同店のサイトを見てみたら先述のTransparent Speakerが導入されていることに気付きました。

https://orientaljourney.com/journal/journal-277/

「BIO HOTEL認証」は、基本的に宿泊施設を対象とし、食とコスメがオーガニックであること、CO2排出量削減の取り組みをしていることが条件で、このヘアサロンも薬剤を無害化して排水するオゾン水システムをシャンプー台に導入している他、バナナペーパー製のハンガーやフェアトレードのコーヒーを使用するなど、店舗運営に必要な細々としたものも人や環境に優しいものを選択されています。
最近では、Starbucks Coffeeが「サーキュラーエコノミー店舗」を開発するなど、持続可能な店舗設計や運営に本格的に取り組む動きも見られるようになりました。
店内で使用する備品にもそれを徹底するとなると、Transparent Speakerのような製品の存在は、今後さらに必要とされるのではないでしょうか。
BIO HOTEL認証を取得したヘアサロンに置かれているのを知ってふとそう思いました。


③ 顧客エンゲージメントを高める自社商品の
「リペアサービス」

近年は、アパレルメーカーを中心に自社商品の修理サービスを開始するケースも増えてきました。
高級ファッションブランドの幾つかは、以前からリペアサービスを行っていて、バーバリーはコートの再撥水加工も提供しています。

https://jp.burberry.com/burberry-aftercare/#leather

環境意識の高いパタゴニアは、通常の修理受付の他に、ワゴンで地域巡回する出張修理サービスのツアー「Worn Wear Tour」も2015年から展開していて、日本でも今年サーフエリアで実施されるそうです。
自社商品以外も修理してくれるとのこと。太っ腹ですね。
リペアサービスを「新たな顧客接点」として機能させている点でも気になる取り組みです。

損傷がひどい場合はあて布で補修するのですねー。
https://www.patagonia.jp/jp-repairs.html
Worn Wearツアーのワゴン車。お洒落です。
https://www.patagonia.jp/stories/worn-wear-spring-2015-tour-free-clothing-repairs-and-more/story-105938.html

ここ数年、アパレルメーカーや小売店が店舗で回収サービスを行うようになりましたが、このように修理サービスも増えると嬉しいです。

個人的な話で恐縮ですが、わたしは服に穴が開いたりすると行きつけのクリーニング屋さんで修理してもらいます。
家族経営のお店で、補修が難しい場合でも布を貼ってデザインとして見えるようにするなど、修復のアイデアを出してくれるので助かります。修理にもセンスが必要だなと思います。
うちの母が長年愛用しているカーディガンが擦れて穴が開いてしまった時にもこのように直してもらいました~。

このカーディガンを買ったの20年以上前です。パッチワーク柄で良かった~!

メーカーが直々に修理してくれると、より元の状態に戻る可能性が高いので良いですね。デザイン性の高いブランドの服は特に修理が難しそうですし、ボタンなども特殊なものを使っているので、修理サービスを展開してくれるのは顧客にとって重要なブランド価値になると思います。

また、先に申し上げましたように「新たな顧客接点」の開拓にもなります。商品購入後にも顧客とつながる機会を持つことで、顧客のエンゲージメントを高める効果もあるのではないかと考えます。

近年の製品における「リユース」動向

繰り返し使える、捨てずにそのまま二次利用できるという意味での「リユース」もリペアに並び、プロダクトなどの形あるものの持続可能性の実現に非常に重要なことです。
メルカリなどのフリマアプリの登場により、それが不要な人から必要な人に製品の命をつないでもらうことが可能になりました。ヤマダ電機は「リユース家電」の事業を開始し、使用済み製品を点検、洗浄して格安で再販しています。
そうしたサービスによってリユースの動きが活発化する中、あらかじめリユースできることを前提にデザインすることも必要になるのではないかと考えます。修理可能性同様に、今後のデザイナーの仕事で考慮すべき課題になりそうです。

①「リフィル式」にして繰り返し使う商品パッケージ

食品や洗剤の輸送、販売、使用に必要なパッケージを繰り返し使えるようにする取り組みは、米国のTerracycle社が大手メーカーと提携して展開する牛乳配達方式のサブスクサービス「Loop」を皮切りに、量り売りでの販売を行う店舗が増加するなど、徐々に広がりつつあります。
ただ、容器を返却、持参する面倒が障壁となるため、まだ環境意識が高い一部の人に利用が限られている印象も受けます。
一般に普及しているパッケージを使い捨てにしないアクションですと、「リフィル」がありますね。リフィルも中身が液体だとプラスチック製のパウチに入っているので、それを捨てるのに罪悪感を覚えてしまいます。

米国のColgate Palmolive社のブランドSoftsoapから昨年発売された泡ハンドソープは、リフィルを発泡タブレットにしていて、それをユーザーが自分で水に溶かして使うようにしています。

https://www.softsoap.com/en-us/hand-soap/foaming-tablets

従来の液体洗剤がプラスチック容器を使用していること、水分で嵩増しされているためにプラスチック使用量も多いことから、最近では固形石鹸が再評価され、シャンプーなども固形で販売されるようになりました。
この泡ハンドソープもリフィルを固形にしているので、買い物時の荷物も軽くなって良いですね。包装材はプラスチックのようですが、使用量が少なくなるというメリットはあります。品質保持のためになかなかプラ全廃とまでは行かないのかもしれませんが…

繰り返し使える容器、お洒落なのがあんまりないんですよねー。
メーカーさんに力を入れて欲しいところです。
米Method社のアルミボトルくらいカッコいいのがあると良いのですけど。

リフィルが固形じゃなくて液体なのが残念!
https://www.softsoap.com/en-us/hand-soap/foaming-tablets

② 再構築できる「分解可能な建造物」

ナショナルジオグラフィックの情報によると、世界の陸地の2%を占める都市部の炭素排出量は、全体の70%を占め、そのうちの建設が占める割合は30%に上るそうです。
近年は、ネットゼロ/カーボンフリー建築への取り組みが加速していて、炭素を内部に貯蓄する木材(CO2を吸収しO2を排出するためC=炭素が残る)を多用することでカーボンオフセットする手法が用いられています。ただ、計算上のことなので本当に環境負荷を軽減できているのかは良くわかりません。

わたしはかつて内装設計の仕事に携わってきたこともあり、現場を解体して出た大量の廃材の行方の方が気になってしまいます。
ウェンディーズとファストキッチンは今年、店舗ごと移動可能な「トレーラー型店舗」の展開を始められたそうです。場所が変わっても店舗をそのまま再利用できるのでゴミが出なくて良いですね。

リペアのところで採り上げたTransparent Speakerのように「分解できる構造」にした建造物も具現化しています。鉄骨/鉄筋コンクリート造の超高層ビルでは難しいと思いますが、低層階の建物には今後この考えが採り入れられていくのではないでしょうか。

https://www.adept.dk/project/the-braunstein-taphouse

2020年にデンマークのビール醸造所エリアに地域のコミュニティセンター、兼旅行客のトラベルスポットとして誕生した「The Braunstein Taphouse」は、解体後に建物の資材を再利用したり再構築できるように分解可能な構造に設計されています。
廃材の使用や再エネの活用など構造以外のところにも環境への配慮がされているようです。

デンマークの建築設計事務所Adeptによる設計。
https://www.adept.dk/project/the-braunstein-taphouse 

店舗設計ですと、「可動式の家具」で構成するという手があります。
チェーン店で昔から採用される手法ですが、場所やレイアウトが変わってもそのまま再利用できるモジュール式の家具となると、どうしてもチープな印象になってしまうのが難点です。

昨年、パリのポンピドゥー・センターに新設された書店「Librairie」は、芸術作品の運搬時に使用するトロリーに着想した可動式什器で構成されています。
全ての空間要素をモジュール化することで、製造時や輸送時の環境負荷を抑えると同時に、ニーズに応じた配置変更や陳列什器の形状変更も容易にしています。

フランスのデザイン会社Studio 5.5が設計。
https://www.5-5.paris/en/projects/centre-pompidou-exhibitions-library-2021-126

配色と形状は、ポンピドゥー・センターの外観に合わせていて、決して安っぽくはないポップなデザインに仕上げられています。
この什器の部材は、廃材が出ないように原材料の寸法規格に合わせて設計されているそうです。それが凄いなと思いました。
什器構成にして再利用可能にすると同時に、製造時の資源の無駄を極力なくしたこの設計は、本当に参考にすべきことだなぁと思います。

ポンピドゥー・センターの外観
https://www.lequotidiendelart.com/articles/21712-centre-pompidou-des-acquisitions-dop%C3%A9es-par-les-amis.html

家具にも同様のソリューションがありまして、イタリアのMagisが昨年発売したソファ「Costume」は、分解可能である上に、連結も可能な構造設計がされています。

ドイツのStefan Diez氏がデザイン。
https://journal.magisjapan.com/report/4941
https://www.magisdesign.com/product/costume/

張り生地の着せ替えができるだけではなく、洗濯できることも好都合です。
椅子って、何もこぼしていなくてもいつの間に汚れていたりするんですよねー。(>.<)

https://journal.magisjapan.com/report/4510

張り生地に付いている紐を引っ張って本体に装着し、ストッパーに引っ掛けて固定する造りです。ジョイントパーツで連結も可能。オフィスのレイアウトチェンジや引越し時に再利用できるよう考えられています。


③「アップサイクル」もリユースに有効な手段!

不要品にひと手間掛けて新しい姿に蘇らせる「アップサイクル」も今あるものをそのまま活用できる点でリユースの一つの手段かと思います。
2011年にエルメスが実施した「Petit h」のプロジェクトもアップサイクルの活動でした。「おぉ、ついにエルメスのような高級ブランドも環境に配慮した製品開発をするようになったのかー」と思いました。
当時はまだ今ほどサステナビリティが重視されていませんでしたからね。

https://www.hermes.com/jp/ja/story/192546-petit-h-event/

同社の厳しい品質基準をクリアできなかった残念な製品や素材の端切れを高度な職人技術と感性で新しいオリジナルアイテムに蘇生させるプロジェクトです。一点ものなので、元の製品よりも高いんです(画像のバーキンのリメイクは2,268,000円!)。
リメイクで価値を上げる文字通りアップサイクルです!

個人的には、2008年にスロヴァキアのデザイナー、Tomas Kralさんが制作した「Upgrade Series」という空き瓶に江戸切子のようなカッティングを施してアップサイクルした作品が気に入っていて、こういう取り組みがもっと増えると良いなと思っています。

https://tomaskral.ch/projects/upgrade/

当時はまだサステナブルという言葉も普及していませんでしたが、この作品で「アップアイクル」という言葉と考えを初めて知りました。
捨てられる運命の空き瓶がこんなに美しく蘇るなんて創造的です。手先が器用で想像力豊かな人でしたらご自身でこのようにアップサイクルできるのかもしれません。
メーカー任せにせず、ユーザー自身でリユースできるようにすることも大切ですね。

https://tomaskral.ch/projects/upgrade/


買い替え需要と引き換えに実現する?
リユースで生まれる顧客との長く深い関係性

長々と書いてしまいましたが、サステナブルデザインの本命ではないかと思われる「リペアとリユース」について興味を持っていただけたら幸いです。
リペア、リユースできることを前提にしたらどんなデザインが生まれるのか自分でも考えてみたいです。

個人的には最近、眼鏡のフレームの一部が欠けてしまったので、欠けた部分を「3Dプリント」で再生させたいです。そういうちょっとだけ破損するパターンが一番困りますね。その眼鏡のフレームはもう在庫がなく、やむを得ず新しい眼鏡を作りました。
古くから器の修復に用いられる「金継ぎ」の手法を応用して眼鏡などの量産品の修復ができたら良いです。そういうサービスが具現化する日が来るのはもしかしたらそう遠くはないのかもしれません。

金継ぎでお皿を修復しているところ
https://dig-it.media/lightning/article/594494/

リペア、リユースできるようになると、製品の購入頻度が低下することも考えられます。ですが、一つのものを長く使えると同時にメーカーや小売店が顧客と長くつきあうことになり得ますし、店舗での修理や詰め替えサービスが新たな顧客接点になる可能性もあるので、開発の余地が大いにあると思います。
若い世代に古着が人気のように、消費価値観も変わってきているので、このリペア&リユースの市場もどう発展していくのか楽しみです。

篠崎美絵
トリニティ株式会社 執行役員                    デザインコンサルタント・クリエイティブ・ディレクター
インテリアデザイン事務所でファッションブランドのブティックをはじめとする商業空間の内装設計に従事。ミラノ工科大学にてデザイン戦略のマスターコースを取得後、2003年にトリニティに入社。
デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定、及びトレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当。

https://trinitydesign.jp/



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