想いを実現するため、モノづくりもマーケティングも真っすぐ向き合いたい【第3回 池田紀行のマーケ飯】
代表の池田(@ikedanoriyuki)が、さまざまなフィールドの第一線で活躍されている方とご飯を食べながらカジュアルに議論する企画「マーケ飯」。
第3回のゲストは、着物の新しい価値を生み出すアパレルブランド「keniamarilia(ケニアマリリア)」を立ち上げた座波ケニアさん(@kekekeity)。
keniamariliaは、「日常の延長線上に新しい和服の選択肢があるブランドでありたい」という想いのもと、着物から仕立てたシャツやスカート、スカーフを販売しています。ECサイトで販売が開始されるとすぐに完売するほどの人気ぶりで、現在急成長中のブランドです。
日ごろからTwitterを通じて交流している2人ですが、座波さんのひたむきさや夢へ向かって全力で突き進む姿勢に惹かれた池田がオファーし、今回の対談が実現しました。
テーマは「想いを実現する考え方や行動とは」です。
人はどのようにゴールや理想、そして仕事と向き合うべきか。また、想いを形にするために座波さんはどのように考え、行動してきたのか。2人で存分に語っていただきました!
keniamarilia 代表 座波 ケニア 氏
1986年ブラジル、サンパウロ生まれ、幼少期に日本へ移住。服飾の専門学校を卒業後、2社のアパレル会社を経て2019年6月に着物アパレルブランド「keniamarilia」を立ち上げ。
トライバルメディアハウス 代表取締役社長 池田 紀行
1973年 横浜出身。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援する。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。 『キズナのマーケティング』『ソーシャルインフルエンス』『次世代共創マーケティング』など、著書・共著書多数。
「keniamarilia」は、こうして生まれた
池田:「keniamarilia」がすごく好調ですね。毎回、商品を販売すると一瞬で売り切れてしまうと聞いています。ブランドを立ち上げてもうどのくらい経ちました?
座波:今年で2年目になりますね。商品はもう500点くらい作ったんじゃないでしょうか。
池田:座波さんの活動やクチコミを見ていると、keniamariliaはもう生活者が「ただ名前を知っているブランド」というよりも「想いやストーリーまで理解されているブランド」になりつつある気がしています。
座波さんのストーリーや想いが、keniamariliaというブランドを通じて生活者の手に渡っていく感じといいますか。このブランドを通して、目指しているものは何なんでしょう?
座波:私は、keniamariliaを通して日本の着物産業と着物文化を存続させたいんですよね。いまの着物産業には、後継者や生産量の減少、文化の衰退など課題が山のようにあります。それに、着物を着る機会のほとんどが式典や冠婚葬祭、四季のイベントに限られてしまっているじゃないですか。少しずつ、でも確実に生活者の意識や日常生活から着物が離れてしまっている。着物は、もっと私服として気軽に着られる存在になってほしいんです。
だから私は、着物が生活のなかに溶け込んで、いろいろなシーンで必要とされる状態を目指したい。「着物」という形だけじゃなくて、生地である反物が「日用品」として使用されるような新しい形を見つけてもいいと思います。反物の需要が増えれば、生産量も増えるので、着物産業の底上げができる。そうすれば、着物文化を未来に残すことができるんです。
池田:単純に着物が好きだからということではなく、日本の着物文化や伝統、それを支えるサプライチェーンの存続まで考えていたんですね。その並々ならぬ情熱はどこからきているんでしょうか?
座波:着物にこだわりを持ち始めた原体験は、成人式の時ですね。小さいときから日本で育ってきたけど、自分が外国人であることは変わらないじゃないですか。だから、ブラジル人である私が成人式で振袖を着ていいものか、かなりためらいがあったんです。
そんな不安を抱えながら振袖のレンタル屋さんに行ったんですけど、店員さんたちは「これ似合いそうよー!」「わぁ、かわいい!」とか言って盛り上がりながらいろいろと試着させてくれて。私はそれが本当に本当に嬉しくて、試着しながら泣いちゃったんです(笑)。私が着物文化に触れることを温かく受け入れてくれたことで、私の悩みも一瞬で吹き飛びました。
日本に長く住んでいても心の片隅にあった“日本の文化には馴染めない”という疎外感が、そこでやっと解消されたというか。そのときに「こんなに良くしてもらったんだから、(着物を通じて)なにかお返しをしなきゃ」と意識し始めたことが着物にこだわる理由なんです。
池田:なるほど。そこから、着物のブランドを作ろうと決心したと。
座波:ちゃんとブランドを立ち上げようと心に決めたのは、また別の体験からですね。私は「HEAVENESE(ヘヴニーズ)」というエデュテイメント一座の衣装を担当しているんですが、以前彼らの世界ツアーに帯同したときが、keniamariliaを立ち上げるターニングポイントになっています。
ツアーでエチオピアに行ったとき、ツアー衣装の着物を目にしたエチオピアの人たちが大興奮していて。日本文化に対する熱狂度にものすごく圧倒されたんです……!
世界にはこれだけ「着物」や「日本文化」を熱狂的に受け入れてくれる土壌があるのに、国内に目を向けると着物に関してあらゆる課題が山積みになっている。誰かがこの問題に一石を投じないと着物が衰退してしまう状態なら「私がこの問題に取り組んだって、いいじゃないか!」と強く思ったんです。そうしてブランドを作ることを決めました。
ゴールに対して、自分の現在地を正しく知る
池田:座波さんの着物業界への強い問題意識はそういったところからきていたんですね。ブランドの立ち上げを決めてからは、すぐに取り掛かったんですか?
座波:いえ、すぐには作りませんでした。私はモノ(服)の作り方は知っていたけれど、売り方は知らなかったので、とにかく情報収集をしようとTwitterをはじめました(笑)。
マーケティングに関わる人を片っ端からフォローして、その人たちが注目していることやコメントを追いかけ続けたんです。
同時に友達をつくることも目的にしていたんで、話してみたいと思った人にどんどんDMを送って、相談したり協力してもらったりしてました。とにかく、自分が知らないことはその業界で活躍している人に「教えてください!」と頼むという(笑)。マーケティングについてなにも知らない人から急にたくさん質問されて、相手も相当困惑していたと思うんですけど、お陰でたくさんの人に存在を知ってもらえました。
Twitterを始めた当初はブランドを作ることは伏せていたんですが、いざブランドを作ると発表したら本当にたくさんの人が応援してくれて、嬉しかったですね。いろいろ学ばせてもらったり、仲良くしてもらえたり、感謝しかないです!
池田:サラッと言ってるけど、よくよく考えると本当にすごいことをしていますよね。ブランドを立ち上げるためとはいえ、なりふり構わず誰かに突進してマーケティングを学ぼうとしているわけじゃないですか。ほとんどの人は、物怖じしてそんなことできないんじゃないかと……(笑)。
座波さんはそうやって持ち前のキャラクターでどんどんマーケティングの理論を身につけ、ブランドを立ち上げてからは実践にも活かしている。理論と実践のどちらも熱心に取り組んでいるわけだから、並みのマーケターよりマーケティングに詳しいかもしれないですね。
座波:(ブランドを立ち上げるために)必要なことをどんどん聞きたかったので、いろんな人に体当たりしてマーケティングを学んできました。目的ありきでやっているから、自分が「知らない」ことは大きなリスクだと思ったんです。
池田:そこまで強い意識を持って、物怖じせず進んでいけるのはなぜでしょうか?
座波:いろんな人に「教えてください」と言い続けられたのは、「いま自分が居る場所はゴールからどのくらい離れているか」しか考えていないから。私は自分のことを“ポジティブな心配性”だと思っているんですけど、それは「あれがない、これがない」と悲観するのではなくて、「あれもこれも準備する・解決する、それから実行したい」と思うことなんです。
「ブランドを立ち上げる」という夢を実現するために、何が必要なのかを考え続けていたので、どんな形でもいいから理論を学ぼうとしていたのかもしれません。
池田:ゴールに対して自分がいまいる場所を明確に捉えることができていたってことですね。多くの人がやりがちな他者と自分を比べて優劣をつける相対評価ではなく、ゴールに対してどの程度近づけているかという絶対評価で考えている。
座波:そうですね。他者は私じゃないので。分からないことや悩んでいることを(体当たりしてでも)とことん聞いて、情報を集めていくことはブランドを立ち上げるために絶対に必要だと思っていました。他の人がどんなことをしているかとか、成功しているかどうかとか、全く気にしていなかったです。
与えられたものが何であろうと、成長の糧にする
池田:着物や服のために、そこまで体当たりで物事に向かっていけるのは本当にすごいなと思います。服を作ることは昔から好きだったんですか?
座波:小さいときから、服の絵を描いたり何かを作ったりすることはとても好きでしたね。母親が買ってきてくれた手芸雑誌を見ていろいろ作ってみたり、小学5年生の時には自分でスカートを作ってみたり。デタラメな作りでも、自分が作りたいものを作れたことがとても嬉しかった記憶があります。
そういう経験から自分がイメージしたモノは頑張れば具現化できるということを学びました。それに、家族が「ないものは作ればいい」という考えだったので、モノを作ることに対して抵抗がなかったんだと思います。
池田:小学5年生で服を作っちゃうのはすごい! そこから服飾関係に興味を持ち始めたと。
座波:そうですね。どんどんファッションに興味をもって、ブランドのコレクションも見るようになって。中学生のころには、デザインやファッションの勉強をしたい、ブランドを立ち上げたいという強い想いが芽生えていました。
でも、当時はファッションデザインが学べる高校が近くになかったんです。だから将来アパレルブランドを立ち上げるときに、絶対必要になるお金の勉強を先にしようと商業高校に進みました。自分に与えられた「進学」という選択肢のなかで、「アパレルブランドを立ち上げる」というゴールに一番近づけるのが商業高校で簿記や流通について学ぶことだと感じたので。
その時に教わった流通経済の先生がとても素晴らしい人で、私が教わっていた15年くらい前から「コト消費」が顕在化することを予測していたんです。今後やってくるそういう時のために自分のパーソナリティを磨けと言い続けていました。その先生の言葉を聞いてから、ゴールに向き合うことにさらに真剣になったと思います。
池田:自分の中のゴールが明確だったとはいえ、ファッションデザインが学べないから先にお金の勉強から始めるというのは実に面白い発想ですね。それに「モノからコトへ」を言う人は多いけど、パーソナリティを磨けとアドバイスしてくれる先生と出会えるとは……。きっと先見の明に長けた先生だったんですね。いまからお礼に言いに行ったほうがいいかもしれない(笑)。高校を卒業した後は、どうしたんですか?
座波:高校を卒業したあとは、町工場で2年間アルバイトをしてお金を貯めて、そのお金でバンタンデザイン研究所(※)の2年制学部に進学して、ファッションの勉強をしました。
バンタンにいた時も、本当によい学びや出会いがたくさんありました。当時はさまざまなデザインを作ってみてもどうしても“どこかで見たことがある服”のような気がして、少しでもオリジナリティを出すことに躍起になってたんです。
そんなとき、ある先生が「足が2本入る時点でズボンにオリジナリティはない。けれども、座波ケニアという精神性は誰にもマネすることはできない。だからデザインを深掘りする前に、自分を作りあげろ」と教えてくれて。
私自身のアイデンティティーを練りあげないと、作品に「私自身」を吹き込むことができない。私はこの言葉を聞いて、すごく安心したんですよね。トレンチコートを作ろうが、シャツを作ろうが、座波ケニアという人間から生みだされる時点でオリジナリティがあるのだ、と自信を持つキッカケになりました。
※ ファッション・ヘアメイク・映像などのクリエイティブのプロを育てる専門校。
池田:卒業後は、ちゃんと学んだことを活かせる職場にいけました?
座波:卒業後は、アパレルのOEMをしている会社に入りました。入社する時に「デザイナー志望」と言っていたのに、社長から「この会社で何が売れているかわからないだろうから、まずは営業をやれ」って言われていきなり営業に配属されて。希望と違うことにめちゃくちゃ落ち込んで。でもそれが現実だったんですよ。
仕事はそのときの自分の実力に見合ったものしか与えられないんです。だから、「自分の実力や努力が足りないから、まだデザイナーにはなれないんだ」とすぐに考え直して、営業という与えられた仕事に一生懸命向き合いました。
営業として働いてみると、業界内の事情とか業者同士のパワーバランスが見えてきて、仕組みや立ち回り方も理解できるようになったので、その経験はいまとても役に立っています。
池田:なるほど。自分の希望通りにならなくても腐ることなく頑張った結果、得られた経験や知識が糧になっているということですね。
座波:環境や仕事は、周りから私に「与えられるもの」だと考えているので、与えられたものが何であろうと、いまの私に必要な学びがあるはずなんです。だから学んだことを自分の血肉としながら乗り越えていくしかないんですよね。それをいかに楽しめるかは、その人の性格とか技量にもよると思いますけど……。
与えられた仕事・役割は(現状の)私に最適なものであり、一方でそれに見合わないと判断されれば一度与えられたものであっても取り上げられてしまう。いつ私の前からなくなってしまうかわからない。だからどんなに小さいことでも成長のチャンスだと捉えて、私は目の前にあることをひたすらやり続けていくしかないと思っています。
池田:若いうちからそういう意識をちゃんと行動に落とせていることがすごいですよね。その会社では、最終的にデザイナーになれたんですか?
座波:デザイナーになれました! 結局、営業やデザインだけじゃなくて、生産管理なども経験させてもらいました。ただ、ちょっと身体的にも精神的にも疲れてしまったので、2年働いたあとは夢から一旦距離を置いて、休む期間にしちゃいました。
そのまま東京で一人暮らしをしながらドラッグストアでアルバイトを始めたんです。このドラッグストアがとても面白くて、商品が売れればなんでも良いっていう方針だったんですよ。アルバイトにも商品発注の裁量が与えられていたので、いろいろと試行錯誤しながら発注したり、商品棚に変化を加えてみたりと小売の基礎を学べたのはラッキーでした。
そんなこんなで頑張って3年働いたら、店長候補にまで登りつめちゃったんですけど(笑)。
池田:3年も! ずいぶん長く働いてたんですね。
座波:そうなんですよ。その時にハッと我に返って「私、ブランドを作りたかったんじゃなかったっけ? アパレルに戻らなきゃ!」と思い出して。ドラッグストアを辞めて、またアパレル会社に就職して、生産管理の基礎を学び尽くすまで絶対に辞めないと決めて、4年間全力で続けましたね。
そのあとブランド立ち上げ準備のため生産管理の仕事は辞めて、またドラッグストアのアルバイトをしながら、HEAVENESEの衣装作りとフリーで衣装制作の仕事をしていました。
池田:そこから、冒頭で話していたブランド立ち上げの話につながるわけですね。さまざまな経験をしてきていますが、ゴールに対する軸は全くブレていない。いつか自分が登ろうと思っている山のことをずっと見続けているし、頂上にどんな旗をたてたいのかという想いや、いつまでにどうすれば頂上へ到達できるのか、というイメージが具体的な感じがします。
座波:そうかもしれないですね。ドラッグストアにいた時も、現場から少し離れているとはいえフリーで縫う仕事をしていて、ゴールに向かって前進していると考えていたので全く心配していなかったですし。
似た想いを持つ人たちへ伝えたいこと
池田:これまでのお話で、keniamariliaは着物への想いだけじゃなくて、座波さんが長い年月をかけて体験してきたストーリーが積み重なって出来上がったブランドだということがよくわかりました。そうした積み重ねや座波さんのアイデンティティーが、ブランドを通じて生活者に伝わっているから、愛されているんでしょうね。
「ブランドを作る」という夢に対して真っすぐに向き合い続けてきたからこそ、理論を学ぶことや実践することに熱心で、結果的には自分の糧になっている。
座波さんのように強い信念を持って目標と向き合える人はなかなか居ないでしょうしトレースすることも難しいと思いますが、同じようにアパレルブランドを立ち上げたり、文化維持に貢献したりしたいと考えている人は多いはずです。そういった人たちには何を伝えたいですか?
座波:モノづくりを目指す人たちには、周りに惑わされず自分の成すべきことを成し遂げてほしいです。それと、マーケティングをやっている人たちには、モノづくりの背景にある想いまでちゃんと理解したうえで寄り添ってもらいたい。想いを成就させる手段としてマーケティングが存在しているのだから、小手先だけの手法ではなくて、広く大きい視野でマーケティングをしてほしいですね。
あとこれはみんなに言えることだと思うんですけど、社会は多くの人が協力し合ってなにかを成し遂げているので、やりたいことがある人だけが偉いわけではないんですよね。好きなことに出会うまで時間がかかるのであれば、まずは誰かを支援することを考えてもいいかもしれない。まずは与えられた仕事と全力で向き合って、道を切り拓いてみてください!
池田:本日はありがとうございました。着物産業と着物文化を存続させるという座波さんの取り組みは始まったばかりですが、引き続き応援しています! 今度僕のシャツも作ってください(笑)。
座波:ぜひ!(笑)
・・・
「想いを実現するための考え方や行動について」というテーマで展開された今回の議論。理想の環境や仕事を実現するためには、どのように考えて、行動していくべきなのかを考えるキッカケになれば嬉しいです。
「マーケ飯」では、今後もさまざまなフィールドの第一線で活躍されている方と池田のトークを発信していきますので、どうぞご期待ください!
これまで公開したマーケ飯の記事は、以下よりご覧いただけます。
▼座波さんが手掛ける着物ブランド「keniamarilia」のサイトはこちら
▼2人のTwitter・noteアカウントはこちら
座波 ケニア 氏
Twitter @kekekeity
池田 紀行
Twitter @ikedanoriyuki
note https://note.com/ikedanoriyuki
今回収録で伺ったお店は、表参道にある地中海料理の人気店「CICADA」さん。シックな雰囲気のなかで味わうコースは絶品でした(写真はコースメニューのホタテのリゾット)。撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
CICADA
〒107-0062
東京都港区南青山5-7-28
https://www.tysons.jp/cicada/
※新型ウイルス感染症防止対策に配慮のうえ収録を行っています。