記念樹事件
こんにちは。
以前に、「あっぱれさんま大先生」という番組があったのですが、子ども相手に話のパスを回して、最後に笑いというゴールを決めれるという一流プレーヤーの凄さに震えていた松下です。
今日は、そんなあっぱれさんま大先生のエンディングテーマに使われていた曲が問題となった「記念樹事件」(東京高判平成14年9月6日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
服部克久氏は「記念樹」という合唱曲を作曲しました。この曲は、小学校の卒業式などで歌われるほど、人気のある曲でした。
一方、「あわてんぼうのサンタクロース」の作曲などで有名な小林亜星氏は、以前に『どこまでも行こう』というCMソングを作曲していました。
小林氏が「記念樹」を聞いたときに、「わたしの『どこまでも行こう』という曲とそっくりじゃないか」と主張しました。これに対して服部氏が「盗作ではなくオリジナル作品だ」と反論したことで、小林氏は服部氏と「どこまでも行こう」の著作権者である金井音楽出版に対して、著作権侵害を理由に1億円の損害賠償を求めたのです。
2 小林亜星氏の主張
「記念樹」と「どこまで行こう」は全体の約72%が同一音である。また「どこまでも行こう」はもともとテレビCMの音楽として繰り返し大量に放送されてきたので、日本人なら知らない者がいないほど認知されている。だから、服部氏がこの曲を知らないということはあり得ないはずだ。
3 服部克久氏の主張
「記念樹」は「どこまでも行こう」とは別の楽曲です。「どこまでも行こう」は頑張って前進しようという勇気を与える曲ですが、「記念樹」は卒業式で学校生活を回想して歌うことを念頭において作られた感動的な曲です。先生や友達との別れに際し、過去を思い出しながら感情が込み上げてくるような曲ですので、曲全体の雰囲気が違いますし、拍子、リズム、テンポも本質的に違うのです。
4 東京高等裁判所の判決
各フレーズの最初の3音以上と最後の音が一致していること、メロディーの72%が同じ高さなど、表現における本質的な特徴に同一性があるので、偶然の一致とは考えられず、また「記念樹」は著名な「どこまでも行こう」に依拠していたと考えられる。よって、服部氏と金井音楽出版は小林氏に対して約940万円を支払え。
5 編曲権の侵害
著作権法27条では、著作物(音楽の著作物)を編曲する権利を著作者(作曲家)に専有させるとしています。
【著作権法27条】
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
今回のケースで裁判所は、①楽曲の本質的な特徴と同一性(類似性)があること、②誰もが知っている有名な曲なので依拠性があること、を理由に編曲権の侵害だと認定しました。
逆に全く無名の曲と同じフレーズの曲であった場合には、以前にその曲を聞いていたことを証明することが難しくなる可能性があります。
いずれにせよ、他人の楽曲と同じ曲調にならないように常に注意しておくことが重要でしょうね(ただし平原綾香さんの名曲「ジュピター」のように、原曲となったホルスト「木星」の著作権が切れているので問題とならなかった場合もあります)。
では、今日はこの辺で、また。